風の精霊 1
衝撃の事実が発覚してから2日後、晶は早速召喚魔法の理論の載った本を机に積み上げ学びだしていた。
何故かわかりにくく属性魔法の本棚の裏側にあった大量の召喚魔法の本。レルーの手は借りず、自分の目で見て、最初だけ読んで、比較的わかりやすそうなものを抜き出してなお10冊を越える山となったそれに果敢に挑む晶。ちなみに文字はこちらに来る時に翻訳魔法でもかけられたのか読み書き共に普通にできたので、専門用語だけ辞書を引いて調べなければならないくらいだ。
ページをめくる音と、レルーに買ってこさせたペンの文字を記す音だけが静かな空間に響く。
不意に、晶が顔を上げた。
「風・・・?」
呟きと同時に、強風が部屋の中を通り過ぎる。パラパラパラと本のページが進み、羊皮紙が舞いあがる。それらに視界を遮られて晶は目の前が見えなくなった。
風が治まり視界がクリアになると同時に、晶の前に一人の少年がいた。
「アキラ、遊ぼっ?」
キラキラした無邪気な笑顔で晶を誘う少年の傍を、1本のナイフが通り抜けた。
晶が何がなんだかわからないままにナイフが飛んできた方向を振り向くと、無表情で何本ものナイフを構えるレルーが立っていた。
「―――御用なら、下からおいでくださいと何度申し上げれば了解していただけるので?」
「あんたみたいな下っ端に言われてもー。ここの今の主ってアキラでしょー?」
「敬称をお願いしたいところですね、アキラさんはあなたごときが呼び捨てにしていい方ではありませんし」
「むっかつくなぁその物言い」
「あなたには及びませんよ。それに、アキラさんは今御勉学に励まれています。邪魔をしにいらっしゃったのですか?」
お互いに殺気を隠そうともせずに言葉を交し合うのを見て、晶は頭を抱えた。
少年―――風の精霊・シルフェンは最近知り合ったばかりの精霊なのだが、とかくレルーとの折り合いが悪い。悪魔族と精霊族は反発しあうとは言えどここまで憎みあうことは稀といえるほどに。
「あー・・・頭痛いー・・・」
なぜやる気になっているときに限って邪魔が入るのだろうか、今しかり、外に出ようとした時しかり。いい加減にしてください。そんな気分で机に突っ伏した晶にレルーが微笑む。
「アキラさん。下にお食事を用意してありますので、お先に召し上がっていただいてよろしいでしょうか?」
「お言葉に甘えてー・・・」
そっと逃げ出す晶。背後で轟音がしていたが、関わると大怪我ではすまないことを身をもって知っているだけに振り返ることなく走って階段を下っていった。
まだ続きます