魔導師入門書
全てはニーナのために
まず、この世界には北の魔女や西の女神といった特別な光の魔力を持つ者と、魔族という特別な闇の魔力を持つ者、そのどちらにも属さない普通の魔力を持つ者がいる。
光の魔力を持つ者は畏敬の念を持たれていて、まあ正直接触はしたくないが、その恩恵に肖りたいという者も多い。
一方闇の魔力を持つ者は、魔族と呼ばれ恐れられ、しかし一方で、蔑まれ酷い扱いを受ける者も多い。闇の魔力を持つだけで、実際には普通の人間なんだけどな。
光の魔力と闇の魔力は普通の魔力と違い、魔法陣を使ったり詠唱を唱えたりすることなく魔法を使える。
そして普通、魔法は魔法陣さえ描ければ魔力を注ぎ込むだけで誰にでも使える。だからこの世界では魔法が普及している。ただ、魔法陣の種類はとても多く、その全てを頭に入れるのには一生はかかる。特に極大魔法や究極魔法に至っては複雑過ぎて普通の人間には覚えきれないだろう。しかも、魔力が無ければ無駄だから大抵の人間は生活に必要な魔法陣だけを覚えて暮らしている。
で、その極大魔法や究極魔法の域にまで達しようとするのが魔導師だ。あわよくば根源にまで至ろうとする危ない奴らである。しかも普通は魔法陣を描く時には魔法陣そのものだけを描くのだが、彼らはその魔法陣に自分しか使えないようにするためのサインのようなものを付け加える。より魔法陣を複雑化し、自分だけの魔法にするのだ。そして彼らは他人をなんとも思っていない。自分さえよければそれでいい。そういう連中だ。まあ、シュテルの奴は例外中の例外だが。なので魔導師は基本的に信頼してはいけない。信頼してはいけないのだ。魔導師はたまに魔導師同士で“お友達”になることもあるが、それはあくまでビジネスライクな関係。ギブアンドテイク、あるいはお互いに邪魔をしたり裏切ることをしたりすることのないようにするためのものだ。間に受けてはいけない。間に受けてはいけないのだ。
ついでに魔法陣についての知識も記す。まず魔法陣はとにかく種類が多い。そして魔法が複雑になればなるほど魔法陣も複雑になる。…そして、魔導師は魔法陣を奪われたり無効化されたりしないためにより複雑なサインを施す。それでも、自分より優れた魔導師相手なら奪われたり無効化されたりするものではあるが。魔法陣にサインを施す時には基本的には内側に内側に付け加えていく。そうすることで魔法陣はより複雑になる。外に外に展開していくことも可能ではあるが、それだと他の魔導師に魔法陣を奪われやすくなり、更に魔力をたくさん使うので、基本的にはやらない。
そして肝心の魔法陣。俺の知る限りの魔法陣をこの冊子の最後に載せておく。もしお前が魔法に興味があるなら読んで覚えるといい。ただしサインは自分で考えること。あとこの冊子はお前以外が触れると触れた相手に攻撃魔法をぶち当てるので誰にでも見せないこと。以上。
「ふう、こんなところか」
「お疲れ様です、ルート様!」
「ん。ありがとう、ニーナ」
「ところで、何を作っていたんですか?」
「…魔導師入門書のようなものだ。ニーナのために作った」
「え!?魔導師入門書…!?私のために!?」
「ああ、よかったら読んでくれ」
「…っ!ありがとうございます、ルート様…!」
ニーナが如何にも感動した、と言った顔で見つめてくる。…なんとなく、むず痒いんだが。
「私、精一杯頑張ります!」
「まあ、ほどほどにな」
「はい!」
元々、ニーナを魔導師にするつもりではない。魔導師の怖さを知っておいて欲しいのと、いざという時の自衛手段として知っておいて欲しいだけだ。そこまでのことは期待していない。…が、ニーナはやる気のようだ。仕方ないから少し見守っておいてやろう。
ニーナはルートのために魔法を頑張ります