#ニ:実家からの手紙
「ウゲッ」
「どうしたの?ベリガル」
それは、冒険者ギルドで渡された、一通の手紙を読み終えた時の言葉だった。
「いや、実家から手紙が来ててさ……見るか?」
「手紙?」
村から一緒に飛び出して、冒険者稼業を一緒に行う相手に手紙を手渡す。
「読んでいいの?」という質問に首肯して促すと、さっそく目を通しては「あららー、ラーマちゃん来ちゃうかぁ」と、笑い声ともいうか、何というか、乾いた声を出すしかなかった。
「あいつが来たら、問題を起こす未来しかみえねぇ」
「ま、まぁ、そうなるかもね」
「そして、あいつの暴走を、俺が止めなきゃならないのかと」
「そうなるわねぇ……」
いままで、あいつの行ってきた「実験」と称する悪戯行為に、幾度ともなく振り回されてきた。
「成功」したものはまだいい、だが、それ以上の「失敗」した数々の尻ぬぐいに何度振り回されてきたのか。
いっときは、畑が水浸しになり、なんでも"イネ"というものを作るとかどうとか言ってたが、結局は土壌がめちゃくちゃになったりした。
それを兄貴と一緒に、土魔法でヒーコラ元に戻していったが、まぁそれはまだマシな方だ。
「なんでまた、出てくんだよ……出てくるなよなぁ……」
「いいじゃない、ラーマちゃん、慕ってくれてカワイイとこあるわよ?」
「あいつがカワイイ?嘘だろ?いつも俺や兄貴を振り回してたのに?」
「そういうあんただって、そういいながらも、ちゃんと面倒見てたじゃない」
「そういうところは……あったかもしれないというか、そうしなきゃいけなかったわけで」
「まぁ、ねぇ……」
過去の事を思い出せは出すほど、実験という名の悪戯が強烈になっていったぐらいである。
だが、テーブルの上にあるポップコーン?というのは、あいつが作り出した大きな成果でもあり、いまでは特産物になっているから、全部が全部、悪い事とも言えなくなったというのもあった。
「はぁ……自分で何とかできるってのにダメと分かったとたん、ほっぽりだして次の事さえしなけりゃなぁ」
「まぁ、ねぇ、ラーマちゃん、何でもそつなくこなしてたからね」
「ソツなく?ちげーよ、あいつ隠してるだけだよ、動きみりゃわかる」
「えっ?」
「どこか制限かけて動いてるからな、あんな初動と次第がまったくかみ合ってない挙動とか、逆に隠すの下手くそすぎでバレッバレだったぞ」
あいつの身体の動きを見ててわかるくらい、"動かし方をわかって動く事も出来るが、あえてそう動かさない"という、ちぐはぐも度が過ぎてデタラメな動きをしやがる。
「そんな風に見えた事ないんだけど?」
「そうか?重心移動とか、足の指の動きとか、それに合わせての魔力の流動ズレとか、挙げだしたらキリがないぐらい、あちこちチグハグだらけで、いつもの実験ってやつなのか?って思ってたぐらいだしな、うちの連中」
「ええぇ・・・何それ」
「だからさ、制限無くして本気でやったら村一番になれるのも、当たり前なんだよ。っていううか、この王都でも余裕で一番になれるだろうさ」
「へ、へぇ……」
「けど、アイツはそういう腕試しとかは興味ないだろうけどな。自慢先の"アズダフ"の事があってからは、特に興味すら失せてたし」
「……」
本当の末っ子だった"アズダフ"
ラーマの奴は、めちゃくちゃに可愛がっては、色々と面倒を見ていた。
ただ、それは大氾濫とでもいう魔蟲の群れに村が襲われるまでの話。
大氾濫によって現れた魔蟲。
魔獣ならば狩人隊で対応は簡単なのだが、魔蟲に関してはそうはいかなかった。
村の大人が総出となって対応したが、その数に押しとどめる事すらできず、それどころか村に侵入を許して被害が出る事になった。
そんな折、自分の家族も10歳以上で戦い方を知っている親父とお袋に、俺と兄貴が総員となって出て行ってたが、10歳未満は未熟と判断されるために戦闘に参加はさせてもらえる事が出来ない。
ラーマもその年齢だったが、4歳にもなっていない"アズダフ"は当然である。
ラーマはアズダフの面倒を任されたことも含め、避難所へ避難させた。
だが、それが良くない方向へつながった。
当時の状況を振り返れば、あまりにも多くの魔蟲たちによって、多勢に無勢となっていった。
そして、魔蟲たちは、何故か村の中心にある、避難所を一斉に目指していた。
