#ロ:"翼持ち"というのは……
とある部屋。
とある部屋といっても、豪華な装飾といった物が飾られており、所謂は来訪した者を迎えるための応接室と呼ばれる部屋。
「朝早くに、来訪なされたのは、一体、その……どういうお話なのでしょうか?」
対応にあたっている人物は、多少なりとも怯えた口調ではあったが、はっきりとした物腰で口を開けた。
「"どういうお話"ですって?あなた、わかっていて聞いているかしら?それとも、"とぼけている"のかしら?」
「い、いえいえ、滅相もない。"例の件"……ですよね?」
「……わかっているなら、さっさと報告しなさい。こっちも、暇ではないのよ?」
「は、はい、で、では、その……」
目を細めては、相手を威圧してくる女士。
いや、女士の格好をしている男性とでもいうべきであろう。
その存在からの威圧は、対面している男性に対して放たれては萎縮させていた。
「あら、ゴメンナサイ。最近、面白くない話があってね……男爵様に当たっても仕方が無いわね」
「い、いえ、で、では、ご報告を……」
そうして、優雅にカップへと口をつけながら、報告を聞き出してくる。
その内容は、ここ最近における異常ともいえる魔物による被害である。
そして、その話は、魔の森に関しても含まれていった。
「魔の森の変化は、はっきりとは解ってはおりません。が、溢れている魔物の数からして、何かしらの脅威が、あの中で発生したのは確かかと……思われます」
「へぇ……面白い話ね。それで、調査員を出したんでしょ?」
「それが、その……」
「ハッキリ言いなさい」
「は、はい、情報を収集するためにと、斥候を出す形にもしましたが、深層の調査から帰還した者がおらずに成果が一向に……、その……あがらずにおりまして……」
眺め診ている書類にも、それらを手配した内容、それに加えて未帰還者の人数が記されており、帰還した者たちでも、浅い部分だけであり、その場所でも普段見かけないといわれる魔物の種類と種別の目撃内容が記載されていた。
「そ、そこで、その……"コマ"を使わせていただいければと」
「あら?私たちの"コマ"を使いたい、と?そうおっしゃるのかしら?」
「い、いえ……言葉のアヤでして、その、協力を、していただければ、と……」
「へぇ…ふーん……」
向かいに座る男からは、伺い間違いをしたのかという表情であったが、その表情を一瞥して書類の中身を精査しては言葉を発する。
「ま、いいでしょう。検討をしておくように伝えておきましょう」
「あ、ありがとうございます」
これで、一つ肩の荷が下りたと思い、大きくため息を履く。
助かったと。
実は、この女士には逸話がある。
無能という烙印を押された者は、その後、見かけることが無くなると。
たとえ、地位があろうとも、だ。
「それにしても、ほんと、何もないところね」
「その、いくばくかの手土産を準備しておりまして……」
「あらそう、それは期待してもいいのかしら?」
「そ、それはもちろんです!何しろ、亜に連なるモノですので」
「へぇ……それは楽しみねぇ……」
「ご希望に添えれるものかと」
「ま、いいわ。ここまでくるのに疲れたから、少し休ませてもらうわね」
「それでは、客間へとご案内を……」
そう言って立ち上がる女士を、男爵は引き止める。が、
「いいわよ、勝手にいくから、別に問題はないでしょ?」
「は、はい……ご随意に……」
部屋から出ていく女士を見送り、大きく口から息を吐き出しては、その座っていた椅子へとへたり込む様に沈んでいく。
「いつ来られても不気味な存在だ……"翼持ち"というのは……」
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……暗く、静かな、水の中、
沈んでいく
どこまでも、どこまでも沈んで……
ふと、暗かった世界に、小さな光が生まれた。
何?と思った。
その光は、小さな流星となり、周囲の暗闇を照らしては消し去っていく。
まるで、その暗闇を否定するかのように。
そして、その流星は少女の身体にも触れた。
左胸から、体中に何かが流れていく、そんなあたたかな感触と暖かな光とともに。
まるで、母親の腕の中に居るかのように、優しく包まれていく感じがした。
生きていてほしいという母の願いを、幸せになってほしいという親の願いを、苦しみという冷たさではなく、希望という温かさで教え解いてくれる。
終わらせてはいけないのだろうか?
けど、生きてていいのだろうか?
そう思い始めるぐらいに、強くも暖かな光が身体を照らし続けていた。
そして、その光に大いなる意思があると感じた。
少女は、その意思に聞きたかった。
いままで、誰にも聞くこともなく、自問自答していたことに……
「わたしは、生きてても……良いのでしょうか?存在してても良いのでしょうか?」
光は、より一層の強さを醸し出した。
が、その意思から得られた回答は、少女の疑問とは違った。
『……答えは』
そういう風な言葉を聞き取ると、さらに温かくも、力強く感じた光が、全身をくまなく突き抜けていく。
苦痛もけだるさも、恐怖もなにもなく、ただただ、温かく、心のぬくもりを与え、これが「答え」だと、そう示される形だと感じた。
そうして、黒の世界から、白の世界へ置き換わった時、すべてが静かになり、あたりは暖かな光に包まれている空間の中に、自分がのこされた。
その静寂は、記憶を読み返す猶予を与えた。
悲しかった事、苦しかったこと、つらかった事、それらを和らげてくれた母の思い出とともに……そして、母の教えも思い出す。
"暖かい光"……これは、お母さんから聞かされた……
そう思った時、目が覚めた……。
目元に違和感を感じたために、指をあてると涙がこぼれていた様な後だった。
「あれは、夢?けれど、身体が……温かい、特に、胸元・・・・・・?」
今さらに気づいた胸元の違和感に視線をやってみると、そこには一つの焼き立ての様なパンが挟まっていた。
「・・・パン?」
取り出しては、不思議なものだと眺めてみる。
まるで保温の魔法でもかかっているかのように、ふっくらとした状態を維持しては、そこに存在していた。
大丈夫なモノと、直観的に感じてはいたが、理性は危険だとも伝えていたが、香ばしい良い匂いに「グゥ」と正直鳴ったお腹の音に耐えられずに、口にした。
「あ、これ・・・おかあさんが・・・」
それは、生前の母が、みんなには内緒だといって買ってきてくれた、出来立てのパンの味がした。
少女がまだ小さかった頃の思い出。
だけれど、忘れもしない味と、まったく一緒だった。
「おいしい……おいし……い……」
少女の瞳からは、自然と涙がこぼれ落ちていた。
あったかなパンを涙ながらに、ぱくつくシーンを書きたかっただけ。