暇つぶし
暇つぶしは人助け
「ニーナ、何か暇つぶしになることはないか」
「暇つぶしですか?」
「ああ。やるべきこともないし、手持ち無沙汰でな」
「じゃあ、人助けとかはどうでしょうか」
「人助け?」
「はい。いい暇つぶしになると思います」
ふむ。元魔王である俺が人助け。面白い。
「ならそうしよう」
「さすがはルート様!」
ニーナは嬉しそうに笑う。人のために喜ぶことが出来るのは、ニーナの良い所だと思う。
とりあえず探知魔法で辺りを探る。どこかに困っている人はいないかなっと。…いた。…探索魔法に切り替える。…ああ、なるほど。これはどちらを助けるべきか。探索魔法を解除し、ニーナに質問をする。
「…なあニーナ。この森の近くの街で困っている奴らがいるんだが」
「はい」
「孤児院に借金取りが来ていてな。子供達は可哀想だが、金を貸した方が損をするのも可哀想な話だろう?俺はどちらを助ければいい?」
「えっと、どちらも助ければいいと思います!」
「というと?」
「孤児院にお金を寄付してあげれば、借金も返せてみんな丸く収まるのでは?」
「ふーん、なるほどな」
それなら、その辺の石を使って魔力石を作ろう。それを借金取り共と金を貸した奴、それに孤児院にもくれてやろう。金貨の代わりくらいにはなる。
「…よし、なら出掛けるか」
「はい!」
ニーナと一緒に出掛ける準備をする。
「…あの」
「なんだ?」
「ルート様は、石を拾って何をしているのですか?」
「…ふ。そんなことか。まあ見ていろ」
俺は道端で適当に拾った石に魔力を込める。あっという間に魔力石の完成だ。これを何個か作っておく。
「え!?これって魔力石!?」
「ああ。俺の魔力を石に込めて宝石にした。これなら孤児院の借金も返せるだろう?」
なんだろう。ニーナが如何にも尊敬してます、と言った顔で見つめてくる。…なんとなく、むず痒いんだが。
「それより、そろそろ行くぞ」
「は、はい!」
移動魔法を発動する。そうして俺とニーナは孤児院の前まで移動した。
「!?」
「急になんだ!?」
「魔導師か!?」
騒がしいな。まあ当然と言えば当然か。
「…おい、お前達」
「なんだ!?」
「この魔力石をくれてやろう」
「!?」
「これはお前達の分。こっちの袋に入れてあるのはお前達の雇い主の分だ」
「は、はあ!?」
「なんで急に…!」
「いいから受け取っておけ。その代わりもうこの孤児院に手は出すな」
「…」
「これだけ見事な魔力石があれば…もう借金取りなんてやらなくても生きていけるんじゃないか…?」
「そ、そうだよな」
「受け取っておこうぜ」
「あー、あと。その袋には魔法陣を付与している。もしネコババなんてしたらお前達ごと吹き飛ぶからな」
「…わ、わかった」
「そうか。なら雇い主のところまで魔法陣で飛ばしてやる」
「えっ」
「大丈夫。危ない魔法じゃない」
「そ、そういう問題じゃなくて!」
「じゃあな」
移動魔法を発動する。借金取り共は雇い主のところまで帰っていった。
「で、お前達」
くるりと後ろを向く。孤児院の子供達はすっかり俺に怯えきっていた。
「あ、あの!」
シスターが話しかけてきた。一体なんだ。
「助けていただきありがとうございます!ですが子供達に罪はないのです!どうか生贄には私をお使いください!」
「ママー!」
「ママ、そんなのダメだよ!」
「僕達が生贄になるからママは逃げて!」
「あなた達…!」
「あー…」
感動のシーンのところ悪いんだが、俺は魔導師ではないし、生贄も欲していない。完全なる勘違いだ。
「…おい、シスター」
「…はい」
「これを受け取れ」
「…え、魔力石?」
「これだけあればしばらく子供達を養っていけるだろ」
「っ!?まさか、助けていただいた上に寄付までしていただけるのですか!?」
「はい!ルート様はそういうお方なのです!」
「ええ…」
ニーナが何故か誇らしげに言う。なんでお前がそんなに得意そうなんだよ。
「それにルート様は生贄も必要としていません!素晴らしい人格者なのです!」
「ええ…」
なんか持ち上げられてる…。
「本当!?」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「お姉ちゃんもありがとう!」
「私ったらなんて失礼な勘違いを…!申し訳ありません、ありがとうございます!」
「どういたしまして。じゃあニーナ、帰るぞ」
「はい!…あのシスターさん。また今度遊びに来てもいいですか?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「ふふ。楽しみにしてますね!ね、ルート様」
「俺は別に楽しみじゃない。だがまあ、ニーナが望むなら叶えてやる」
これは照れ隠しではない。真実だ。…断じて照れ隠しではない。
「ふふ、じゃあ帰りましょう!」
「ああ」
移動魔法を発動する。そうして俺とニーナは城の前まで移動した。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ルート様」
「お前もおかえり。ニーナ」
「はい、ルート様!」
こうしてニーナとの初めての人助けは、ちょっとの誤解はあったが和やかな雰囲気で終わった。…うん、これからもたまには暇つぶしをしてみよう。
ルートが変な誤解を受けたのは魔導師に良い噂が無いため