表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 五章:決戦の大地

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

970/1371

若者達の集い


 過去の夢を長く見ていたエアハルトだったが、現実に引き戻される意識は肉体の瞼を開ける。

 そして夢では長く感じた時間は、現実では一時間と満たない時が過ぎているだけだった。


「――……なんで俺が、あんな夢を……。……チッ」


 目覚めたばかりのエアハルトはそうした言葉と共に舌打ちを漏らし、身体を起こす。

 そして嗅覚と魔力感知を最大限に働かせながら、滞在していた同盟都市周辺の状況を探った。


腐臭(におい)は変わらずか。フォウル国とやらの魔人達(れんちゅう)は、まだ来ていないのか」


 目覚めた後でも周辺の状況に変化を感じないエアハルトは、やや落胆に似た声色でそう呟く。

 既に状況をクビアに伝えてからそれなりの時間が経っているにも関わらず、フォウル国の魔人達は同盟都市に赴いている様子が表面上には見えなかった。


 しかし次の瞬間、エアハルトの後方に巨大な魔力が接近して来るのを感じ取る。

 そちらに振り向くと、夜の上空に一筋の青い光が流れ星かのように映っていた。


 それに気付き表情を強張らせたエアハルトは、魔力を持った何者かが近付いて来るのを即座に察する。

 そして身構えながら自分の場所まで向かって来る青い光を見据えると、それは自分の目の前に凄まじい速度で降りながら急停止した。


「ッ!?」


「――……やっぱり、知ってる魔力だなと思ってた!」


「……!」


 峠に降り立ち青い光を放つ物体を見ながら、そこからとある声をエアハルトは耳にする。

 すると目が慣れながら青い光を放つ物体を目にすると、そこには奇怪な物体が存在していた。


 見た目は馬にも似ているが、足となっている部分は長く伸びた四本の脚ではない。

 巨大な太く巨大な車輪が前方と後方の二つに備わり、更に金属にさえ見える馬に似た造形(フォルム)の車体は、エアハルトの記憶や知識には無い物体だった。


 それから降りて姿を見せたのは、青黒い独特な装甲服(アーマー)を全身に装着した人物。

 その背格好は見覚えこそ無かったが、その人物はエアハルトが見覚えのある武器を背に担いでいた。


 それは折り畳まれながらも、とある少年が背負っていた大鎌だと一目でエアハルトは理解する。

 しかし記憶にある少年と目の前の人物の背格好はかなり違い、エアハルトよりも頭一つ分程しか変わらぬ背の高さに見えた。


 それでもエアハルトは、訝し気な表情を見せながら呟き尋ねる。


「……貴様、まさか……。マギルスか?」


「へへっ、久し振りだね! エアハルトお兄さん!」


 目の前の人物にそう尋ねた瞬間、顔まで覆われた魔力の甲冑(ヘルム)を解く。

 するとそこには、馴染みのある青髪の少年に面影がある、青年姿に成長したマギルスの顔が見えた。


 突如として奇怪な乗り物で現れたマギルスに、エアハルトは驚きよりも疑問に満ちた表情を浮かべる。

 そんなエアハルトの感情など知らぬように、マギルスは首を傾げながら問い掛けた。


「なんでお兄さん、こんなところに居るのさ?」


「それはこっちの台詞(セリフ)だ」


「僕はね、友達のお願いを叶えに!」


「……友達だと?」


「うん。でも、聞いてた話と違ってきてるんだよね。帝国(ここ)で何かが起こるのは、あと二年くらい先だって聞いてたのにさ。おかげでおじさんに先を越されて、置いてかれちゃった」


