ごめんね、ただいま
「おりゃぁあああああ! どっせーーーーい!」
俺は猫の姿のままへきるにドロップキック。
へきるは難なく俺のドロップキックを受け止めていた。フィジカルお化けめ。
「猫ちゃん……?」
「勇者へきる殿。探しましたよ」
「アイナさん……」
へきるは5年でずいぶんと大人になった。
身長もちょっと伸びており、オトナな女の雰囲気を醸し出している。ちょっといい女になったんじゃないの……?
「へきるちゃん。もう王国はあなたを許しているわ。戻ってきなさいな」
「そうです。勇者の称号は剥奪されるかもしれませんが……。勇者の称号は大事なものではないでしょう。あなたにとって」
二人はそう説得を試みていた。
へきるは死んだ目で、首を振る。
「だめなんです。私はもうどこへも行けない。道しるべにしてたひよくんをこの手で殺してしまった。私はもう動けない」
「へきる殿……」
「気が付いてないの?」
「……おいへきる。俺の猫の姿見たことあっただろお前」
変身魔法の猫の姿だぞ今俺は。
しょうがない。俺は変身魔法をかけた。俺の姿が人間に戻っていく。
へきるは目を真ん丸くして、言葉を詰まらせていた。
「一回殺された程度で俺が死ぬタマかよ。精霊に転生するって言われてたのすっかり忘れてたんだわ」
「ひよくんっ!」
へきるは俺に抱き着いてきた。
その目からは涙があふれ、何度も俺の名前を呼ぶ。俺もごめん。と一言謝っておいた。
「ごめんね……! 私のほうこそごめんね……! あんなふうに洗脳されちゃって……大好きなひよくんまで殺しちゃって……! 私はもう死にたかった! ひよくんがいない世界は嫌だった……。でもひよくんは生き返ってくれた! ありがとう……ありがとう……」
「生き返ったっつーより精霊になったっていうんだけどな。ただいま、へきる」
「おかえり……!」
へきるはひとしきり泣きじゃくった後、涙をぬぐう。
そして、今の俺の現状を説明する。
「つまりひよくんは私の剣からあまり離れられないの?」
「そういうこと。これに宿ってる精霊だから。ってか剣をおいてくなよお前。そのせいで俺大変だったんだぞ」
「ですがカタリナ様がいなかったら我々どころかへきる殿にも見えなかったのでは?」
「うっ……」
アイナさんの指摘がごもっともすぎる。
カタリナ様が精霊を視認できたからこそ、俺はこうしてへきるに認識されるようになった。つまりおいていくことが正解だったのかもしれない。
だってへきるに見られてなかったらへきるこんな人が来ないところで過ごしてるし一生未発見のままだったかもしれない。
へきるは目じりに涙を浮かべていた。
「ひよくん。ごめんなさい……。私がひよくんをそんな精霊のままにして……人間でいたかったはずなのに……」
「気にすんなよ。俺はへきるといられることが幸せだから。それ以外は何も望んでない。へきると一緒なら俺がどんな姿であれど構わんさ。へきるは俺がどんな姿になっても好きでいてくれるんだろ?」
「うん……でも……」
「へきる。いやだっつーんなら俺じゃなくて他の迷惑かけた人たちにいろいろすべきだぞ。お前にとって必要なのは赦しなんだろ? 俺は赦した。俺に対する罪悪感はそれでいいじゃねえか」
たしかに人間じゃない姿になった。それが何だっていうんだ。
俺はもうこの姿になって吹っ切れたぞ。
「だからへきる。自分を許してやれとは言わない。ただ、向き合い方を変えてみろ。お前が向き合うのはここで一人で過ごすことじゃないだろ」
「……うん」
「どうすればいいかはわかるよな」
「うん……」
仕方のない奴だ。やはりへきるには俺がいてやんないとな。
次最終話です。




