#一:シンチュウ
青く雲がまばらに存在する空が続く中、いくつもの轍の跡が残る土だったものの道で……
踏ん張っています。
「気合いれろぉ!!せーのっ!!」
「よいしょらぁ!!」
「おるぁぁぁぁ!!」
「"ちぇりおぉぉ!!"」
「もう少しです!!白騎士様!」
筋骨隆々のむさくるしい野郎の掛け声と、場違いな女性の声が混じっています。
なにせ、泥濘に嵌った乗合馬車の客車を救助すべく、野郎にまじってみんなで押している最中でして……
前日に降った大雨のおかげか、あちらこちらの乗合馬車に荷馬車が、邪魔をしては道をふさいでいるという現象、いうなれば、血管が詰まったという状況でして。
なぜにこんなことをしているかといいますと、ただただ移動するだけだと、旅の道中としては、些かメリハリがないなと思い手伝う事にしたのですが、これがまたどうして力加減が難しい。
全力でやろうものなら、ぬかるんだ地面をブッパするし、なおかつ荷台が破損する。
かといって、持ち上げてやってみようと思ったが、これも車軸方向はいいが、筐体強度がヤバかった。
なにしろ、その積んである量があれだ、東南アジア系の『積載量"詰めるだけ"の限界を超過して積みました!』みたいな?
そのためか、車体をよくよくみれば、あちこち撓っております。
そのおかげでか、破断もせずに耐え忍んでるみたいですが、よくもまぁ、やるもんだと感心したもんです。
雑談ついでに聞いてみれば「積めるだけ積まにゃ、損だろ?」との事で、商魂たくましいです。ハイ……
という事で、結局は後ろから押す事になります。
そんな馬車が、一台、二台、三台、四台、五台、いっぱい、たくさん……お、押す……ド、ドラ…ムカン……お、おす‥‥‥
「お疲れ様です。白騎士様」
「"はっ!い、いったい、自分は……"」
いつしか、無心に近い心境になりかけていたようです。
───「騎士様、ありがとう!」
───「ありがとうございます。白騎士様」
───「騎士の兄さん、助かったよ、これ、少ないけどもってけ」
───「今度、村に立ち寄ったら呼んでくれ、酒でも奢るからな!」
幾つもの馬車に協力しては、幾人ものお礼を受けては「"困った時はお互い様"」という言葉を無難に返しておく。
そして、二人きりになると、となりで「仁心……さすが"我が主"でございます」と言ってくる、大きい双丘をぶら下げている存在はおいておいて……
そんな感じで、首都となる聖都に向かう道すがらに、こういう事をしながら旅を続けております。
一人と……視線をむけると、笑顔で返してくれる"サグア"さ……サグアと。
* * *
あれから、こちらがどう説明しても「世を忍ぶ仮の姿ですね?」とか「受肉した御姿ですね」とか「そういう設定ですね?わかりました」とか「では、私は従者として……」と、深いわかりみ?みたいな?表情で告げてきた。
そういう真剣な顔で斜め上過ぎる解釈されて、こちらが何を言っても「そういう設定」扱いされると、説得という行為に、もうどうでもいいやと諦めの境地へと至りました。
こういう人を何だっけ、何だっけ……
ああ、あれだ、狂信者ってやつだ。うんうん……うん?
……狂信者?えっ?
いまさらながらに気づく。
もしかして、このファンタジー力、人に使ったら"狂信者"を生み出すのか?と。
思い返せば、身体が変貌した元・妖精さんたちや元・大鬼さん、それに元・豚鬼さんに元・小鬼さんたち。
アイツらも、敬うというよりも、崇めてる感じだった様な……
そして、目の前でテキパキと野営の準備をしてくるサグアさん。
……
……
やっべぇ……
いやまて、まつんだ。
十二分な統計数値として、知ってるデータが偏ってる、偏ってるぞ!!
そ、そうだ、うちの村の衆とか……は、そんな肉体が欠損とかする傷なんて起こすわけもなく、ファンタジー力つかった事ない……あ、小さい頃、怪我した子を直すのに使ったわ‥‥‥あのクソガキ大将、いま、元気にしてるかね?
まぁ、クソガキ大将のは擦り傷程度だし、程度にもよる?いや、肉体構造が変わってないから影響なし?
うーん、わからん。
「"我が主"よ、準備が整いました」
「いや、そういう言い方しなくていいって言ったじゃん」
「ですが、"我が主"は"我が主"であるため、そういう訳には」
「ラーマ。そう呼ぶ事、いいね?」
「で、ですが、卑小な身とし「いいね?!」」
ちょっと圧をかけておく。
周囲から、獣の気配とかきえちゃったけど、まぁいいか。
「……は……はい……承りました。ラーマ様」
「様もいらないけれど?」
「そ、それだけは何卒……」
なんというか、絶望?という表情されると、それ以上いえない……
「わ、わかったから、それでいいから。それで……サグアさん?」
「私めの事は"サグア"と。"おい"や"お前"でも構いません」
今度は、逆威圧を感じてしまった。
あ、これ、何言ってもダメなやーつ……こういうのは素直に従っておくべきです。
あと、カーチャンの圧と同じ雰囲気なのは、なぜなのか。
「アッハイ、サグアさ……」
「"サグア"です」
「"サグアさ…"」
「"サグア"です」
「"サグ…"」
「"サグア"です」
「……サグア」
「はい、"我が主"よ」
「いや、だから、ラー……もういいや、二人の時だけね」
とまぁ、そんな押し問答を続けるのは不毛すぎるので、早々に敗北を喫しては話を続け、知っている情報を聞き出しますと……
現在いる場所、はっきりわからない。たぶん辺境。
向かう方向、聖都。だいたいあっちらへんのはず。
亜人、差別が酷い。
かー、なんねー、なーんもはっきりわからんままどー
という、詳しくわからない事が分かった。
あと、亜人差別がとてもとても酷いらしくて、人権?生命権?が低い扱いとの事。
なので、"サグアさ……サグア"曰く、人前では、鎧甲冑の姿で隠した方が良いとか何とかと。
何でも、流れの放浪騎士という体でいておけば、ある程度は隠せれるとか何とか。
そりゃぁ、肉体変化で色白の肌とかできないかなと思って試したけどね?
なぜか小麦色(濃いめ)の肌(+マチョ)にテカリがついてる恰好にしかならないって、どうなん?と思いました(まる
まぁ、うん、何となく差別的なのは察してはいたよ?あの、荷馬車でゴトゴトと運ばれてる時点で。
改めて言われると、やっぱり、国が違えば文化が違うもんだと思いました(かしこ
なので仕方がない。
この国において、人前ではあの恰好でいる方針とします。
ちびっこVerで、しょっぱなから面倒ごとに巻き込まれたりするわだったし。
さらに言えば、また、変態に襲われるとか嫌だし?
うんうん、と今後の方針を固めていたら、サグアさ……サグアが、ササっと腕を振り払って"白い炎"で火起こしをして……は?
…………
あれ?
その白い炎って、あれだよね、いつから使えたの?えっ?
御遣いとして"シンチュウの宣儀"の後に、何故か理解し使える様になった?
あ、そうですか、なるほど。……なる、ほどう?
いやいやいやいやいや、ちょっとまって?
サグアさ…‥サグアが、ファンタジー力つかえてる件について。
あと、さっきからなんでわかるの?
その都度、圧を向けるのやめて?
・〇信者が「そういう設定ですね」で押し通す状況を書きたかったから書いた。