#玖:天の裁き
マダ 間ニアウ───
間に合う 間に合わせル───
もウ、目の前で、大切なモノは無くサない、二度と無くさないと、そう誓っタ──……
そのために、今まで色々と試し続けたのダカラ!
あの柔らかさを教えてくれた、極楽なる存在を……無くしてたまるか!
たまるもんカ!!
「ん?なぁに?そんなに震えて、アタシが素晴らしいと感じでもしたのかしら?」
オカマ・オネエが何か言ってるが、そんなコトはどうでもいい。
対応する方が優先順位が上なのは、救うこと。
それには、時間との勝負!
音を置き去りにする移動をしては、状況を確認を開始する。
「って、どこいったの?」
この世界で色々と試してわかった事は、"21グラムの重さ"が完全に消失しないうちに対処すれば間に合う事。
それは、前世での俗説だったモノだが、この世界では確実にある。
そして、それは時間とともに徐々に失われていくモノでもあるともわかった。
そのお陰かしらないが、蘇生処置は1分以内というが、このファンタジー世界ではそれすらも覆していた。
だが、それでも老衰などダメな内容もあったが……概ねは、それで間違いないと分かった。
まずは状況確認!
心臓部が無くなって、胸椎がブちぎれて……こんなの即死だろうが!
くそがっ!初動から遅れてる!
「あら?そんなところにいたの?って、ゴミに何してるのかし……ら?」
急げ急げ急げ、ファンタジー力よ、出力最大!うなれ!この右手!!
修復しつつも再構築!!
再構成する必要があるのは心臓……それは、掃除してたから状況は把握済み!!
あとは、心臓の再構成のベース材……材料……材料!!
彼女の首から崩れ落ちてぶら下がったネックレスが視界に入る。
実験の結果、こういう宝石の類を触媒に代替品が出来る事は確証済み!
すまんが、コレ使わせてもらう!返事は聞かない!!
ネックレスから、宝石だけをファンタジー力で抜き出して再構築。
純度を極限にまで高めて……
なんだこの宝石?
こいつも、ファンタジー力を吸い込みやがる!!
他で触ってた事のある宝石とは違う?
つーか、んな事ぁどうでもいい!間に合わん!ファンタジー力!出力2倍だ!急げ!!
「なっ、傷が……消えて……」
あとは、血液が……血が足りない……って、代替なんてここにネーぞ!
ワインとかからの物質変異での浄化輸血みたいな事も……
どうする?どうする?どうする?
他に血……血……あ
自分ノ を ツカエバ 良イジャナイカ───
右腕一本でいいカ?
わからん!
わからないが、もっテけ!
左手で右腕をブッパし、落ちた右腕の傷口から血液を使えばいい!
拒絶反応無しになるように、浄化に変化もわすれずに、さらにファンタジー力を倍だ!
「はぁ?自傷?ワタシに勝てないと思って何をやってるのかしら?だからゴミはゴミな……の……」
よし!
最終チェック!内臓損傷は修復完了!外傷もなし!
宝石が胸に刻まれる格好にはなったけれど、心臓の代替だからこれもよし!
強制血液循環開始!心拍数も正常!!
肌の色も……青紫色なのはかわらんが、循環も確認!
意識確認、軽く頬をたたいて反応を見ると、わずかに反応が返ってくる。
あとは、"21グラムの重さ"が、完全に消え去っていなければ、引き摺られる事もないはず……
「ん……」
よし、生命活動の躍動を確認!呼吸も再開している!
よかった……
本当によかった……
「あ、あ、あなた!何をやったの!!死者の蘇生なんて!!!」
ああ、そういえば、煩い奴ガイタナ……
「そんな事が出来るはずがないでしょ!!あそこまで損壊していたのに……アタシたちの始祖様も、蘇生なんて事は!!」
「"ウルサイ。ダマレ"」
雑音がさらにウルサクナッたので、雑音を消さなければイケ ナイ ナ
近くにあった瓦礫を、マント状に変化させて、彼女に被せておく。
ついでにファンタジー力でバリアを"二の十六乗"程度の層でも構築しておけば、今度こそ、何も問題ないだろう。
これで、思いっきりヤッテも、問題ナイな?
