ウニショタの海産講座(inインド)
この物語はフィクションです。作中に登場する人物や舞台は、実在する方々とは一切関係がございません。
また、作中に登場する人物は全て18歳以上です。ウニとか200まで生きるし当然です。うん。
インド。
南アジアに位置し、インド亜大陸の大半を領し、インド洋に面する連邦共和制国家。中国に続き、人口は2位という記録をたたき出したお盛んな国である。
かつては神話の名産地としてのイメージが先行し、様々な宗教が存在していた地であったが、その実は全くの逆。
神話なんぞクソくらえとばかりに都市開発が進みまくり、2017年には経済は名目GDPにおいて世界第7位に届き、購買力平価では世界第3位にまで上昇した最先端のナウでヤングなお国となっている。(うぃきしらべ)
さて、これはそんなインドの最南端。カンニヤークマリという県での物語。
インドとて都会もあれば田舎もある。内陸もあれば海沿いもある。
海に近い者たちは当然、魚を捕ってお金を稼ぐものだ。そんなん日本もインドもメリケンだって変わらない。
ここ、カンニヤークマリでもまた、大なり小なり漁師が存在するわけで……
「はい、え~、みなさん。ナマステ」
「「「ナマステ~」」」
今日は、そんな漁師の皆さんが揃ってとある会議が行われていた。
常日頃から想像力を育んでいる敬虔なる読者諸君ならば、この場に褐色肌の信心深そうな男女が集っているという状況を想像できることだろう。
なんせナマステと言っている。明らかにインド人だ。
ナマステと言えば全てがインド。まったくボロイ単語である。
「え~、今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。漁業組合の取締役である私に、とある報告が入ったからです」
その中でも、明かに上の立場だなって思える女性が発言。眼鏡をクイッと持ち上げる。
服装はインドならではの、ボディラインを強調しない為のもの。生足を晒さず、尻をトップスで隠すという、性に開放的でないとされる服だ。
だがしかし、彼女に関してはこの装束はまったくの無意味であると言える。
切れ長の瞳に、薄く施した化粧。褐色の肌に映える唇はやや厚く、瑞々しい。
鼻は輪郭のバランスにマッチし、印象としては見苦しくない程度に高いといった所か。
なによりも蠱惑的なのが、目元にアクセントをくわえた泣き黒子。これが端正な顔立ちも相まって、どことなく未亡人的な色香を放っている。
ボディラインを隠していると言ったが、そう思っているのは本人ばかりである。
ゆったりとした服装を押し返す双丘はけして形を崩しておらず、むしろ「その服でそこまで盛り上がるのか……!?」と驚愕せざるを得ない。
前方が双丘によって持ち上がっているため、彼女の真下はいわゆるヴァルハラへの入り口だ。そこへ滑り込み視線を上に向ければ、きっと隠された細いウエストや、圧倒的南半球がお目見えできる事だろう。
当然、下半身のボリュームも隠しきれるものではない。ラインこそ出ていないが、パンツスタイルのため股下には限界がある。
太股をゆったりさせれば良いとでも思っていたのだろうが、けしてそんなことはない。尻がズボンを押し広げた事で、股関節から鼠径部までのラインが見えてしまっている。
前述の上着では、時折腹辺りまでが見えてしまうため、持ち上がった際に股関節のクレバスが終始露出していることがわかってしまうのだ。
結論。隠しててイモくてもエロいもんはエロい。
世界よ。これが日本の感性というものだ。
「ネハさん、その報告とは一体どんなもので?」
そんな彼女に対し、小太りで髭のおっさんが語り掛ける。彼女の名前がネハ(意味:愛情)であるという事を周知に晒したファインプレーに敬礼の一つも送りたいところだ。
「良い質問です。それはズバリ……【インドのウニ不味すぎ問題】」
