魔導師
魔導師来たる
「ニーナ、お前お茶を淹れるの上手いな」
「そうですか?お役に立てたのならなによりです!」
「ああ。お茶菓子も美味い。文句無しだな」
「ふふ、はい!」
俺はニーナに三時のおやつを用意してもらい、二人で楽しんでいたのだが。
「…」
「…ルート様?どうかなさいましたか?」
「来る」
「え?」
「ニーナ、俺の後ろにいろ」
「は、はい!」
城や森全体に張っておいた結界が軋む。…余程の魔導師殿のようだ。結界が破られ魔法陣が出現する。移動魔法か。転移してくる気のようだ。転移して即攻撃魔法を放たれるかもしれないというのに直接城にやってくるということは、余程の自信があるのだろう。
「魔法陣…!」
ニーナは慌てて俺の後ろに隠れる。まったく。せっかくのおやつの時間だと言うのに、迷惑なことだ。
魔法陣から魔導師殿が現れる。男か。…肩まである白髪に赤い目。中肉中背。顔はまあ良い方か。俺の結界を破ったのだから、相当な魔導師殿なのだろうが…若過ぎないか?
「…なああんた。そんなにじろじろと見られると照れるんだが」
「男が照れたって可愛くないぞ」
「だろうよ。結界を破ったのは悪かったが、あんたと話してみたかったんだ。そう怒らないでくれ」
「別に怒ってはいない。で?何の用だ?」
「いや、あんた。今日人助けをしてきたそうじゃないか。魔導師にしては珍しくまともな奴だと思ってな。」
「ああ…それはニーナ…俺の侍女に提案されてな。良い暇つぶしになると」
「ふーん、なるほどな」
男は何やら考えるそぶりをする。
「…よし、なああんた。俺の“友達”にならないか?」
「は?」
なんだ藪から棒に。
「…あの」
「なんだ?」
「ルート様とお友達になりたいのですか?」
「…ああ。周りに居ないタイプの魔導師だからな。物珍しいし、信用できそうだし」
途端にニーナの瞳が輝く。
「はい!はい、そうなのです!ルート様はとてもお優しい方で、信頼のおける方なのです!」
「そうかそうか。この城の核になってたあんたが言うなら、そうなんだろうな」
…ニーナのことも知ってるのか。領域にこそできなかったようだが、この城を調べたこともあるようだ。
「それで、どうだ?俺の友達になってくれるか?」
「…いいだろう、今日から俺達は家族のような親しみを持った友になった。裏切るなよ」
言霊を発動する。これで俺達はお互いを裏切ることは出来ない。
「もちろんだ、我が友よ…もちろん、そこのお嬢さんにも何もしないから安心してくれ」
「はいはい」
「じゃあ、これからルート様とお友達ですね!」
「そうだな、お嬢さん」
ニーナは嬉しそうに笑う。…仕方ないな。
「…おい、お前」
「なんだ?」
「一緒に三時のおやつにするか?」
「いいのか?」
「ああ、構わない。ニーナ、すぐに準備してくれ」
「は、はい!」
ニーナが慌てて準備しに行く。…あんなに慌てて、転ばないか?
