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炎の精霊

 セエレは今、唸っていた。眉間に皺を寄せ、穏やかな彼らしくもなく不機嫌な雰囲気を隠そうともしていなかった。

 その原因の一つは、彼の腕にしがみついて離れず、絶え間なく話し続ける妙齢の美女にある。


「のおセエレ、おぬしとていつまでも妾をぶらさげたくはなかろう?いい加減観念せえ」

「少し口を閉じていただけますか」

「いいや閉じぬ。妾に命令できるのは一人だけじゃ。そうら嫌になってきたろう妾も嫌じゃ」

「じゃあ離れてくださいよ」

「はん、妾のしつこさは知っておろう。わかったら・・・早うアキラを部屋から出るよう説得してきやれ!」


 そう、晶は一月経っても部屋に篭もり、なんだか怪しげな歌を歌いながら何かの作業をしているのである。

 ご飯は見るに見かねたセエレの差し入れのみ、トイレはこっそり行っているらしく偶にドアを開けた形跡はある。しかし、未だセエレは晶の姿を見ていない。これが彼の不機嫌の9割を占めていた。


 さて、セエレにしがみついて古風な口調で無茶を要求する女。彼女もまた精霊である。ただし、独身の。


 夫婦の精霊がいるなら独身の精霊というのも存在する。赤銅色の髪の炎の精霊フレインは独身精霊の代表であり、性別はその時々の好みでくるくる変える。この塔にいる間は晶が以前言った「男よりは女の子の方が好きだなあ」の一言により基本は女性でいるようにしているようだが。

 さて、このフレイン、精霊には珍しく“性格の悪い”精霊である。悪戯好きの精霊は多いが、基本的に精霊というのは好かれやすい性格をしているせいかフレインほど性悪の精霊もそうはいない。

 気がついたらフレインのせいで孤立していた、とか、フレインの手で破滅させられた、とか。炎は炎でも感情の炎を司るフレインはその影に気づいたもの全てに平等に災厄を振りまく。

 その炎から逃れえたのが、晶だった。

 精霊も悪魔や天使と変わらない、魔力の威力を直に感じるエネルギー体だ。無防備にしていると思って手を伸ばし、その手が消滅するほどの拒絶を受けた。

 それほどその時の晶は荒れていた。近寄るものは全てその無尽蔵にも思える魔力で薙ぎ払い弾き飛ばしながら一人きりで叫んでいた。荒れ狂う感情の炎。フレインの炎がちっぽけに思えるほどのそれに、フレインはあっという間に虜になった。そうして、晶に囁いたのだ。


『妾が、そなたの味方をしてやろう。他の誰も知らぬ力と知識をやろう。誓って、お主をお主の家に還してやろう。だからそんなに嘆くでないよ、黒き炎の娘』


 そう、フレインは囁いた。原始の炎の一つであり、精霊のみならず悪魔族や天使族を含めても数名しかいない伝説の魔術師以前・・・更に気の遠くなるような、この世界での生きとし生けるものの始まりの瞬間から存在する精霊の、誓い。

 セエレの言葉とはまた違う重みのある言葉、それに晶はようやく魔力の放出を止め、倒れた。

 セエレの存在は後から知ったものの、フレインはまるきり歯牙にもかけなかった。そんな価値は見出せなかったし、そんなことより晶のことを知るほうが重要だったから。

 そうしてようやく心をほんの少しだけ開いてくれるようになった、にも関わらず偶々外出していた先から帰ってきたらセエレは本来の姿になっているし晶は部屋から出てこないしでフレインは切れた。


 つまり、フレインのぶら下がりは捨て身の嫌がらせであり、同時に何があったかとっとと吐けやゴルァ、という脅しもかねていた。証拠に先ほどからセエレの近くでだけ特別な紐で結わえられた赤銅の髪が炎を纏っている。


「ふふふ・・・のうセエレ、強情は時に身の危険を醸すぞ?お主とて妾とあの風の小僧を相手にしたくはなかろう・・・?今回は風のと土のは止めに入らんだろうしの」


 綺麗に飾り付けられ、研ぎ澄まされた鋭利な深紅の爪がセエレの喉元で光る。ヤル気はあるようで準備も整っているようだった。

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