#3:さあ、旅立ちの時
ラーマです。
月日は巡って、そんな私も無事に、成人となる16歳を迎えました。
成人を迎えたという事なんですが、似たように成人した村娘たちは、幼馴染と結婚をして家庭を作っていたりするのがチラホラといたりもします。
まぁ、自分にはそういう幼馴染とかいう存在はいませんでしたがね。
何時も構ってくる奴らといえば、クソガキどもの相手ばかりだったような……?
アイツラ、性懲りもせずに何度も何度も何度も何度も何度も、胸部の事情を馬鹿にしやがってきてたっけか。
そんなこんなの中、自分としては"ナーロッパ辺境農村あるある"における、長男以外は自分の家庭をもって独立するか、働きに出るかの二択しかない中で、後者の働きに農村を出るという選択をしました。
まぁ、家の中が手狭になりつつあったっていうのもありますが……ね?
そもそも、真夜中に上の兄者と義姉さんたちの、幸せオーラ全開の音が漏れ聞こえてきた時はね、当初は微笑ましくもデバガ……コホン、聞こえてないふりしてました。
が、それがほぼ毎日つづきますとね……
"もう聞きたくねぇ!"とか"情操教育もあったもんじゃねーよ!"と、なってしまうものなんです。そうなれば"こんな色声の聞こえる所に居られるか!俺は出ていくからな!"というフラグを立てざるを得なかった訳で……(もう聞きたくない
察してほしい、この苦行を。
褒めてほしい、数年絶えたこの私を……(悟った目
それで、今現在、玄関前で家族に見送られているのですが、
「ラーマ、いちゃやー!」
「こら、バナパちゃん、ラーマお姉ちゃんが出立しづらくなるでしょ?」
3歳になる甥っ子ヤベェ……超可愛すぎて死ねる。
出立するのやめよっかなぁ……ってなるぐらい、破壊力バツ牛ンだわ。
「本当に行くのか?」
「ラーマなら、嫁ぎ先ならいくらでも準備するわよ?それに、女の子の一人旅は……」
「母さん、女一人旅っていうけどラーマだよ?心配するだけ無駄ッゲフゴフ、いきなり鳩尾はヤメロ鳩尾は……」
「チッ…」
実はですね、ワタクシ、収穫祭におけるステゴロ大会(男性の部門に交じって)で、3年連続チャンピョンなのです。
つまり、主にステゴロに関しては、我が家でトップというか、農村でトップになってしまいましてねワタクシ。オーーホホホホホホ
ぶっちゃけた話、師であるカーチャンに"アンタに教える事はもうないよ。あとは磨きまくるだけ"と言わしめて、"アタシを超えていきな!"と、久しぶりに出場したというトーナメント決勝で対決することになって、普通に勝利を収めました。
いやぁ、ワタクシが1番になり、カーチャンが続いて、その他の農村の方々と、こんな具合になっちゃいまして……イイノカ?ソレデ男衆ドモよ……
なお、後で聞かされたことだが、カーチャン数年間は連覇王者だったらしい。
その出場を辞める為に敗退させたトーチャンもすごいけどさ……
えっ?それがプロポーズだったの?アタシを倒したんだから、旦那として認めるだって?何その逆プロポーズ……
って、うちの家系、脳筋すぎやしないか……?