「「【インドのウニ不味すぎ問題】……!?」」
インドのウニ不味すぎ問題(三段落ち)。
まさにそのまま、インドで捕れるウニなる生物が、他国に比べて食えたもんじゃないという由々しき問題である。
どっかの国のホームページでも見れば、胴体を割った瞬間に溢れんばかりの黄色だかオレンジだかのナニガシがお目見えするのがウニのイメージだ。しかし、ここインドのウニはそうもいかない。
割ったら割ったで中身スカスカ。ただただ儚い命を一つ神の身元へ送るという罪を犯して終わりという結果になるのである。
当然、美味しくもない。味のないプリン食ってるみたいって言われるらしい。
何がやばいって、この段階でこの漁師たちは、ウニを使って一発儲けてやろうぜって見積もりを立てていたのが最大の失策と言えるだろう。
ウニをイメージした着ぐるみすら制作中である。もはや後に引けない状況で、このギロチンが落とされた訳だ。
「ウニは本来駆除対象。そんなウニが食べれるようになり、観光客が増えれば良いと思っていましたが……根本的に不可能な程に不味い、とのことですね」
「そ、そんな……!」
「ウニが売れなけりゃ、この辺の資金繰りはもう厳しくなりますよ!?」
「ウニプロジェクトに一体いくらかけたと思ってるんだっ……!」
なんたる見通しの甘さか。欲をかいて手を出して、結局はこの有様。
ウニの身はスカスカなのに、錆だけはたっぷり詰まっていたらしい。
絶☆望というリリカルなワードにこの場にいる全員の表情に影が差し、重苦しい空気に満ち溢れた。
「皆さん、ご安心を」
しかし、ネハは冷静に皆に声をかける。
どれだけの絶望も、どれほどの困難も、前へ進まない理由にはならない。
その顔はどこまでも希望を捨てない、まさに人間のものであった。
「現状を打破する鍵を、私は遥か東より連れて参りました」
「はっ!」
「なんと!」
「とぅわ!」
全員の顔に希望が満ちる。
まるで憧れの先輩から岩を担がされたかのような空気は払しょくされ、活力が漲っていく。
どこからかリコーダーを吹く棒人間が現れ画面端を通り過ぎていくが、本編には一切関係が無いことをここに明記しておこう。
「では、そんな我々の希望に来ていただきましょう……カモン! イイジマくん!」
ネハが指を鳴らす。
三日かけて練習した甲斐があり、その音は非情に小気味よく澄んだものだった。たとえ指が砕けんばかりの激痛に襲われようとも諦めなかった、彼女の勝利である。
しかしながらそんなヒューマンヒストリーはバックスクリーンにホームランしつつ、事態は進展する。何者かが、この場に入ってきたのだ。
「……ナマステ」
それは、見るからに少年であった。
身長はネハの半分程であろうか。ネハが女性の割に168cmと高めなのを考慮しても、小さいと言って良い。
ヘルメットのような丸みを帯びた頭髪は、下に向かうにつれて外側に跳ねており、まるでトゲのようだ。
大きいながらも眠そうな半目に、栗のような口。総じて見た目は良いと言えるが、どこかやる気が感じられない雰囲気なのは逆に愛敬か。
髪型がヘルメットのため大きく見える頭部に対し、体は少女のように華奢である。しかしながら栄養が行き届いていない訳では断じて無く、つまめる程度に肉付きのあるお腹や腰回り、もっちりと肌触りの良さそうな臀部が妙に色香を感じさせる。
半ズボンから覗く太股は、まるで安眠枕がごとき低反発を感じさせてくれることだろう。
「イイジマフクロウニの、イイジマだよ。よろしくね」
その少年……イイジマは、初対面のインド人達を前に盛大にぶっ放した。
ウニ、と言ったのか。
例えどこの国だろうと、イイジマフクロウニなどというアバンギャルドな命名をされたならば、親を恨んでグレることは請け合いであろうが……この少年はそれを気にした様子もない。
「あの……ネハさん、この少年は?」
