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出会い

お城での出会い

…まあ、結論から言ってしまえばこの城の主人はもういない。主人を失って五百年は経つらしい。この城の主人は家族共々馬車の事故で亡くなったようだ。では廃墟になっているかといえばそんなことはない。美しい外見も、中庭も、中の調度品の数々も、洋服などもすべてが主人を失った当時のままだ。それは何故か。簡単なことだ。城を守るための人柱がいるのだ。それも生きたまま。今も生きたまま地下で眠らされているその少女は、どうやら俺と同じく不老不死の呪いを…よりにもよって西の女神から受けているらしい。その限りない命を引き換えにこの城は成り立っているのだ。なんて胸糞悪い話だろう。魔王に祭り上げられた俺なんかまだマシな方だった。不幸ぶってた自分が恥ずかしい。


俺は、少女を助けることにした。じゃあ城を諦めるかというとそういうことでもない。俺は道端で適当に拾った石に魔力を込める。あっという間に魔力石の完成だ。これだけの魔力を込めればこの城も五百年は保つだろう。あとのことはまた五百年後に決めれば良い。この城から引っ越してもいいし、また魔力石を用意してもいい。


城の地下深くに来た。地下では奥に進むたびにいくつもの魔法陣が行く手を阻もうとしてきたが、これでも元魔王。魔法陣を書き換え無力化することなんて簡単だったし、たまーに難しい術式の魔法陣を誤爆させてしまったこともあったがまあ不老不死なので問題ない。で。


「お前がアントニーナか。助けに来た」


眠り続ける少女に語り掛ける。宙に浮く少女の下には魔法陣。これが少女の命を喰らってこの城を守る魔法陣だ。まず魔法陣の上に魔力石を置く。で、次に少女を慎重に魔法陣から引き離す。…うん、上手くいった。少女が浮かんでいた場所には魔力石が浮かんでいる。城にも特に問題はない。少女…アントニーナも無事なようだ。アントニーナを連れて地上の城に戻る。戻る際に無力化したり誤爆させたりした防衛用の魔法陣を元に戻す。


城の大広間でアントニーナが起きるのを待つ。…暇だな。城内と…森全体にも結界を張っておくか。


「ううん…」


「…お、起きたか」


アントニーナに近づく。アントニーナはその美しい、腰まで伸びたプラチナブロンドの髪を揺らし、スレンダーな身体を起こす。起き抜けのあどけない愛らしい表情は、庇護欲をくすぐってくる。元魔王であるこの俺にこんな感情を抱かせるなんて、さすが西の女神に嫉妬されるだけはあるな。瞳の色は…どうやらバイオレットのようだ。珍しい…。


「ここは…あの城…貴方は…貴方が私を助けてくださったのですか?」


「まあ、端的に言えばそうだな。だがお前の為に助けたのではない。同じ不老不死の者として、お前が不遇な扱いを受けることが我慢できなかっただけだ」


これは照れ隠しではない。真実だ。…断じて照れ隠しではない。


「不老不死…貴方も…?」


「ああ。俺はルートヴィッヒ・ツー・ヴェルト。まあ、前世の名だがな。他に名乗る名前もない」


「前世…?不老不死な上に前世の記憶まであるのですか…?」


「ああ。まあな。一応聞くが、お前は?」


「申し遅れました。私は…アントニーナ・フォン・オーバーハウゼンと申します。気軽にニーナとお呼び下さい」


「そうか。ではニーナ。俺のことはルートと呼べ」


「はい、ルート様」


こいつ、こんなに素直で大丈夫なのか?…大丈夫じゃないからこんな城で眠らされていたのか。


「さて、お前にはこれから二つの選択肢のうちどちらかを選んでもらう」


「はい…」


「俺の側仕え…侍女になり俺の元で暮らすか、ここから出て行くか。ここから出て行くなら、最低限の物は持たせてやる。幸いこの城には金貨や宝石類がたくさんあるようだしな」


「あの…」


「なんだ」


「どうか私をここに置いてはいただけませんか…?」


「いいぞ。では今日からお前は俺の侍女だ。いいな。最低限の生活は保証してやるが、その代わりに俺の侍女として身の回りの世話を頼む」


「はい、ルート様…」


「じゃあ、早速部屋を決めるか」


「部屋…ですか…?」


「ああ。俺は元々の城の主人が使っていた部屋を使うが、お前はどの部屋にする?とりあえず城の中を見て回るか?」


「…では、それで」


「よし、行くぞ」


「はい、ルート様」


…もしかしたら、これはただの傷の舐め合いかもしれない。不老不死の呪いを受けた者同士が寄り添って慰め合う、なんの生産性もない行為。それでも俺は、ニーナを助けることにした。きっと俺は、この選択を後悔することはないだろう。

果たして二人は幸せになれるでしょうか

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