もう一つのエピローグ:女神の粛清
あれはなんだ。
「帝王様! 先日捕らえ配下にしたはずの勇者が突然帝国を襲撃!」
「なんだと!? 勇者を向かわせろ!」
「それが……」
窓の外に広がる景色は破壊の光景だった。
感情を失った一人の少女がただひたすらに同級生を皆殺しにしていく。一般市民には目もくれず、自分をこんな目に会わせた同級生と帝国に強い憎悪を抱くへきるの姿。
帝王はその姿を見た瞬間、威圧で体が思わずすくんでしまう。
「い、今すぐ逃げるのだ……! あれには敵わん……!」
生物としての防衛本能というべきだろうか、勝てないと悟らせるだけのオーラを放っていた。
だがしかし、その瞬間付き人の頭に剣が飛んできたのだった。飛んできた方向を見ると、無機質な目を向けてくる少女がこちらを見ている。
「馬鹿な!? ここから街までは結構な距離……そこから視認できているというのか!?」
付き人の死体を無視し、帝王は必死に城内を走り回っていた。
勇者が全員死亡し、頼れる味方もいない。独りとなってしまった帝王はひたすら自分の命の無事を希う。今まで踏みにじってきた人たちの命を顧みる事もなく。
だがしかし、絶望は目の前に立っていた。
「そ、そうだ! お前を国王にしてやろう! なんでもやるぞ! なんでもやらせてやるぞ!」
少女が目の前に立ち塞がる。
つい先ほどまで遠くにいたはずの少女がなぜここにいるのかはわかっていなかったが、自分の死を本能的に悟った。が、信じたくなかった。
自分が信じた覇道がここで終わるなんて考えたくもなかった。
「もうどうでもいい……」
だが少女には権力も金も通じない。
最愛の人を自らの手で殺してしまった罪悪感からすべて投げやりな態度になっていた。そして、そのまま少女は剣を振り下ろす。
帝王は有無を言うこともなく命を落とした。
だがしかし、意識が覚醒する。
何もない真っ白な空間。向かわせた勇者たちがこぞっている空間に飛ばされていた。
「どこだここは……?」
「帝王様もいらしたのですかここに」
困惑していると、ウクレレを弾いて現れるアロハシャツの女神様。
彼らは本能的に彼女が女神だと悟る。敵わない相手だと理解する。
「元気かーい?」
「貴様は……」
「はいはーい。もう死人の分際でそんな偉そうにするのはやめようねぇ」
女神は鋭い視線を帝王に向けると、帝王は口を突然ふさがれ喋れなくなった。
「君達さぁ……。やりすぎ。いくら浮かれてるからといえどそんな傍若無人、許せると思う? 帝王に関しては勝手に空間の狭間開きやがってさぁ。後処理めんどくさかったんだよ?」
「ひっ……」
伊地知はおびえていた。
とてつもなく恐怖を感じる相手。それは帝王とヒヨリたちのクラスメイトも同じく感じている。
「ただ死ぬだけじゃやっぱりバツとしては甘いよねー。普段は人間のことにはあまり関与はしないようにしてるんだけど……君たちは別。君たちは呼び寄せたつもりはないのに勝手に暴れちゃってさ。転送しようとしたら拒否しやがって。あっちの女神にしこたま嫌味言われたんだぞこちとら」
「お、俺たちはどうなる……」
「どうなる? 知らなくていいんだよ。どうせ知ることになるんだから。そうだな……。まず君たちに普通の輪廻転生の権利は与えないよ」
女神は静かに言い放つ。
戻らせようとしたら拒否されたというのもあり、相当恨みがたまっていた。というのも、伊地知たちがこの世界に滞在するのにも大きな問題があったのだ。
無理に開けて呼び寄せたせいであちらとこちらが永久的につながってしまうことになりそうだったのだ。女神はその処理にも追われ、地球の女神からも怒られて世界が終わりかけていた。
女神が返せるときに返せたらマシな結果に終わった。が、拒否されたので転送ができず世界が秘密裏に終わりかけていた。
「人間の分際でよくそんなことをしたね。方法はあとで調べてみるけど……君たちは世界を終わらせようとしてたのかな」
「そんなことは……! だ、第一俺らを呼んだ帝王が悪い……」
「だからさっき言ったよね? 転送しようとしたらどいつもこいつも浮かれて拒否しやがって。一人や二人ならまだしもこんな人数は世界が終わりかねないんだよ穴の大きさ的に」
「ひっ……じゃ、じゃあ俺たちは受け入れてやるよ! で、でもそれだったら小野瀬とか志島とかだって連れてこられた奴だろうが!」
「あ? 口答えするほど偉くなったつもりでいるんじゃねえぞ。勇者へきる、聖女ヒヨリはこっちが招き入れたんだ。正式な手続きを取ったに決まってんだろ。それに小野瀬は私が許した」
「ず、ずる……」
「ずるい? 小野瀬はきちんと反省してたじゃねえか。反省できる子は女神様好きです」
「お、俺らも反省するよ……だから……」
「そんな見てくれだけの反省が分からねえと思ってんのかこちとら神だぞ」
女神はウクレレをへし折った。
「さぁ選べよ。最後の慈悲だ。永久的に畜生に転生し続けるか、それとも無間地獄に落ちるか。どっちがいい?」
「……俺は」
「わしは畜生でもよい! 転生を……」
「いいだろう」
帝王は転生する権利を得た。
そして、ブタとなって転生した。自我はあった。が、目の前には見たこともない機械が飛んできて、しびれたかと思うとすぐに殺される。
そしてまた今度は犬に転生。だがしかし生まれてすぐに母犬にかみ殺される。もちろん自我はあった。
帝王はすぐに転生しては死ぬことを繰り返すこととなったのだった。
「俺らは無限地獄のほうで……」
「ああ、そう」
無間地獄に放り込まれた伊地知たち。
何もない空間、ただ唯一残された自我。
永久に時がたっても何もなく、転生もなければ面白いことも何もない。無限の暇が与えられる。死ぬことなんてできず、ただただぼーっとしてるだけを強要されていた。
地球である話に五億年ボタンというものがあるが、それよりさらに多く、期限はない。ずっと無の牢獄に囚われてしまうのだった。