「良い質問です」
ネハは眼鏡を持ち上げつつ、言う。
かの少年がいかなる存在なのか。どれほどに貴重な戦力であるかを、熱を込めて。
「彼こそは、科学の粋を結集させて完成した、【擬人化少年】なのです!」
「ぎ、擬人化少年……!?」
「そう! その元が、ウニ!」
「ウニを!? 擬人化!?」
「い、いったいどこの国がそんな突拍子のないすっとんきょうな大発明を……!?」
周囲の当然な疑問に、ネハは口角を吊り上げる。
ウニの擬人化。それならば少年の見た目や背格好、体格も納得だ。
イイジマフクロウニは非情に柔らかい肉体を持つという特徴がある。少年がもっちりとした体付きなのは、これが原因であろう。
「日本が実現した夢の技術です」
あぁ……と、全員が納得した。
日本人。彼等程に業が深い種族もそうはいない。
性癖を満足させるためならば、たとえ神であろうと冒涜し、犯し尽す民族だ。
いずれ擬人化だってやってのけるであろうことは、ラーマ王がきゃわゆいショタっ子として書かれた書物が広まった時からわかっていた事であった。
「で……なぜその、擬人化ウニをここに連れてきたのです?」
「ふ、簡単なロジックです。ウニがやばい、改善しなければならない、どうすればいいかわからない。イコール……そうだ、ウニに聞こう。そう思ったわけです」
あ、こいつヤバいな。そう思った漁師たちだが、もはや手遅れであった。
彼1人をここに連れてくる金があったのなら、改善策などいくらでも取れたと思うのだが、それはもう言っても線無き事である。
全員の瞳が、イイジマに向けられる。ある者は不安を、ある者は期待をもって。
一体全体、このウニに何ができるのか……全員の気持ちは1つであった。
そして、ついに少年の口が開かれる。
その場にいる1人1人を見回し……
「まったく……人間ってのはどうしようもなく愚かしいよね」
ぶちまけたのであった。
(((ええぇ……いきなりぃ……?)))
「だいたい、ウニを美味しく食べたいっていう話題を、なんでウニである僕に振るのかな。それはあれだよ。『ネパール人を食用に管理したいから、インド人に彼等を家畜にする術を聞きに行こう』って言ってるようなものだよ?」
例えが的確かつグロテスクだ。 ちなみに、擬人化時に知識は入れられたため、ちゃんとインドで用いられる言語である。
「そもそもからして、君たち人間は自然を何だと思ってるの。自分たちが管理する? おこがましいね。そんなんだからいずれは自滅して滅ぶなんて言われてるのさ」
(めっちゃトゲトゲして毒舌ぅ……)
(ウニの特徴をこんな風に表現するとか……)
(どこに需要あんだこれ……)
「あ、あ、ありがとうございます!」
(((ネハさん!?)))
イイジマが養豚場の豚を見る目で人間共を糾弾している中、ネハだけが鼻血すら垂れ流して息を荒くしている事実に一同は愕然とする。
まさかの一面にショックを受け、彼女に淡い想いを抱いていた漁師の1人が腕をクロスしながら窓をぶち破りその場を離脱。大海原へと還っていった。
「悪いね、イイジマフクロウニは毒を持ってるんだ。君たちのように自分でものを考えないイルカ以下の存在には、ついつい一言いいたくなってしまうのさ」
「いいです! もっと、もっと言ってください!」
「……オブラートに包んで尋ねるけど、彼女は気が違っているのかい?」
「いえ……僕らも今知った事実です……」
「そうかい。同情するよ」
イイジマはふんと鼻を鳴らし、その辺の椅子を引っ張り出す。
ふんっと力み、軽い跳躍と共に椅子に飛び乗る姿はなんとも愛らしい。しかし、言葉にとげがある毒舌家という一点が、彼を受け入れる人間的度量に収まらない枷となっていることは想像に難くない。
「さて、しかし僕はウニについてのレクチャーをするために作られたからね。不本意極まりないけど君たちに教えてあげるよ。笑えるね、僕は同族を裏切るスパイのようなものだ」
