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召喚された勇者を殺しに来た魔王は鬼を見た

作者: 国栖乃羽

とある世界の話である。

魔の者が統治する国『魔国』。

人間が統治する一番大きな国『リューリスア国家』。

勿論の事、魔王に王も存在する。

この二国は数百年もの間、大小含めた戦争を続けていた。

理由はしごく簡単なもので『魔国』は緑豊かな土地を求め、『リューリスア国家』は山脈の物質を求めて。自国にはない豊かな土地を求め争っていた。

同盟は過去に何度かあったものの、数十年でどちらがどちらともなく戦禍となり約百七十四年と長い間、同盟は築かれていない。

 使者を送ろうにも『リューリスア国家』のただの人間では『魔国』の川や平原すら五体満足で通ることが出来ないのは過去の試みから判りきっている。

むしろ使者を送るにも膨大な金が掛かるのだから無駄な経費は削減とばかりに同盟の案が出されても取り下げられる。

『魔国』も同盟の案が出ないでもないが使者を送ることを渋る。 使者が『リューリスア国家』の自国にはない豊かな実りに目を眩ませ送り出したはいいが帰ってこない、同盟の事など連絡どころか知らないとと言うことが何度もあり殆ど同盟を結ぶことを諦めている。

それでも人間が秘密裏に戦争を仕掛けてこないとも限らないので人間に化けることが出来る配下を複数人程、人間の街や城に送り込み見張っていた。

最初のうちはやれ賄賂だ、物資の横流し、恐怖政治だ人間の重要人の暗殺だのと『魔国』に影響が出ない報告ばかりだった。

だが、雲行きが怪しくなってきたのが約二十年程前、国王が新しくなってからだ。

当時齢三歳と言う幼子を王の座に着かせ影から操ると言う人間にはよくある悪習が行われた。

やはりと言うべきか最初は腐り切る前の王政をどうにかしようと善良な者が動いていたのが、その介も虚しく回りの家臣達によって少しずつ国王が腐っていった。

果実が打ち身をしたところから腐っていく様にゆっくりと国王の思考も国も腐っていったのだ。『魔国』に戦争を仕掛けるように、と。

今まで道理なら兵を募り準備するという備えさえしていれば弱い人間相手なら退けられるのだが、今回はそうはいかない。


勇者召喚


古くから人間の間に伝えられている異世界なる場所から勇者としての素質がある者を呼び出す儀式。

呼び出された人間は特異な能力を持ち魔王を討ち滅ぼすことが出来る。

時に十代の少年少女、時に三十代半ばの者、時に十歳にも満たない子供が召喚されて来た。

それでも多くが男性で十代半ばの若者であり、国は勇者に姫や見た目の麗しい女性を宛がう。そこで上手く手綱を握れば勇者は妄信的に魔王を討ちに行くのがこれまでの歴史が証明していた。

だが、召喚された勇者が上手いこと操られないこともある。

ある勇者は我儘かつ自己中心的な者でやりたいことをやる!と世界を滅ぼしかけ逆に討伐され、またある勇者は旅の最中に命を救われた魔族と駆け落ちし消息を断ち、そのまたある勇者は人を斬り過ぎ心を病んで後世に名が残る殺人鬼に成り下がる者までいた。

その事から勇者召喚は慎重かつ、秘密裏に行われ勇者に求められる資質が問題がなければ国中にその知らせが届けられる。

現に数度は勇者を監禁紛いに人間のいない森や荒れ地で勇者を鍛え上げ魔王の討伐に成功していた。

それでも『魔国』に人間が入ってこないのは天然の要塞である自然のためであるが、それを人間が勝手に『魔国』の抵抗だと思っている。

兎に角、勇者が召喚されてしまえば魔王も『魔国』も只では済まない。

どうしたものかと悩む間もなく今まで有りそうでなかった提案がなされた。


「召喚されたばかりの勇者を殺してしまおう」


勇者を殺す。

それも召喚されたばかりの。召喚された勇者は例外なく弱い。

過去の記録から呼び出された世界に適合していく為に最初は赤子ほどの能力でも徐々に慣らしていけばこの世界では強者になるとある。

つまり、勇者の能力が赤子当然のうちに始末してしまえば脅威ではないのだ。

そうなると勇者討伐の為に少数精鋭の部隊が組まれ、儀式を行われる場所の情報、その際の人間側の戦力となりうる護衛の人数に配置、それらを王宮に勤めている魔族から情報として流してもらう。

