同じ境遇
曇り空の今日、へきると一緒に俺たちは町を歩いていた。
王都の町はまだ散策したりない。どこになにがあるかとかまだ分かっていないからこそ、そういうのを知っておくと買い物とか行くときに便利だろう。
「ここは住宅街っぽいねぇ。店とかはなさそうだよ?」
「みたいだな……。引き返すか」
現代日本だと住宅街に隠れたカフェとかあることはあるが、看板のようなものもなにもないからきっと先に進んでもただの人様の住宅しかないだろう。それはそれでちょっとつまんないので俺たちは引き返そうと振り返った。
すると、どしんと俺に何かがぶつかってくる。
「きゃっ」
「あ、ごめんなさい」
人にぶつかってしまった。
外套をかぶった人は尻もちをつく。
「もー、ひよくん何やってんのー! 大丈夫? 立てる?」
「はい……ご親切にどうも……」
へきるが手を差し伸べ、その手を取り立ち上がる。
「助かりました……」
「いいよいいよー! うちのひよくんがごめんねぇ。それで君なんでそんな深く外套かぶってんの? 天気いいし暑いでしょ。脱いだら?」
「あ、いえ……。それよりここに私の連れがいるんですが……」
「連れ?」
そういうと、後ろからおーいという声が聞こえてきた。
そっちの男の人は外套をかぶっておらず、普通に話しかけてきた。怪しい女の子だなと思ってはいたけど、連れが顔を隠してないしただただシャイってだけなのか?
「あ、すいませんね。うちのが……。恥ずかしがりやなもんで」
「そっかー! 恥ずかしいのかー! 仕方ないね! でも、お兄さん。この国の人に見えないけどどこから来たの?」
「あぁ、ちょっと異世界から」
「いせ、かい?」
今なんて言った?
「え、異世界……?」
「あはは、なーんて……」
「それって日本か?」
「え」
俺がそう聞くと、二人はぽかんとしていた。
とりあえず違うところで話をしようと、適当なカフェの中に入り、話を聞くことにした。
「改めて……そっちもこの国に勇者と聖女として召喚されたんだ」
「そー! 同じ境遇とはねー! 二人も勇者がいるなんて!」
「いや、考えられたパターンだろ。人類にとって魔王は脅威なんだからどの国でも勇者を召喚してってのは普通にありうる」
「……」
「そっちの子が聖女としてきたパターンだね。でもフード取らないね? 可愛い顔を見せてほしいなー」
「……事情があんのか?」
「えぇと……この子っていうか、こいつ、その……元の世界では男でして……」
まじか。
「マジ? 俺も俺も」
「えっ」
「俺も元の世界では男だったんだよ」
「え、そう、なの?」
フードの子がフードを取ってその姿をあらわにしていた。
金髪の巨乳お姉さん……! もろタイプ。っつーか、同じ男だとして胸と身長の格差えぐくないか? 俺ロリ体形で胸がないんですけど。
「僕こんなになっちゃって……とても恥ずかしくて……。でも同じ境遇の人がいてちょっと安心しました……」
「……体形じゃひよくんの負けだね?」
「黙れ。俺も女の子になるならせめておっぱい欲しかった……」
ちょっと悔しい。
「じゃあ、その……」
「あ、志島 へきるね。私はもともと女の子だよん」
「そうなのか。ああ、自己紹介な。俺は桐島 文吾。こっちがもともとは明智 光秀っていう名前だったんだが……」
「父さんが歴史オタクで明智って名前だったから光秀です……」
「裏切りそう」
「よく言われます……」
あと本能寺を燃やしてそう。
「でも、光秀ってのは女の子に似合わない名前だからみつと呼んでる」
「へぇ。あ、俺は巻島 日和」
それにしてもみつがもともと男の子か。性格からして気弱な……。
「俺らはアズマーン帝国に勇者として召喚されたんだけどよ、魔王が人類の脅威でないから必要ないってされて捨てられたんだ。必死に彷徨ってこの国に来たんだよ」
「アズマーン帝国ってどこ?」
「さぁ……」
この国の地理すらわからないのにアズマーン帝国がどこにあるかなんてわかるわけがない。それは相手側も同じのようで、地図を当てせずただただまっすぐ北を目指していたらたどり着いたとのことだった。
そろいもそろってこの世界の地理を知らない。
「同じ境遇の人がいるんなら心強いし、この国にしばらくいようかな」
「そう、だね……」
「冒険者でもして日銭稼いでよ。チートスキルがあるから魔物討伐は余裕だしな!」
「……チートスキル!? そんなんあるの!?」
「え、知らないのか? この世界に来た異世界人は何かしらスキルがあるらしいんだよ。俺は全属性魔法っていうスキルだけど」
「……ひよくん! 王城に行って調べてもらお!」
「聖女のほうもチートみたいなものがあってな、みつの場合はすごく少ない魔力の消費で回復魔法が使えたりするんだ」
「ん、じゃあ俺は相当魔力量が多いみたいだからそれがチートなのかな」
なるほど。魔力量が多い理由はそういうチートみたいな理由なのか。
異世界っていうのはこうでなくちゃな。ちょっと物語の主人公みたいで心が躍る。
「ひよくん行くよ! あ、これ飲み物の代金! 払っておいてね!」
「お前どんだけチートスキルが欲しいんだよ」