「ほら貴方達! イイジマくんにお礼言いなさい! ほらっ!」
「あ、ありが……」
「まだお礼はいらないよ。与えられた仕事をこなして、結果が出た時にその言葉を聞かせておくれ」
与えられた役割には真摯であるべし。それはウニであろうと人であろうと必要な心構えである。
そういう意味では、イイジマは期待以上に優秀であったと言える。
現に、海に還った1人を除いて始められたウニ講座は、非常にわかりやすく有意義なものであった。
ウニに関する基本的な生態。環境に対して発生する被害など、事細かに説明していく。
たとえば、昆布やわかめなどの海藻を食べて太るウニであるが、同じような栄養を持っていれば海藻でなくとも育つという点を説明された時などは、一同も驚愕したものである。
「たとえば、キャベツなんかを食べてもいいね。僕もこの体になって食べてみたけど、あれはとっても栄養があっていい食材だよ」
「キャベツですか……では、ウニを捕獲してキャベツで育成すれば、身が詰まると!?」
「実験して実現可能と判断されたらしいね」
一同は大きく湧いた。
ちなみに、情報ソースはちゃんと存在している。自分たちをアイドルと信じてやまない哀れな生産業者たちが集う、アイアンフィストに全力疾走する番組で見たのだから間違いないと言える。
まったく、この企画が始まる前にこの手の情報が舞い込んでくるのだから人生とは面白いものだ。
「これで! これでウニを食用にできるぞ!」
「ウニプロジェクトは成功するんだー!」
「よかった……首くくんなくて済むぞ……!」
漁師たちの喜びをその身に浴びても、イイジマに感動はない。
あるのは、これから犠牲になる食用ウニに対する憐れみだけだ。毒持ちとして生まれた自分を幸運と思おうと、彼もまた必死に堪えているのである。
「イイジマくん、ありがとうございました」
「別に……」
「これからイイジマくんには、私の代わりにウニプロジェクトをまとめる役職を……」
「僕にこれ以上手を汚せって? 君が鬼畜なのはよく理解したよ」
「貴方を作るよう依頼し、買い取ったのは私ですから」
ネハの笑顔に、イイジマは吐きそうになる。
しかし悲しいかな。ウニには吐くという機能は存在しない。彼は見た目こそ人そのものだが、身体構造はウニに近いのである。
「わかったよ、明日からも僕は君の奴隷として働けば良いんだね」
「むしろ私を奴隷にしてもいいんですよ!?」
「毒殺して良いなら考えるよ……さて、もう方針は決まったんだろう? 僕はお腹が空いたから失礼させてもらうよ」
椅子から飛び降り、イイジマはその場を後にしようとする。
しかし、周りの漁師たちはそれを良しとはしなかった。功労者を労いたい。その思いが彼らを動かす。
「待ってくれ! アンタに礼もせず帰らせるなんてできない!」
「そうだ。せめてなんか御馳走させてくれ! 海藻だって山盛りで食って良いぞ!」
「それは心震えるけどね。残念ながら僕は一人で食事がしたいんだ」
「寂しい事言わないでくださいよ!」
食い下がる彼らに、イイジマは苛立ちと共に髪をくしゃりとかく。
イイジマフクロウニの体は全体的に柔らかく、手がもむんと沈んでいく。
そして、出来れば言いたくなかった事を、彼等にぶちまけてやった。
「あのね……僕はウニだって言ったろう? 見た目は人間でも、構造はウニに近いんだ。つまり、この口はただの発声器官。内臓に繋がってないんだよ」
「えぇ? それじゃあ、飯を食えないってのか!?」
「食べれるよ。食べる場所が違うのさ……ウニの生態は教えたんだから、もうわかるだろう?」
ウニの構造。ここでは明記を避けるが、どのような物かは敬虔なる読者諸君にお任せしよう。
この少年がウニとしての構造をそのままに持っているとするならば……。
