魔王、来訪
へきるが訓練に向かい、俺は一人で部屋に残っていた。
回復魔法の基礎は大方習得したし、もう聖女の力を余すことなくとは言えないが、そこそこ使えるようにはなってるから俺は学ぶことはないし……。俺って向上心があまりない気がするな。
まぁ、異世界来て今までめちゃくちゃ働いてるし今日ぐらい休んでも誰も文句は言わないだろう。
「今でも慣れないな、お風呂とかトイレは……」
女の子の体になって未だに慣れないのはまだある。
自分の体を見ると、ちょっと未だに憂鬱になる。俺はそんなアンニュイな感じで今日も一日を過ごそうとしていた時、部屋をノックされて侍女の人たちが中へ入ってきた。
「ヒヨリ様。お客様がお見えになりました」
「俺にお客様?」
「はい。国王様が直ちに会議室へ来てほしいとのことで」
というので、俺は侍女の人に案内してもらって会議室へと向かう。
俺のお客さんというが、俺との知り合いのこの国の人って冒険者の人ぐらいしかないんだが。昨日の崩落事故のことでなんかあったりするんだろうか。
そう思いながら会議室の扉をノックして中へと入る。
会議室には国王様と黒髪で目が黒くなっている人間かどうかちょっと怪しげな眼鏡をかけた女の人が座っていた。
こんな冒険者いない……な? っていうか誰だ。なんで私を呼び寄せたんだ?
「お、遅れました。ひより、です?」
「来たか!」
「そこに座ってくれ。堅苦しくなくてよい」
というので、俺は椅子に座るのだった。
「初めまして! 君が異世界から来た聖女様だね!」
「え、あ、そうですけど……」
女の人は俺にぐいっと近づいて手を握る。
ん? なんか人間じゃない魔力を感じる。
「やっぱり私好みだ……!」
「えっ」
「ごめんね。自己紹介をしよう。私の名前は魔王ヴォルテ。君を異世界に呼び寄せてしまった張本人サ!」
「えっ」
まさかの魔王様?
国王様は魔王様は人間に友好的にしてくれていると前に言っていたが、その魔王が今来ちゃったの? なんで?
いや、まぁ、たしかに結構魔力がありそうな感じだし、魔王ですって言われても不思議じゃない魔力はある。
「突然だが、ひよりクンっ! 君は今好きな子、付き合ってる子はいるのカナ!?」
「えっ、いや、付き合ってる子はいませんが……」
好きな子、か。
好きなこと言われて頭に思い浮かんだのはへきるの顔。そうなんだよなぁ。へきるは俺の気持ちに気づいてないけど、俺は昔から……。
って今は俺の気持ちはどうでもいいんだ。魔王様の質問の真意はなんなんだ?
真意はわからないが、とてつもなくろくでもないことというか、いやな予感がする。
出来うることならば、俺はこの場から一刻も早く逃げ去りたいという謎の危険信号が出ている。それ以上先は口を開かないでほしいという思いがなぜかある。
「そう? 付き合ってる子はいないんだァ……」
「…………はい。でも好きな子は」
「ならばひよりクン! 私と結婚を前提にお付き合いしないカナ!?」
嫌な予感はこれかーーーーーーっ!!!




