防具製作:後半。物語の始まり。
投稿遅れました!
忙しいんです!
ほんとすいません。
11話
「よし、次に取り掛かるとしよう」
そう、意気込んだ俺は『洋服(上)』の製作に取り掛かる。
『洋服(上)』に分類されるものは二種類で、インナーの上に着る普通の洋服と上着だ。今回は上着……というかコートを作るつもりだ。
だが、現時点で本格的なコートをつくれる生産職プレイヤーは限られている。なんでも、コートの構造自体が分からないのだとか。初級裁縫セットにある服の型を記した本にはコートの記載がなかったのが原因だろう。
「とはいえ、ゲーム内でリアル技術を使う羽目になるとは」
俺はおもむろに、そう呟く。
実の所、俺は現実世界で服やコートなんかを作ることが出来るのだ。
俺の母は有名なフリーのファッションデザイナーでパタンナーなのだ。
俺は幼い頃から母の仕事部屋で母の真似事をしていたのだ。そして、見様見真似ではありながらも、飲み込みが早かった俺を見た母は、「光るものを感じるわ」と、強制ではないものの自分の持てる技術を優しく丁寧に教えてくれた。スパルタではなかったからこそストレスも感じずに続けれたのだと思っている。
そんなこんなで、中学校に入る頃には服を仕立てられる程になっていた。仕立ての依頼が多い時なんかは率先して手伝いしていたくらいだ。……ぶっちゃけると給金《お小遣い》目当てだったが、母はそれを知ってるだろう。
脱線したな。
ただ、コートを作るとはいえ、現状素材ではウールやアンゴラ、キャメルといった動物の毛から作る生地は作れない。
残念ではあるが『頑丈な魔耐布』を使用することにしよう。
「となると芯地が必要か」
芯地とは、服の表地と裏地の間に挟む、芯となる布のことだ。芯地が裏地になることもあり、用途は芯を作る以外にもあるのだが、今回はおいておこう。
余談だが、初心者がコートを作る際に布が薄すぎて型が決まらないなんてことがあるが、これは、布の芯となる芯地を使用していないか芯地の選択ミスが原因だ。
俺は事前にカンベリの布屋で買ってきた芯地を一つ一つ確認しながら、使用する芯地を選ぶ。
「おお。これは凄い」
芯地のコートに合いそうな芯地を選択をしていたら凄いものを見つけてしまった。それは『コート用芯地』だ。硬過ぎずに良い厚さで裏地も必要なさそうだった。まずして、これ一枚で上等なコートができそうと思わされることが凄いのだ。
「現実世界だと芯地の種類とか多すぎて大変だからな。複数の芯地を重ねたりとか……まぁ、流石にそこまで専門的にしたらゲームとして成り立たないか」
専門知識がないと作れないなんて流石に無理ゲーにも程があるという事だろう。
ともあれ、使用する芯地は決まった。
後は『頑丈な魔耐布』と『コート用芯地』を接着し、型を【断裁】、最後に【裁縫】するだけだ。
型はロングコートでいいだろう。
俺は手順通りにコートを製作した。
だが、結果は予想通りだった。
「やっぱり、ウィンドウが出ないか。とりあえず『鑑定』っと」
頑丈な耐魔コート:R。防力+20。魔法耐性:極小
『洋服(上)』の最高プロパティを超えずに魔法耐性が加わったのみだった。恐らく『頑丈な布』で作った『洋服(上)』の最大プロパティが防力+20なのだろう。
『スキル『服製作』のレベルが上がりました』
『技能【接着】が解放されました』
どうやら『服製作』スキルも上限レベルに達したようだ。スキルレベルが上がるのが早いと思うがLv.10まではこんなものなのだろう。
そもそも、俺がこのコートを作ったのは『服製作』のレベルを10にする為だ。俺が考えていた製作方法には、どうしても【接着】が必要だったのだ。
「さて、技能も揃ったことだし、作るとするか」
俺は先程の手順と同様に一着のコートを仕上げる。違う所は先程覚えた【接着】を使用して布を作った所だけだ。
そして、できたコートの裏地に『液銅』を塗る。
この時に裏地全面に『液銅』を塗ってしまうと服が曲がらなくなり、着ることすらできなくなるだろう。なので、塗ったのは縦横3cmの正方形かつそれぞれ1cmほど間を開けている。
もちろん、関節部にも塗っていない。
「あとは、パーツを作って取り付けるのみだ」
そう言って、『銅』を炉に入れる。
『銅』が熱で赤色化したら、叩きながら【変形】させ、先程言ったパーツを作る。そして全てのパーツに『爆破鉱』を【融合】させた。
これを『爆破銅』と名付けた。
「さて、ここからが本番だ。【接着】……よし。思った通りだ」
俺はコートに『銅』で作ったパーツを【接着】した。
肩には肩当、腕には腕当、背中には背当と言った具合だ。
今回俺が使用した【接着】だが、これも『服製作』でしか使用できないと思われている。例をあげるのであれば、芯地と生地を【接着】したり、フリルやリボンを【接着】したりといったところだろう。
だが、俺の考えは違った。
【接着】とは、製作系スキルで加工してできたアイテム同士を接着する技能だと考えた。
どうやら、それが正解のようで、製作系スキルで加工したものは【接着】出来たが、素材そのものどうしを【接着】することは出来なかった。
とは言えこれだけでは見た目的に格好がつかない。
俺は生地全体を黒に、細部に白をあしらったデザインを【染色】した。銅で出来たパーツを白に【塗装】し、背当てには黒で鍛冶で使う槌を象ったロゴを入れた。
「よし、デザインも好みに仕上がったな。これで完成っと」
『オリジナル服の作成に成功しました。服名を付けてください』
成功だ。
名前をつける前に恒例の『鑑定』をする。
無名のコート:HR-。防力+150。金属部位に爆破鉱が使用されているため、特定の部位に一定以上の衝撃を与えると爆発する。爆破ダメージ中。ノックバック小。
「いいじゃないか。思った通りのプロパティだ。名前は………『ヴァルカンコート』だ」
俺はコートに名付けした後、同様の手順で『洋服(下)』と『靴』を制作した。
『洋服(下)』は生地を黒に【染色】し、膝当てとすね当てのような『爆破銅』のパーツを【接着】、白に【塗装】した。
プロパティは防力が+100。それ以外はコートと同じだ。銘を『ヴァルカンズボン』とした。
『靴』はブーツにした。クッションと底の間に銅の薄板を挟み、外装のつま先と踵に『爆破銅』のパーツを【接着】。防力は+50だ。これも、それ以外はコートど同じプロパティとなっている。銘を『ヴァルカンブーツ』とした。
それと、俺が作った装備だが、服に金属を【接着】しているからか『篭手』と『足防具』が装備できなくなっていた。だが、胸当ては装備することが出来たので銅で作って装備することにした。外見は黒に【塗装】し、中心にコートの背当てと同じ槌のロゴを白で入れた。
今後は俺が本気で作った装備には槌のロゴを入れることになるだろう。
ともあれだ。
装備も整った。
更には使えそうなアイテムのアイディアも装備を製作しながら、ある程度考えた。
そしたらもう、やるしかないだろう?
「さて、リベンジといきますか」
そう意気込み、立ち上がる。
向かうのはもちろん鉱山麓の最深地点だ。
そこに借りを返すべき奴らがいる。
「生産職が戦闘職に勝てないと誰が言った?……それを思い知らせてやる」
俺はニヤりと笑い、呟いた。
ーーこの時を期に本当の意味で、俺がヴァルカとしての物語が始まったのだ。