「あ、あら?ワタシとやるっていうのかしら?以前のワタシとは、まったく違……ヘブラッ」
「"ダマレと、言ったはずだ……言葉が理解できないのは、獣だけだ"」
あまりにうるさいから"ビンタ"してやったら吹っ飛んでいったが、4対の羽根を広げて押しとどまっていた。
「な、何なの、何なのよアンタ!!死者を蘇生するわ、物質を変化させるわ、進化したワタシにビンタをかましてくるわ……亜人風情が何してくれてるのよ!!」
「"ウルサイ獣には、シツケがいるものダナ"」
「なっ、なんですって?!アタシの何処がケモノよ!進化したワタクシの美しさが分からないなんて、やはり亜人は亜人なのよ!消え去りなさい!!」
「"そうカ……"」
光速で殴りにくるオカマ・オネエ。
"だが、こんな狭い場所じゃ危ナイだろ?"と考え、向かってきたオカマ・オネエに膝蹴りを当てて天井を突き破らせる。
「ナ゛ッ?」
勢いよく空へと吹っ飛んでいくオカマ・オネエとは対称的に、天井が崩れ落ちてきたが、ファンタジー力で一緒に上へと吹き飛ばして、オカマ・オネエにぶちあてていく。
そうすると、かなり開けた場所が出来上がった。
周りがどうなろうと、もう知った事じゃない。
アレハ、排除スベキ存在ダ──
「"あそこじゃ、狭いからナ。今度は真面目に付き合ってヤル"」
一緒に上空へと飛び上がるが、それを制止してくるしてくるかの様にオカマ・オネエが殴りかかってくる。
だが、そんな遅い攻撃に当たるわけもなく、左手で軌道をズラシた後、即座に空いた脇腹へ左正拳突きを続けざまにいれると、それでもオネエ・オカマはふっとばされながらも、再び押しとどまる。
今度は、先ほどとは異なって蹴り技も混ぜては来ていたが、遅すぎるが為に左手だけで受け流しては背後に回っては、左肘鉄を頸椎部へと叩き入れる。
そんな対処と対応を、左手一本だけで対応していく。
こんな相手に、"遊んでいたから彼女が傷ついた"と思うと、自分が情けなくも腹が立って仕方がなくなる。
何やってんだ自分、と……
そういう心境にもかかわらず、オカマ・オネエの攻撃は続いていた。
だが、攻防とでもいうか、カウンターで仕留める程の威力で攻撃を入れているのだが、それでも相手が沈まない。
手ごたえがあるのに、結果が伴っていないというチグハグな事ばかりが起きている。
まるで、一撃一撃で生じている怪我が、即座に治っているというのが正しいのだろうか?
ただ、それでも動きが稚拙すぎなのは変わらないのだが。
だが、その攻撃のしばらくして止んだ。
こちらから一定の距離に離れて、息を整えている様だった。
「そ、そんなバカな……事があって、たまるもんですか……進化し、四対になっているっていうこのワタシが……そんなバカなことが……」
「"……まともにやる気ハあるのカ?そんな稚拙な動きデ"」
「な、何ですって?!そもそも、当たれば、あんたなんて消し飛ばせれるのよ!!」
「"そうか、当たればいいのカ?"」
「そ、そうよ!!」
「"なら、次は受けよウ。それで気が済むならナ"」
「!? ば、バカにして!!亜人の癖に!!!なら、受けてみなさいよ!!」
オカマ・オネエは、何かしらを唱え始める。
呪文だとは思うが、聞き取ってもみても"何を言っているのかが分からない"文面というのだろうか。
ただ、その紋言が長くなれば長くなっていくと、周囲の大気が震えだしている感覚があるのを感じる。
「絶対に、絶対に逃がさないわよ……"天の裁き"!!」
オカマ・オネエがそう叫ぶと、一面が白い世界にかわった。