何をもって、そうなったのかは定かではない。
けれども、後から状況を鑑みれば、実際にそうだった。
そして、襲撃してきた魔蟲の一部は避難所を襲った。
被害者のほとんどが10歳にもならない子供たちだった。
そして、その中に"アズダフ"もいた。
襲撃されたその数分後、何とか自分と兄貴と共に救出に向かえた時、襲撃してきた魔蟲たちの全てが惨殺されていた。
その惨殺されて山と積まれた死骸たちの中心に、血まみれのラーマが佇んでいた。
末っ子だった存在を抱いて、ただただ佇んでいた。
兄貴と一緒に状況は直ぐにわかったが、どう声を掛ければいいかわからなかった。
そんな中、駆けつけてくれたオフクロだけは、何も言わずに優しく抱きしめていた。
そんな状況を、助かった子供たちは声をそろえて証言していた。
"ラーマ姉ちゃんに助けられた"、"ラーマに助けられた"と。
村の犠牲者の葬儀の中も、その後も、アイツはふさぎ込んでいた。
"助けられなかった"と、"自分が悪いんだ"と。
俺達家族が声を掛けても、それ以上に何も答える事もなく、部屋でふさぎ込んでいた。
かと思えば、真夜中になれば、何処かへと消えたりしていた。
そんな日々が続いた時、いきなりアイツはお調子者としてふるまう様になった。
そうして、無茶苦茶な事をしだす事にもなってきた。"何もしなかったのは、もう嫌だ"と言いながら。
ふさぎ込む事も無くなったのは良かったが、完全にとち狂ってヤバイ雰囲気になってきてた。
まぁ、あのまま間違った方向になりそうだった時、村内の祭りの一環として開催される、トーナメント制の武闘会、それに無理やり参加させられていた。
"己惚れるんじゃないよ!このバカ娘が!!"と言われて。
「あれ、そういうので参加だったんだ……それって結構な荒療治じゃない?見てたけどさ……」
「カーチャンのヤリ過ぎは、何時もの事だけどさ」
「マクローリンおばさんの"だったら、アタシを超えていきな!"とか……無理やり参加させられて、って、おばさん、あれ結構ホンキだったの?」
「かなり本気。"闘牙"までやってたし」
「うへぁ……ラーマちゃん、その本気の鬼神を乗り越えちゃったんだ……」
村でも女傑で名の通ってるうちのお袋に、しかもお袋が得意とするステゴロのホンキを、一身に直に受けて、流して、何かの言葉のやり取りをしながら、涙ながらに殴り返して、勝利を勝ち取るとか、ほんと、うちの家系って何でこう肉体系なんだ?
「ま、そのおかげで、折り合いを着けれたのは良かったけどさ……」
それ以降、ちゃんと向き合ってくれるようにもなり、墓参りもきちんとするしで、お調子者になる前より真面目に働くし、よりいっそう"全力でふざけてくる"事にもなったのだが。
何だよ、糞は宝だ!とかで集めたり、白い粉がいいんだ!とかで畑にばらまくし、見つけてきた新しい種!と言っては栽培しては、変な……いや、目の前のポップコーンって奴だっけか。
「そんなアイツがさ、王都で破天荒に暴れまわってみろって。どうなるんだって話だよ」
「えーっと、面倒事がおきるかな?」
「絶対おきる。そして、首輪代わりの監視として、あいつの兄である俺が指名されるって……」
「……じゃぁ、どうすんの?まさか、拠点を変え「それだ!」」
そうだ、まさにそれだ!
拠点を変えてしまえば、顔を合わすこともなくなって厄介事がこちらに回ってこない!
「今から拠点を変えても、まだ間に合う!あいつの事だから、何かしらの実験とか称して道草くって王都にくるには、かなり時間がかかるハズだ!」
「けどさ、拠点を変えるっていったってどこに?」
「ちょうど、この依頼どうかと見繕ってたやつだが、この際、これに便乗しちまおう」
テーブルの上におかれてあったのは、聖神国への護衛任務という物。
「貧乏くじを引かされたくないから出てきた分けだし、とっとと王都から離れようぜ?」
「えー、育ったラーマちゃんと会いたかったなぁ」
「俺は嫌だね。絶対、全力でイタズラしてくるに決まってる」
「えー、それぐらい多めにみなよ、"剣神"ベリガルさまは器が小さいのかな?」
「小さくて結構。それにおれは賢者だ!魔法使いだ!剣なんか持つきねぇ!」
過去のブチ切れした時と、幼馴染がいない="そういう事"を書きたかっただけ。