隠し事 4
ひとしきり混乱した後、ぐったりと椅子にもたれかかった晶の向かいで、レルーはリラックスしていた。昨日の激情が嘘のような姿に昨日のことは夢ではないのか、という考えが晶の脳裏を掠める。それどころか、この場所にいることさえ夢で、目が覚めたら怠惰な現実が目の前に横たわっているのでは、とすら。
そんな考えがおかしくなって、晶は僅かに唇を笑みの形に歪める。
昨日負ったかすり傷の微小な痛みが訴える夢の訳がないという自嘲と、召喚される前の怠惰な繰り返しを思っての単純なおかしさと、そろそろ現実を見るべきだという諦念のない交ぜになったそれを見て、レルーはふと二人の出会いを語る気になった。
(―――傷つくだろうから、黙っていようと思ったのも僕なんだけど)
魔力も溜まったことだし、本当に潮時だ。そう考えてレルーは晶を見る。いつもとは違い、魔力を通して見ると矢張り晶には尋常ではない魔力が漲っている。滾々と湧き出て塔を覆い、晶の力に水没させられているかのような心地になるほど濃密な魔力。
宮廷魔術師並み、と言ったレルーの言葉に嘘はない。ただ、表層に出ている部分はそうでも潜在的には伝説の魔術師を凌駕できるだろう程の魔力が眠っていることを言わないだけで。
(アキラさんは本当に・・・不幸だ)
異世界に召喚されるだけでなく、自分に魅入られるとは。
哀れみさえ込めて、レルーは魔法の“解除”を行使した。
ふわり、と短く茶色い髪が群青の長髪になり、緑色の瞳は紺碧に染まる。
どこか野暮ったくもあった容姿は正に“悪魔”を名乗るに相応しい本来の美貌を表した。
唖然とした顔の晶に、レルーは微笑む。その背中には不釣合いなほど巨大な漆黒の翼が2対と、美しい翼持つ薄い青色の精悍な馬。
「―――この姿では、初めまして。アキラさんは薄々気づいていたとは思いますけど、コレが僕の本来の姿です。そして、僕は」
「悪魔族72貴族が一人にして26の悪霊を従える王子、セエレと申します。我が主」
よく通る声での名乗り上げに、晶は何度も瞬きを繰り返す。
少なからず精神的疲労の降り積もった状態での追い討ちに、脳の容量が追いついていないのだ。
そんな状態で、とりあえず晶にできたのはずるずると椅子からずり落ちながら質問することだけだった。
「・・・ええっと、マイマスターって、レルーの主は私を召喚した人じゃ・・・?」
「そのあたりの説明もいたしますので、きちんと座って聞いてください。脱力する気持ちはわからないでもないですが」
そう言ってレルー、いや、セエレは二人の出会いを語り始めた。