「「あ……」」
「人間ってのは、悪意の塊だよね。栄養の摂取のためにチューブは用意してもらったけど」
一部の人間は、少年がどうやってキャベツを食べたのかを想像してしまい、その場に泣き崩れた。
またある人間は、通常の人体構造に出来たであろうにそれをしなかった日本人に嫌悪感を覚えた。
よからぬ妄想に新たな扉を開いてしまった人間は、その場にいる全員からフクロ叩きにされた。
「まぁ、そういう事だから食事は1人でとらせてもらうよ。またね」
そんな大喧噪をよそに、イイジマは一人、用意された部屋へ帰るのであった。
……この場にいるはずの、彼女がいなくなっている事など、気付きもしないまま……。
◆ ◆ ◆
「ふぅ」
イイジマの部屋は、実に簡素なものだった。
小さな棚、薄いベッド、渡された手荷物。これだけだ。
急遽用意されたもの故に仕方がない。まだ小奇麗な分良い方だろう。
ベッドに腰かけ、荷物を漁る。そこには、栄養が詰まった流動食が入ったチューブがあった。
「さて、さっさと補給してひと眠りしよう……」
だが、その思惑は脆く打ち砕かれる。
なぜならば、彼を後ろから抱きしめた何者かがいたからだ。
「ふふ……」
「……何をしているんだい、ネハ」
そう、ネハである。
彼の小さな体を、その豊満な肉体で包み込む姿はまるで一枚絵の聖母のようだ。しかし、その表情が全てを台無しにしている。
そう、イイジマはその目を知っている。獲物を見つけたオオカミウオのそれだ。トゲなどものともせず、バリバリと咀嚼する捕食種……。
「一人では食べづらいと思いまして、そのお手伝いをと」
「必要ないよ。すぐに出て行っておくれ」
「あら……そんな事を言っていいの?」
何を、と言おうとしたが……
「ひゃうっ?」
イイジマの口から出たのは、見た目相応の高く可愛らしい声だった。
自分の発声器官から漏れてしまったそれに顔を赤らめ、ネハを睨みつける。何をされたのか、イイジマには理解できないでいた。
「っ……僕の頭には、毒があるよ……そんなに顔を埋めたら大変じゃないかな」
「ご安心を。貴方の毒は抜いてもらっていますので」
「初耳だなぁ……」
自衛の手段を披露する前から奪われていた事に歯噛みする。
脆い体を守る毒は、彼にとって誇るべきものの一つであった。それを顔色一つ変えずに奪い去る人間の、なんと悪辣な事か。
「安心してくださいな。ただ食事を手伝う、それだけなので」
「んっ、ふ……だったら、頭に顔埋めたまま喋らないでよ……!」
「あれぇ? 何故ですか?」
「っ……い、言う必要はないだろ……!」
「じゃあ、聞く必要もないですね。さぁ、食事にしましょう?」
言うが早いか、彼女は固めのベッドにイイジマを押さえつける。
華奢な少年の肉体は片手で難なく押さえつけられ、抵抗すらも出来なかった。
睨むイイジマに背筋を震わせるネハ。被虐と嗜虐は表裏一体。彼女の本質は、どうしようもなく振り切れた人間的欲求そのものなのだろう。
その手には、食事用のチューブが握られている。もにゅもにゅとそれを揉み、人肌に温めていくネハの笑みには、悪寒すら覚える。
「大丈夫……とっても美味しいですよ?」
「自分がハリセンボンだったらよかったよ。今すぐ膨らんで串刺しにしてやるのに」
「んふふふ、挑発にはお応えしませんと……ね?」
こうして、食事は開始された。
ウニらしく、ゆっくりとした……非常に長い、食事だった。
◆ ◆ ◆
「……イイジマさん……イイジマさん!」
「はっ」
ぼうっとするイイジマを呼び起こしたのは、漁業組合の下っ端女性だった。
「どうしました? ぼうっとしてましたよ?」
「あぁ、大丈夫だよ。気にしないで」
「本当に大丈夫ですか? もうすぐウニの収穫ですから、ここからが本番ですよ!」
あれから二カ月。
イイジマの指導の元、ウニプロジェクトは大きな飛躍を見せた。