人間に紛れて活動する魔族はなまじ優秀だった為に必要な情報は全て揃い、万が一の可能性も含め退路を複数用意する事が出来る腕前である。

勇者召喚の日。

『魔国』による勇者抹殺の作戦も満を持して決行された。

その中には魔王も含まれている。曰く、「最後に情を持って殺す」

 この世界に喚ばれてしまった哀れな勇者に、人の子に苦しむことなく安らかな眠りのために。

 青黒い巨体を魔法で隠蔽し近づいていく。翼を持った龍のような姿は見つかれば魔王と知られていなくても討たれる。危険を冒してまで魔王は最後を見届けたいと願った。

 儀式のための広場は野外、国から離れていても気を緩めることができない。

 広場が見えてきたその時、肌を刺すほどの濃い魔力が霧散した。


 _____ああ、召喚されてしまったか…


 それは儀式の終わりと勇者が召喚されたことを意味していた。部隊が哀れむ雰囲気の中で目視できる距離まで近づいたところで異変に気がつく。

 何かが暴れているのだ。儀式の陣の中で。

ほど近い木々の間に警戒しながら降り立ち様子を伺うと一様に目を丸くした。


 「ふざけんじゃねぇぞ!?何が勇者だこの畜生共が!世界を救ってくださいじゃねぇんだよ!!」


 「絶ッ対戻れねだろ!俺ァ、最後しっかり覚えてんぞ!メットの上に鉄骨落ちて死んでんのをなあ!」


 「どおしてくれんだ、オイ!こちとらぁ兄弟の学費稼いでたんだぞ!」


 「死んで詫びろや!この人形クソ腐れ野郎共がああああああ!!!」


 口汚く罵り雄叫びを上げ騎士をぶん殴っている勇者がいた。しかも若い女の。

 手にしているのは勇者の腰ほどの高さで先の曲がった赤と青に塗られた金属の棒。それを両手で振り回し硬いはずの鎧をひしゃげさせていた。

 先端は両方とも薄くなっているが尖っているがために危険で仕方がない。蹴りを入れる靴も金属板が仕込まれているのかとても硬く鈍い音がする。しかも鎧がへこむ。

 呆然と眺めていると人間基準では可愛らしいと言われそうなドレスを着たおそらく姫に掴みかかり、その白く細い首に尖った先を押し付ける。

 ………勇者が人質を取った!?

 先程から勇者らしからぬ行動に見ていて面白くなってきた。と思ったら目が合った。こちらは隠蔽の魔法をかけているのに。

 その口角がニヤリと持ち上がるのを見て、「あ、こっち見えてるのだな」と察した。

 姫(推測)を引きずりながらこちらに近寄って言葉を発する。

「この世界に来る前にこの世の神様とやらから話を聞いてたんだ『そっちににげなさい、迎えに何人か寄越しますから』ってね?そちらさん方でいいんだよな?」

 そこでようやく勇者を殺そうと提案したのが誰だったのか判らない事に気がついた。

 驚くままにその細腕に力があったのかと姫を放り投げその頭部を蹴り上げた。容赦なく。

 「野郎がそんなので騙されるかよ、バーカ」

 と姫ではなく男なのも初めて知るがそんな場合ではない。

警備に当たっている騎士達は思っていたよりも装備が軽く、ヘタを打たなければ死なないだろうことが伺える、それに突然の勇者の暴挙と魔族の登場に怯み腰を抜かす者もいる。これは確実なチャンスだった。

 潰さないように勇者を掴み飛び立つ。


「しばらくは世話になる、宜しく頼みます。魔王さん」


黒い宝石のような目を細め笑った顔は不釣り合いにも狼に似ていた。

この勇者らしからぬ勇者を殺すかどうかは、またあとで考えればいい。


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