お料理
今日のメニューは鶏肉の赤ワイン煮込み
「あの…レシピとかってありますか…?」
「ああ、料理に必要なものは大体台所に置いてあるはずだ。…ほら、あったぞ」
「ありがとう、ございます…」
「…ふ。どういたしまして」
「ルート様は…このレシピの中に食べたい物はありますか?」
「見せてみろ」
レシピを見る。…鶏肉の赤ワイン煮込みか。これが美味そうだな。
「これがいい」
「…はい、承知致しました。…まずは手洗いからです」
「わかった」
ニーナに倣って手を洗う。人が料理をするところを見るなど久しぶりだ。なんとなくわくわくする。
「…それではまず野菜とお肉を切っていきます」
「ああ」
レシピの通りに料理をするニーナ。…上手いもんだな、慣れているのか?
「ニーナ。お前意外と料理上手いな」
「恐縮です…」
「ん。どこかで習ったのか?」
「その…孤児院に慰問に行った時に、スラム街の人々の生活を知って…炊き出しによく参加していたので…」
「ふーん、なるほどな」
それなら料理に慣れているのも納得だ。
「…」
「…」
黙々と作業するニーナ。上手なもんだ。
「…あの」
「なんだ?」
「…ルート様は、私の過去を聞き出そうとは思わないのですか?」
「?そんなことして何になる?」
「それは…はい、でも、側におく人間のことですから、いいのかなって…」
「過去なんぞ遠く過ぎ去った幻影に過ぎん。そんなもの気にしてどうする」
「…!」
なんだろう。ニーナが如何にも感動した、と言った顔で見つめてくる。…なんとなく、むず痒いんだが。
「それより、この後はどうするんだ」
「は、はい!えっと、鶏肉の両面に塩胡椒をします!」
なんだか急に元気になったな。こっちが素か。うん、ぼしょぼしょ喋っているよりこっちの方が可愛い。
「お前」
「は、はい!」
「可愛いな」
「…あの、ルート様」
「なんだ」
「照れてしまいます…」
「!」
しまった!つい本音が!
「そ、そうか…すまなかった」
「い、いえ…ありがとう、ございます…」
「…」
「…」
…沈黙が痛い。
「あー、ニーナ。続きはどうするんだ」
「…はい、えっと、フライパンに油を引いて、鶏肉の両面にしっかりと焼き目を付けます」
「ほう、それで?」
「えっと、それから、野菜を炒めます」
「へえ」
「そこに鶏肉を戻して、赤ワインで煮込みます」
「おお、いよいよか」
「で、アクを取ります」
「ふむ」
「お塩を加えて、弱火で一時間です!」
「…そんなにかかるのか。悪いな」
「いえ、ルート様のためですから」
「ああ、ありがとう」
「はい。では待っている間にマッシュポテトを作ります」
「ああ」
マッシュポテトを用意しながら一時間待つ。こんなに一時間が長く感じるのは久しぶりだ。
「…はい、では薄力粉とバターを混ぜます」
「ああ」
「鶏肉を取り出して、薄力粉とバターを混ぜた物をソースに入れてとろみをつけます」
「なるほど?」
「ソースにダークチョコレートを入れます」
「っ!?チョコなんて入れて大丈夫なのか!?」
「レシピに書いてあるので多分大丈夫です!」
「ええ…」
案外ニーナは思い切りがいいらしい。
「塩胡椒して、盛り付けて…マッシュポテトを添えて、完成です!」
「おお!美味そうだな!」
「我ながら上手く出来たと思います!」
「よし、早速食べよう」
「はい、食堂までお運びします!」
「俺も手伝おう」
「え!?いえ、そんな!私の仕事ですから!」
「いいから。早く食べたい」
「…は、はい!ありがとうございます!」
「…お前の為じゃない」
これは照れ隠しではない。真実だ。…断じて照れ隠しではない。
「ふふ、じゃあ運びましょう!」
「ああ」
食堂まで料理を運ぶ。うん、美味そう。
「いただきます!」
「いただきます…うん、美味い。肉がホロホロだ」
「味も濃厚でとっても美味しいです!」
「これ、気に入った。また今度作ってくれ」
「はい、ルート様!」
こうしてニーナとの初めての昼食は和やかな雰囲気で終わった。やっぱり人と一緒に摂る食事はいい。それに、ニーナとの距離が少し近づいた気がする。…うん、こういうのも、悪くはない。
美味しい食事を近しい人と一緒に食べる
これ以上の贅沢はないですよね