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彼岸侍  作者: 佃煮
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プロローグ


 一切の光を通さない石造りの部屋。夏場は蒸され冬場は寒気に襲われる過酷な環境。薄汚れた黒い着物に身を包み人一人が入れば余裕がない狭い部屋に、一人の男がいた。


「お前の命も今日が最後だな! これで日本から一つ悪が消えるとすると安心だ! がははは!!」


野太い下品な笑い声が鉄柵越しに響き渡る。辺りを見渡す限りここは監獄のようだ。狭い窓から見える景色は満遍なく海が広がっている。幽閉されている男は、ちょっかいをかけてくる看守に目もくれず、ただ一点をぼうっと見つめていた。


「……俺の命運もここまでか……」


首に飾られている緑色に鈍く光るネックレスをしているこの男、髪は黒く短い。風貌は20代、全身には看守の暴力によって生まれたであろう痛々しい痣、切り傷

が刻まれていた。


明朝、太陽が姿を現してもこの監獄に光が差すことはない。ただただ看守の持つ松明の炎が怪しげに光るだけであった。男は早朝から看守に強引に檻から引きずり出され、石の城の最上階へと連行される。


「坂本悠助、無差別殺人による処罰において、極刑を言い渡す」

「……」


石造りの城の屋上にて、刑は行われようとしていた。鎧と槍で武装した多くの看守に囲まれ、坂本悠助と呼ばれた男の首に刀が振り下ろされようとしていた。ニヤつく看守達から伺えるように、この監獄、「血獄門」は日本でも1,2を争う醜悪な監獄なのだ。海にそびえ立つことで一切の脱獄を許さない一級品の犯罪者を幽閉しておく城。幽閉されている者の8割は死刑だと噂されている。


「やれ!」


刑が執行された。……かのように見えた。坂本悠助という男は首元に刀を振り下ろされる瞬時に、自分の両手を拘束していたロープに看守の斬撃をぶつけさせ、身軽に回転し距離をとる。


「な!!!」

「貴様!!!!」


周りの槍を持った看守が大勢彼に襲い掛かる。看守の一人の眼球を猛烈な勢いで殴り、槍を奪い次々と看守の喉元を貫いていく。返り血をどれだけ浴びようと、どれだけの命を奪おうと、今まで死んでいた目が完全復活を遂げた彼を止める兵力は、この監獄には用意されていなかった。


「逃がしたら我々の汚名は地に落ちるぞ! なんとしてでも殺せ!!」


大半の槍を持った看守を殺害した悠助という男の黒い着物は真っ赤に染まっていた。そして首元の緑色の首飾りが、血の海の中から不気味にこちらを睨んでいる風貌のように見えることを、生き残った看守はその様子を彼岸花の様だと例えた。しかしいくら看守から免れようと、辺りは海一面。移動手段もなく、その後彼の姿を見た者もいない。血獄門からの脱獄は翌日大事件としてニュースに取り上げられ、伝説として語られていくのであった。


「あのバカ、死んでないだろうね……!!」


ある者は彼の身を心配し、


「……悠助、ハハハハッ、やっぱお前、面白ェよ……」


ある者は彼の身を侮蔑した。

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