閑話休題
とりあえず、ツッコミ的に余計な事を言いそうだった上の兄者には気づかせない速さで竜頭拳の一撃を鳩尾にみまっておくつもりだったが、さすが腐っても剣術スキーな上の兄者、勘づかれてガードしかけられたわ……(一応ガードの上から浸透勁でヒットはしてます)
「どうしても、いくのか?」
「オトンも心配?けど、ワタシとしては、村の外の世界とか見てみたいってのもあったから」
「……そうか」
村の外を見てみたいというのは、半ば嘘ではない。
きっかけは、兄者夫婦の夜の営みを、これ以上聞きたくないっていうのではあるけれどさ……
と、黙って手渡されるバスタード・ソード。
オトンが整備したのか、剣帯も新品で金属部もピッカピカになってる。
「えっと、これは?」
これぶん回して剣術特訓をさせられたけど、結局はオカンのステゴロを伝授されるばかりになってしまって、これ使わなくなってオトン、寂しい顔してたっけか……
それを思い出したら、無碍にも出来ない訳で。
「これはお前のものだ。路銀の足しにでもしておけ」
「……うん、そうする。ありがと」
何年ぶりかの再会になったけれど、腰に回して取り付けておく。
うん、これはこれで剣士風に見えなくもないかな。
「ラーマちゃんが出ていくと、寂しくなるわねぇ」
「大丈夫ですよ義姉さん。姪っ子か、甥っ子が増える頃には、一旦帰ってこようとは思いますよ?」
「!?も、もうっ!!ラーマちゃんったら!」
そういいながら上の兄者、トゥカー兄の背中を強くバシバシ叩いているけれど。
トゥカー兄、辛そうだけど、強く生きろ?さっき言いかけた言葉の仕返し分でもあるからな。
「落ち着いたら、手紙を出すのよ?」
「では、気を付けていくんだぞ」
「王都にいったら、冒険者になっているベリガルを訪ねなさいね」
「馬鹿な事して、周りに迷惑かけんなよ?」
「うっせぇ、じゃ、行ってきます!」
そうして、家族に見送られて、農村を旅立つのであった。
──────────
村からすぐ出た畑道を歩いては、新しくも特産品となったトウモロコシが実りまくってますなぁ……と感慨深く眺めてしまう。
あれ、成功してポップコーンとして作れる爆裂種が完成した。
そして、その品種は"新たに豊穣の女神様が下賜された品種"とか言われるようになって、あっちこっちで取り合いになるぐらいにすごい事になったのは、懐かしいおもひで……
今は安定供給できてる様にと、各領地で栽培が始まった。
その道の反対側には、いつもとかわらぬ背丈ほどある小麦?中麦……大麦?が生い茂っている。
そんな農道街道をのんびりと歩きだしてたら、背丈より高い麦畑が揺れたかとおもえば、そこからクソガキと、ちびっ子たちが現れた。
これはあれか"勝負をしかけてきた!"という奴か?!と身構えたら、そのちびっ子たちから
「ラー姉ぇ、いままでありがとー」
「楽しかった」
「結構、面白かった」
「また、帰ってきたとき、遊んでくれたら……うれしいかな」
「……ん」
「ほら、ボル」
「ん!」
三者三様の言葉を頂いたあと、クソガキからおもむろに渡される水晶みたいな首飾り。
「えっーと、これは?」
「やる」
「ボル!!ちゃんと渡しなよ!」
「それね!みんなで作ったの!」
「ほら、姉さん出ていくっていうからさ、ボルの奴が提案してさ」
「通しの紐とかは、ちびっ子たちが作ったんだ。ほら」
「おねーちゃん、いままでありがとう!」
あっちこっちから自分の主張ばかりの言葉を投げつけてくる。
えーっとまとめると、クソガキの案でちびっ子たちがつくったサプライズってやつか……なるほど。
……おいちゃん、泣きそうになるじゃない
「うん、ありがとう……」
と思ったら、何かこそこそしだしてた。
「ほらボル、他にも何か言う事ないの?」
「そうだぞボル」
「ボル兄ちゃん、がんばれ!」
「がんばれ!」
いや、全部聞こえてるんですが……えーっとこれはどういう?もしかして、もしかするシチュエーションでしょうか?ん?
「……チビ姉の金床おんな!!」
そう叫んでは麦畑に逃げ込んでいった。
ああ、わかってたさ、わかってたさぁ!このクソガキ大将はいつもいつもいつも!!
……よし、その喧嘩買った!
「んだとゴルァ!!!もっぺんいってみろやぁ!!」
そうして、麦畑内において鬼ゴッコがスタートした。
「はぁ……」
「ダメだったかぁ」
「ボル兄ちゃんのいくじなし」
「あれじゃ、もう無理だよねぇ」
「「ねー」」
小鬼殺戮者に「金床」とか言われる人みて、付け足したかっただけ。