「……何の話をしているんだ、貴様は」


 マギルスは疑問を浮かべながらそう話すが、エアハルトはその意味が分からずに思考を困惑させる。

 それを察したマギルスは少し考えた後、改めてエアハルトの姿を見ながら問い掛けた。


「そっちも、どうしちゃったの? 片腕が無いし、あちこちボロボロだし。それに変なのがゾロゾロしてて、向こうにいっぱい変なのがいるみたいだし。何かあったの?」


「……俺については、貴様に関係ない。……だがこの状況については、多少の事を知っている」


「なら教えてよ! 僕、事情が分からないままここに来ちゃったんだよね。帝国(ここ)で何かが起こってるってくらいだけしか知らないし!」


「……いいだろう。だが、俺からも一つ条件がある」


「条件?」


 エアハルトはそうした事を言いながら、マギルスの乗って来た奇怪な物体に視線を向ける。

 そして空を飛んできたその物体に関して、訝し気に問い掛けた。


「その奇怪な物体(モノ)は、空を飛べるのか?」


「うん! 僕の新技とドワーフのおじさん達が作ってた乗り物を合わせた、名付けて『精神武装(アストラルウェポン)二輪車形態(バイクモード)』! かっこいいでしょ!」


「アス……よく分からんが、これは空を飛べるんだな?」


「うん、前よりずっと速く飛べるんだ! 地面だって海だって駆けられるし、魔力の消費も凄い少なくできるんだよ! これはドワーフのおじさん達がくれた二輪車(バイク)のおかげ!」


「なら、俺も乗せて向こう側まで行け。それからここで何が起こっているか、事情は教えてやる」


「うーん。いいけど、乗せながら聞き難いし、あんなのが徘徊してたらまともに話せる状況にもならなそうだから、ここで教えてよ」


「……ふんっ。まぁ、いいだろう。二度は言わんぞ」


「はーい!」


 呑気そうな口調で応じるマギルスに、エアハルトは呆れながらも事情を伝える。

 話している出来事はかなり搔い摘まれた内容(もの)だったが、事態の確信と思える部分は省かずにエアハルトは教えた。


 ガルミッシュ帝国の帝都が襲撃を受け、その首謀者がウォーリスという男であること。

 更に実行犯として悪魔や合成魔獣達を従えるザルツヘルムを始め、死霊術を用いて死体を操っている他の部下(アルフレッド)が居るだろう事も伝えた。


 それ等が狙うのは、『創造神(オリジン)』を復活させること。

 そして復活の為に必要な『魂』と『肉体』を持つ女達を帝都襲撃で攫い、それを捕らえている拠点が同盟都市建設予定地(このさき)にある事も教えた。


 マギルスはその話を聞き、事態を飲み込みながらも僅かに動揺した面持ちを見せる。

 その理由は攫われた女達についてであり、最も驚いているのは片方の人物に対してだった。


「――……『創造神(オリジン)』を復活させるって、それ本当なの?」


「らしいぞ。フォウル国の巫女姫とやらが言っていたらしい。……貴様も『創造神(オリジン)』について、多少は知っているらしいな」


「まぁね。でもなぁ、うーん……」


「なんだ?」


「アリアお姉さんが『創造神(オリジン)』の魂だって言うのは、何となく納得。だってあの強さや怖さも、納得できるもん。でも、もう一人の方が『身体』だってことは……クロエが生きてるの?」


「もう一人は、リエスティアという女だ。クロエという名ではない」


「アレ、それってあの子の母親じゃないの?」


「……?」


「クロエは、次に帝国に居るリエスティアって人から生まれてくるって聞いたのに。なんでその人がクロエと同じ『創造神(かみさま)』の身体なの? 訳が分かんない!」


「そんな事、俺は知らん。……それに女狐の話が本当なら、その事情とやらを知っている連中が来る。その女共を殺しに」


「!」


「フォウル国の巫女姫とやらは、『創造神(オリジン)』の復活がよほど怖いらしい。フォウル国の魔人共に、復活の鍵となる二人の女達を殺すように命じたらしいぞ」


「そっか。じゃあ僕は、それを邪魔して二人を助けるだけだもんね!」


「……デカくなっても、相変わらずだな。貴様は」


 マギルスは笑みを浮かべながら迷いの無い言葉を発し、エアハルトは呆れた口調でそう呟く。

 互いにマシラ共和国において同じ闘士部隊に居た中で、多少の性格については把握しているようだった。


 しかし次の瞬間、二人は何かに気付きながら同時に振り向く。

 それは後方の森側であり、二人は身構えながら警戒する様子を見せた。


「何か来る!」


「……この匂いは……!」


 マギルスは何かが近付いている事を察していたが、エアハルトは匂いでそれが誰なのかを即座に察する。

 そして木々の中から飛び出すように現れた人物は、強い生命力(オーラ)を発した一人の青年だった。


「――……居た、エアハルト殿っ!!」


「うわっ、誰っ!?」


「……チッ」


 それはエアハルトにとって、置いて来たはずの情けない赤髪の青年。

 気力を戻して復帰した帝国皇子ユグナリスが、エアハルト達と合流するように同盟都市周辺まで赴いている姿だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