中身がスカスカだったウニたちはその身を貪られるなど思いもしないまま、ゆっくりとゆっくりと中身を詰まらせていく。結果として出来上がるのは、どこの海鮮丼だと叫びたくなるようなオレンジ色の高級品質だ。
捕らえたウニ、合計1000匹。それがすべて、ただ同然の廃棄食材で肥え太り、金銀財宝へと変貌していく。これぞ錬金術だと、皮肉を持って述べよう。
「はぁ……奮起するのは人間の役割だよ。僕はこうして見てるだけさ」
「ん~、もう二カ月もこうして一緒に仕事してるんですから、そろそろ仲良くなりましょうよ~」
「悪いけど、僕は人間と親しくなるつもりはないね」
どこまでもドライな彼に対し、女性はもうっと頬を膨らませる。
しかし、ふと感じた少年の変化に目をぱちぱちさせ、問いかける。
「……なんか、イイジマさん太りました?」
「……喧嘩売ってる?」
「いえいえそんな! でも、なんかこう、全体的に柔らかさが増してる感じが……いや、ウエストとかはまったく変わってないんですけど……」
女性の指摘にイイジマはため息をつく。完全に可哀想な物を見る目だ。
「あの~、ちょっといいかしら~?」
「っ」
しかし、ある女性の声が響いた瞬間、イイジマの動きが停止した。
視線を向けると、そこにはもはや見慣れてしまった人物がいる。
「あ、ネハさん! どうしました?」
「ごめんなさいね? 水流を作るポンプの調子が悪いみたいなの」
「あれま! 見に行かないとですね」
ネハだった。
確認するまでもなく、声だけでその存在を掴んだ少年は、俯いたまま動かない。
ネハが2人に近づき、隣に立つ。その際に少年の体がわずかに跳ねたが、女性はその変化に気付けない。
「じゃあ、行ってきますね~」
「えぇ、行ってらっしゃい」
彼女を見送るネハ。その顔はどこまでも優しく、美しい。
そんな彼女の手が、少年の柔らかみを増した臀部に伸びている事など、彼女は知る由も無かった。
そう、彼女の言は正しかった。この二カ月の間で、イイジマの体はすっかりと身の詰まったウニになってしまったのだ。
見た目はさほど変化がないかもしれない。しかし、張りは増し、されど指を飲み込むその肉感は、最高級品の証として高い得点をたたき出すことだろう。
「随分、仲が良さげでしたねぇ」
「……気のせいだよ」
「ふふ、そうですか」
少年の体が、跳ねる。
ウニの体は、そこになんの感覚も抱かないはずなのに。
「じゃあ、イイジマくん……」
だが、人間は?
人間の体だから、反応してしまうのか?
「お食事に、しましょうか?」
自分の体は、ウニの構造ではなかったのか。
何故、人間のように感じてしまうのか。
自分は、ウニなのか? 人間なのか?
イイジマには、もうわからなかった。
「…………」
食事。
あぁ、そう、食事だ。
ウニの、最大の本能。それをちらつかせられ……少年は、何度目かの屈服を感じる。
「っ……!」
指が食い込んだ。
もう、限界だった。
「……ひゃい……」
とろんと瞳が潤み、口元が緩む。
美食とは、何物にも代えられない快楽である。
つまり……少年が、食事に堕ちるのは、当然と言えた。
「よろひく……お願いひまふ……♪」
「ふふ、よろしい」
食事が始まる。
ウニらしく、ゆっくりとした食事が。
そう、これはあくまで、食事なのである。
おいしいおいしい、お食事の物語。
どもどもべべでございます!
いやぁ、深夜3時まで書いてたせいで文章が酷い事に……w
これ、けされないよね……?
うん、お食事、お食事だもんね?
誰がなんと言おうとお食事のお話しだもんねぇぇぇえええ!!
【追記】
なんと素晴らしいことか!
この作品に、FAと表紙がついたよ! なんかもう色々アウトな空気になったね!w
イラストを描いてくれたのは雨音さん! 表紙を描いてくれたのは秋の桜子さん!
2人とも、本当にありがとうございます~!