自然と日常は牙を向ける
誰かの設定です
多分幸せだった。
——朝起きれば母親が朝食を用意してくれた。小指くらいの厚さのパンにコップ一杯分のミルク。朝はこれだけ。これだけだが満足だった。
父と2人で魚を獲りに行った。
僕は魔法が得意だった。生まれながらにして人の何倍もの魔力を持っていると村長が言っていた。難しい話でよく分からなかったが、そのおかげで水属性魔法が扱えるらしい。その点には感謝している。
僕が魔法で川の水を操り、父が魚を捕まえる。
——今日は5匹も捕まえられた。夜はご馳走だ。
家に帰れば妹の世話をする。世話と言っても、粘土で作った人形のような何かで遊んであげるだけだ。
村の子供たちが持っているような人形は妹には買ってあげられない。玩具はうちでは買えないのだ。
それでも妹は泣いておねだりする訳でもなくいつも、
「お兄ちゃんありがとう!」
と喜んでくれる。
自慢の妹だ。
幸せだった。
決して裕福ではなかったけど。
楽しかった。
母がいて、父がいて、妹がいて。1人じゃなかったから。
このままこの生活が続けばいい。お金は無いけど家族がいる、そんな当たり前だけが存在する、なんて幻想を抱いてたんだ。
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俺は家族を殺した。
魔導王でした