風の精霊 3
まあ後で調べれば良いか、と頭の中でチェックを入れ、晶は食事を終える。
「ご馳走様でした」
作り手が目の前にいなくても、例え一人きりの食事だろうと、いただきますとご馳走様を言うのが晶のポリシーだ。シルフィアも慣れているのか特にその意味を聞いたりはしない。
ちょうど言い終えたころにレルーだけが降りてきた。体に埃一つ付いていないのが怖い。
「ああ、アキラさん。今日のご飯はどうでした?」
「美味しかったー。ていうかレルーはなんか日に日に主婦と化してる気がする」
「・・・誰のせいだと・・・?」
「さあ?」
爽やかに笑みを交し合い、二人は同時にため息を付いた。
「まさかあそこまでできないとは・・・」
「いや、うん、本当に悪い。コレに関しては謝る」
晶は、壊滅的に不器用だった。包丁を握ったら指を切り落としかねないしサンドイッチに具をはさもうとして完成時には半分以上なくなっているぐらい不器用だった。
そのせいで家事は全てレルーの仕事となっている。
ワキワキと指を動かしながら晶は首をかしげた。科学の実験は得意だったのになー。
その様子を見かねたのか、シルフィアが助け舟を出す。
「それで、レルー。うちのガキはどうなった?」
「塔の外に逆さ吊ってますよ。腐っても風の精霊の端くれですから大した罰じゃないでしょうがね」
「え、逆さ吊り?」
思わず鸚鵡返しする晶に、レルーが頷く。
「ええ、逆さ吊りです」
「・・・ええええ、やりすぎだよー」
「そうですか?」
「んなこたねえだろ」
シルフィアの即答に、レルーが微笑む。
その笑みになんだか背筋が寒くなるのを感じ、晶は一歩後ずさった。
レルーも一歩踏み出し、間合いを詰める。
「親御さんもこう仰ってますし。どうですか、ここらでそろそろあのシルフェン除けの結界でも!」
「そんなこと言って精霊全部拒否するつもりなんだ・・・駄目駄目ー前科あるし信用できない」
「精霊全部なんて言いませんよ。シルフェン限定です―――ちょっと、シルフェンが入ろうとすると瀕死になる程度です」
「親御さんの前で何言って・・・っ、ああごめんなさいシルフィアさんレルーに悪気はないって言うか」
レルーの危険発言に慌てる晶に、シルフィアは慈母の笑みを浮かべて言った。
「レルー、構わねえぜ・・・や っ ち ま え」
「シルフィアさんまで何言っちゃってんですかああああ?!」
結局、晶の説得により結界案は却下された、が。
しばらくシルフェンが”塔”に姿を現すことは・・・なかった。
実はシルフィアさんがお気に入りです