お豆さん
しょうゆ、豆腐、納豆、味噌、形は色々だが、みんな一つの豆からできている。
親子と一緒だ。
蛙の子は蛙ではない。
大豆の子が何になるか、それは神のみぞ知る。
「お母ちゃんこれ何?」
慎太郎が台所で料理をしている信子に聞いた。
「それはね、いんげんよ。」
「じゃあ、これは?」
好奇心旺盛な慎太郎はいろんな物が気になるお年頃らしい。
「それはプチトマト。」
「プチトマト?じゃあこれは?」
人差し指と親指で大豆を一粒つまみながら慎太郎が言う。
「それはお豆さん。」
「お豆さん?なんでお豆だけさん付けなの?」
「え?うーん、それはね、みんなに慕われてるからなの。」
ちょっと苦しいかなと思いながら信子はなんとか理由を探した。
「なんでみんなに慕われてるの?」
「うーん、栄養が満点だからかな。」
何かよい伝え方はないかと思いながら答える。
「慎太郎、そこのお饅頭二つに割ってごらん?」
そう言いながら、ちゃぶ台の上に置かれたお土産の饅頭箱を指した。
「ちっちゃい小豆がいっぱいはいってるでしょ?
それはお豆ちゃん。こっちの大きいのがお豆さんで、ちっちゃいのがお豆ちゃん。」
信子は笑いながら饅頭の半分を口に入れ、もう半分を慎太郎に渡した。
「慎太郎は今は慎太郎ちゃんだけど、もっと大きくなったら慎太郎さんになるんだよ。
早く大きくなって立派な慎太郎さんになってね。」
「じゃあ、あっちがどんぐりさんで、あっちが茶太郎ちゃん?」
日が指す温かい場所に陣取りながら昼寝する二匹を指差して聞いた。
「そうね、まあ、どっちもちゃんね」
「どっちもちゃん?」
「そう、どっちもちゃん。どんぐりちゃん、茶太郎ちゃん、慎太郎ちゃん、かの子ちゃん、かわいい子はちゃんね」
「みんなちゃんじゃん、あはは」
慎太郎は笑いながら饅頭の端をかじった。
「でもお母ちゃんは大きいのにお母ちゃんだね?」
「んー、お母ちゃんはね、お母ちゃんでもあるしお母さんでもあるの。何よりかわいいし。
それで、慎太郎が大きくなって一人前になって素敵なお嫁さんをもらったら、その人からお母さんて呼んでもらうの。」
「ふーん。じゃあお父ちゃんは?」
「あいつ、あ、あの人は野球、野球って野球ばっかりだから、その野球病が治ったらお父さんになれるかもね?かわいくはないけど」
信子は冷蔵庫から麦茶を出すと、コップに注いで慎太郎に渡した。
「ふーん。じゃあお父ちゃんはずっとお父ちゃんのままだね。」
「そうね、うふふ。」
二人は顔を見合わせて納得したように笑う。
「ただいまっ。」
ガラガラッと玄関の戸が開くと、汚れたユニフォームを着た寛治がバットとグローブを持って帰ってきた。
「おかえりっ!お・と・う・ちゃ・ん。」