#ハ:チカラ
昼前時、"さっそく見てみたい"という要望が出されたので、案内する形で屋敷の中を歩く。
急に行動しては振り回されるのは毎度の事ではあるのだが……、そろそろ何かしらの恩恵を得られてもよいのではないかと。
「ほんと、つまらない場所ね……、…………そして、つまらない男ね」
「……なにか?」
「男爵、あなたも、そうは思わない?こんな場所、つまらないと」
「思う所はありますが、住めば都ともいいます。女士もしばらくは住んでみては?」
「あら、そう……?遠慮しておくわ。私にはもったいない場所のようだものね」
「そう……ですか、残念です」
どの口が言うか。
そんな心にもない上辺だけの日常的な"くだらない会話"をしては、とある一郭へと至る。
そこは"犯罪者"を収容するとでもいうべき場所。
女士は、鼻をつまみながら、臭い臭い、不潔だとアピールしながらも、
「それで?見せたいものというがあるらし……い……けど」
女士は、くだらないとでも言いたげな言葉を投げだしかけた時に、言葉に詰まった。
いや、一緒に来ていた召使い含め、私自身も"はっきりとオカシイ"と感じるぐらいであった。
「な、何よココ……まるで……」
女士が驚くのも無理はない。
汚れていた筈の牢内が、信じられないぐらいに清潔感に満ち溢れていたからだ。
つい最近、建て直したとでもいっても通じるだろうか?そういう話をしても通じるぐらいに、綺麗になっていたからだ。
いや、綺麗どころか、うっすらと白く明るく……淡く光りを放っている?
「いったい何が……」
「……あら?男爵さまが、ワタシを驚かせようとしたのではないの?」
「え、いえ、私は何も……一体全体これはどういうことだ?私のところには報告が上がっていないぞ?!」
付きしたがっている召使いに訪ねてみるも怯えながらも「何も報告が上がっておりませんでした」という。
その表情をみれば、嘘をついている訳でもなさそうとわかるぐらいに驚いてもいた。
では、こちらに報告があったのは、"あらたに一つ追加された"話が来ただけであり、それ以降の報告が無いという事は、その後に起きたと言える。
「ねえ、そこにいるアナタ、あなたがやったの?」
女士は面白い事だと興味をもったのか、中に収容されている亜人の蛮族へと声をかける。
だが、その亜人の蛮族は何も知らないと。目が覚めたら、こうなっていたという。
「ふーん……なら、その追加され、ここからいなくなった亜人が"ネズミ"なんでしょうね」
女士は、何か"楽しいものを見つけた"とでもいうぐらいに、面白がっている表情をしてた。
報告と現場証拠からいえば、消えたそのもう一人が何かしらを行ったという事は容易に想定できる。
ここにいないという事は、館の中を徘徊しているという事でもある。
不味い、繋がりが露呈する様な事がおきれば……
「おい、館内を探せ!蛮野亜人が入り込んでいるんだぞ!今すぐに探しだせ!」
「は、はい!」
召使いの一人を走らせ、館内へと侵入した賊を探せと命じる。
巡回の人員を、魔物襲撃事件に回して少なくしたのが仇となったか……
「申し訳ありません。賊を捉えるべく、私はこの場を離れさせていただきます。こちらの亜人を検分する際は、どうぞお任せいたします」
「あら、そう?アナタは立ち会わないのね?残念ね」
そう言っている女士は、残念そうというよりは、面白そうという表情をして牢の中を覗いていたが、急に天井を見上げたかと思えば、不気味な笑顔をしながらこちらへと向き直る。
「気が変わったわ。ワタシも、ネズミ退治としゃれこんでよろしいでしょうか?」
「……え?ええぇ女士が手伝っていただけるならば、た、たすかります」
「ええ、えぇ、手伝ってあげるわぁ。許可、ありがと。ただ、何か起きるかもしれないけれど、いいわよネ?」
「え、は、まぁ、大事に至らなければ……」
「あらそう、なら、気を付けるわね」
気を付ける気はサラサラないだろう?という言葉を飲み込みながら、この一郭から軽く手を振る形で離れていく女士を見送る。
まるで、行き先が分かっているかの様に……
(計られた?いや、そういう素振りもなかったが……)
いや、それよりもだ。蛮野亜人の賊を探し出すのが先決である。
聖神国に人として認められた領域で好き勝手され、それを回りの、特に中央の聖貴族の耳に"逃げられた"などという噂を入れられる訳にはいかない。
ただでさえ、地方の田舎聖貴族と笑われているというのに……
「これ以上、バカにされる訳にはいかんのだよ!」
魔境の森に隣接しているがために、聖神教からワザワザ指名を受けての、国家計画を進めているのだ……そんな旨い話を横やり入れられるネタを作るわけにはいかん。
「屋敷の中にいるもの全員で手分けして探し出せ。生死は問わん!亜人に好きにさせるな!」
「は、はい!」
一郭からはなれながらも捜索指示を出し始め、執務室へと到着した頃合いに、大きな爆発音と共にガラス窓が吹き飛んできては、書棚へと身体は吹き飛ばされていた。
「な、なんだ?何が起こっている……?」
「ほ、報告します!倉庫棟の一棟が爆破された模様です!!」
「何……?」
───そういえば、あの時、女士が通りすがりに呟いた一言を思い出す。
「力を盛大に放てる、いい機会が出来たわぁ」
「まさか、力使ったとでもいうのか?」
壊れたガラス窓から見える倉庫の方向からは、再び爆発音と共に、新たな土煙が立ち昇っていた。