隠し事 2
ひゅうん、と風を切る刃を紙一重で避け、晶は必死で下に走った。
横隔膜が引きつるのを感じながら、涙が浮き上がるのを感じる。
(何?!契約精霊って、そんなに聞いたらやばいことなのか?!)
ダダダダダッと駆け下りる階段の上、魔力の集まりができているのが肌で感じられるようになっているのに気づいて、晶の背筋を寒いものが駆け上った。
来る。
咄嗟に風の防護壁を張ったその瞬間、黒い大剣が振り下ろされる。
「がぁ・・・っ!」
「何で抵抗するんですか、本当は薄々気づいてるんでしょう、だからあんな精霊共に笑顔を振りまいて媚を売って・・・ああ許せない。あなたが誰かと関わるだけでも許せないのに、腸が煮立ちそうだ」
風の壁を隔ててなお、レルーの気配が近い。おまけに異常なまでの重圧に膝が曲がる。それは晶の魔力が弱いことではなくレルーが異常なほど強いことを示していた。そう、レルーは奇妙なほど強い。人間が真っ当な方法で召喚できる限界を軽く凌駕していそうなほどに。
ぎちぎち、ぎちぎち。風の壁を簡単に破られそうな気配に眉根を寄せ、晶はヒタとレルーを見据えた。
暗い瞳、どこか歪んだ顔の造形、仄かに香る“死臭”。
(もう、限界か・・・)
どこか哀れみ混じりに晶は笑った。自分を騙す事、レルーの嘘、どちらももう限界だと、感じたのだろう。
むしろ、1年保ったことが奇跡ではあるが、どこかでこのおままごとを続けていたかった。それは恐らくレルーと晶、どちらもそう思っている。けれども同時に、長くは続かないとも。
「レルー、いい加減に、しなよ。他意なんて、ない・・・知らないから、知りたい、だけだっ」
息も絶え絶えに言う晶を、レルーは真正面から見る。
「―――そこまで仰るなら、この刃も引くし教えてもいいです。条件がありますが」
風の壁を圧迫しておきながら、まるっきり余裕の態度でレルーは突きつける。晶には、レルーの言葉を聞くしか道がないと知りながら。
なんだかんだで悪魔族、この状態で条件って脅迫と変わらないじゃん、と朦朧とする意識で呟く晶。レルーはくすくすと笑う。
「意味を知っても絶対に契約精霊を作らないでください。あと、もう少しアドバイスを聞き入れてください。コレだけですよ、簡単でしょう?」
「・・・あー、確かに・・・簡単、だ・・・」
「ええ、『起きたら』ちゃんと正式に誓ってくださいね?全部教えますから」
「そ、なら・・・いい・・・」
風の壁が音を立てて崩れる。剣も同時に消え、崩れ落ちた晶をレルーが受け止めた。
誰もが予想しなったであろう10話行かないうちに話の核心が見えるというこのスピーディさ。
まあまだまだ続きますけどね