「ふ…」
「なんだ?」
「いやなに、あんたあの娘のこと相当気に入ったんだな」
「まあな。同じ悠久を生きる身なものでな」
「お、そこぶっちゃけるのか」
「隠していたところでお前ならすぐ気付きそうだしな」
「まあな。そういう自信はある。が、そうか。あんたもそういう身の上か。ならあの娘に入れ込むのもわかるな」
「…で、本命は?」
「いやなに、俺は魔獣達の毛皮や骨なんかを魔導具にしていてな。あんたの領内…ここら辺一帯で魔獣狩りをさせて欲しい」
「それは構わない。好きにするといい」
「ああ、助かる」
「あとは?」
「…この城の魔法陣を攻略したあんたの叡智を分けて欲しい」
なるほど、俺の魔法が欲しいのか。
「…いいだろう。俺の知る魔法陣くらいは全部教えてやる」
「え、マジか?あんた太っ腹だな」
魔導師殿はすっかり安心した様子だ。
「だが、その前に」
俺がそういうと魔導師殿は身構える。
「まずは名前を教えてもらおうか」
「…なんだ、そんなことか。俺はシュテルンヒェン・ツー・ビーレフェルト。よければシュテルと呼んでくれ」
「わかった。俺はルートヴィッヒ・ツー・ヴェルト。ルートでいい」
「…ああ。ルート、改めてこれからよろしく」
「シュテルこそよろしく頼む。じゃあ早速魔法陣の知識を流すぞ」
「わかった」
俺はシュテルに魔法陣の知識を流し込む。これでシュテルも満足だろう。
「お茶淹れてきましたー!あと簡単なものですが、お茶菓子です!」
タイミングよくニーナが帰ってくる。そんなに慌てて零すなよ。
「お口に合えばよろしいのですが…」
「…ああ、美味いよ。お嬢さん。じゃあ、これだけ貰ったら俺は帰る。研究したいことが山ほどあるからな」
「ああ、頑張れよ」
「え?せっかくルート様とお友達になったばかりなのに…」
「まあシュテルにも、色々あるんだ。許してやれ」
「はい、わかりました…」
しょぼんとするニーナ。…まったく。
「そうだ、シュテル。ニーナに改めて名乗ってやってくれ」
「ああ、お嬢さんには紹介がまだだったな。俺はシュテルンヒェン・ツー・ビーレフェルト。よければシュテルと呼んでくれ」
「ご丁寧にありがとうございます!私はアントニーナ・フォン・オーバーハウゼンと申します!気軽にニーナとお呼び下さい」
「ああ、これからよろしく。ニーナ嬢」
「はい。よろしくお願いします、シュテル様!」
「ニーナ嬢はルートとは上手くやれているか?なんか文句があればいつでも俺にお言い」
そう言うとにやにや笑ってこっちを見てくるシュテル。お前意外といい性格してるな。
「文句なんて!とんでもないです!ルート様は、優しくて、かっこよくて、困っている人に手を貸すことも厭わず、魔法を自由自在に操れて、魔力石も簡単に作ってしまえる、素晴らしい方なのです!」
「へー…魔力石を…なるほど?この膨大な量の魔法陣の知識、それ程の魔力、ルートヴィッヒ・ツー・ヴェルトという名。不老不死…。なるほどなぁ」
まあそりゃあ気付くよな。
「…ニーナには言うなよ」
「はいはい。ニーナ嬢以外にも言いふらさないよ。ただ名前は基本的に名乗らないようにした方がいいんじゃないか?」
「…気をつける」
「え?え?何の話ですか?」
「ニーナが気にすることじゃない」
「それより、ニーナ嬢はルートのことをすごく気に入っているんだな」
「気に入っているだなんて!尊敬しているのです!とても敬愛しております!私を助けてくださって、その上、欲しかった言葉をくれた方ですから!」
ニーナは興奮気味に語る。嬉しいが、ちょっと恥ずかしい。
「ふ…あんたら、本当に面白いな」
「揶揄うんなら帰れ帰れ」
「はいはい、お邪魔しました」
「あの、シュテル様!」
「うん?」
「よかったら私ともお友達になってください!」
「…ルート」
「ああ」
「この娘、心配だな…」
「そうなんだよ…」
「え?どうしたんですか?」
「あー…いや、なんでもない。じゃあ、ニーナ嬢と俺は今日から家族のような親しみを持った友達だ。改めてこれからよろしく」
「はい、シュテル様!」
「じゃあ帰るな。あ、結界の修復は俺がやっておくから心配するな」
「当たり前だバカ。壊しておいて直さなかったらお前の領域破壊しにいくぞ」
「おおの怖い。じゃあな」
そうしてシュテルは帰っていった。その後すぐに結界は元に戻った。それにしても友達ねぇ。…まあ、ニーナが嬉しそうだし。たまにはこういうのも、悪くはないか。ただ、ニーナには少し魔導師やらなんやらの知識を与えておかないとな。…本当に、いつ人攫いに遭うかわかったもんじゃない。
シュテルは魔導師には珍しくまともな方