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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 五章:決戦の大地

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各々の終着点


 ウォーリスに()らえられたアルトリアは、自身の能力(ちから)を使って魔石を入手し、衣服(ドレス)に取り付けていた紙札で交信を試みる。

 しかし呪印の影響を受けている肉体の疲労と、周囲の魔力を操作するという能力(ちから)を向上させた影響で、再び意識を失った。


 丁度その頃、旧ゲルガルド伯爵領地の都市から出た帝国皇子ユグナリスと狼獣族エアハルトは、都市内に現れた悪魔騎士(デーモンロード)ザルツヘルムの匂いを辿って後を追う。

 影を伝って移動するザルツヘルムの匂いは場所毎に途切れながらも、正確にエアハルトの嗅覚で場所を割り出されながら追跡する事が出来ていた。


「――……やはり、紙札(かみ)から流れていた魔力の匂いもある。(ザルツヘルム)はまだ、あの紙札(かみ)を付けたままだ」


「まだ紙札の存在には気づいていない、ということですか? しかし、スネイク殿達の待ち伏せは……」


都市(あそこ)まで追跡して来るのは、向こうも予想していたんだろう。途中の領地(まち)が破壊されていれば、最も怪しいのは無事だったあの領地だからな」


「ということは、スネイク殿の言う通り。あの都市は(おとり)


追跡者(おれたち)を始末させる為に誘い込んだ、ということだろう」


「だったら、まだ紙札には気付かれていないんでしょうか?」


「どうだろうな。奴自身(ザルツヘルム)が囮の役目を担っているなら、紙札(かみ)に気付きながらそのまま付けている可能性もある」


「そ、そうか……。……それでも、追うしかありませんね」


「ああ。――……んっ?」


「えっ?」


 匂いを追っていたエアハルトは、そうした会話の最中に奇妙な表情を浮かべる。

 すると足を止めて僅かに違う方向に視線を向けながら、鼻を動かして匂いを嗅ぎ取っていた。


 追従していたユグナリスも足を止め、エアハルトが何かの匂いに気付いた事を察する。

 それを問い掛けるように、エアハルトに疑問の声を向けた。


「どうしたんですか?」


「……何の応答も無かった、四枚目の紙札。その時に流れた魔力の匂いが流れている」


「それって、アルトリアに付けられていた……!?」


「その可能性がある、という話だ」


「それでも、あの紙札から魔力が発せられているとしたら……!」


「誰かが交信を試みている、ということだろうな」


 エアハルトの嗅覚が応答の無かった紙札の魔力を嗅ぎ取り、それがザルツヘルムの位置から僅かに逸れた方角で流れている事を察する。

 それによって何者かが紙札を使い、対となる紙札で交信を求めている事がユグナリスにも理解できた。


 妖狐族クビアの話で、応答の無かった紙札はアルトリアが身に着けている可能性があることを知る二人は、アルトリアが紙札で交信をしている可能性を考える。

 それでも現状は、二人に二つの選択を選ばせる事になった。


「それで、どうする気だ?」


「……どちらを追うか、ですね」


あの男(ザルツヘルム)か、あの女(アルトリア)が持っているかもしれない紙札の方を追うか。どちらにする?」


「……エアハルト殿は、どちらを追うべきだと考えますか?」


「俺は、あの女(アルトリア)に興味は無い。あの男(ザルツヘルム)と戦える機会があれば、そちらを追う」


「……でも交信を試みているのが、捕まっているかもしれないアルトリアなら。その近くで、リエスティアも(とら)われているかもしれない」


「だが貴様では、俺のように匂いを追えない。二手に別れても、貴様だけでは匂いの元が分からん」


「……貴方が言っているのは、俺に向こうの紙札(アルトリア)を追うだけの理由を示せ。そういうことですか?」


「そうだ」


 視線を重ねるユグナリスとエアハルトは、互いにここまで赴いた理由の差異を問い合う。


 エアハルトはザルツヘルムを倒す為に協力し、ユグナリスはリエスティアを救い出しウォーリスを討つ為に共闘し合っていた。

 しかし互いの目標(もくてき)が別々の場所に居るとなれば、どちらかを優先して移動する事になる。


 そうなれば後に回されたどちらかの目的は遅れるか、あるいは果たす為の機会を逃してしまうかもしれない。

 それを承知で自分の目的を優先させる理由を問い掛けるエアハルトの言動に、ユグナリスは渋い表情を見せながら答えた。


「ウォーリスとそれに従うザルツヘルムの目的は、帝国の滅びではなく、アルトリアとリエスティアの二人でした。ならば必然として、(さら)った二人を奪い返させない為の策を講じるはずです」


「……その策が、あの傭兵団だと?」


「それだけじゃない。恐らく意図的にあの都市まで追跡できるようにしているのも、ザルツヘルムが追跡者(おれたち)を始末できるようにする為だった。……だとしたら、今も」


「奴は他にも追跡者がいると考え、わざと誘導していると?」


「その可能性は高いと思います。だったら、奴等が本当に奪われたくないもの。リエスティアとアルトリアの二人が居る場所にこそ、行くべきです。そうすれば、ザルツヘルムも奪わせない為にその場所に戻って来る」


「……それが、お前の女(リエスティア)を最優先させる理由か?」


「はい。――……先に、アルトリアと居る可能性がある方向(ばしょ)へ行きましょう。そうすれば、貴方だってザルツヘルムと戦えるかもしれない」


「……もしハズレなら、今度は俺が勝手にやる。それでいいな?」


「はい」


「……フンッ」 


 素直に応じるユグナリスの態度を見たエアハルトは、鼻息を漏らしながら進行していた方角を変える。

 そしてアルトリアの紙札と思しき魔力の方角へ向かい、凄まじい速さで駆け出した。


 それを追うユグナリスは、覚悟を高めながら表情を引き締める。

 そして左腰に下げる剣へ意識を向けながら、左手を添えて前を見ながら呟いた。


「リエスティア、待っててくれ……。俺が必ず、君を救い出す!」


「……チッ」


 強い覚悟を秘めた表情で呟くユグナリスの意気込みに、エアハルトは小さな舌打ちを漏らす。

 互いに別々の目的を持ちながらも共闘する二人は、こうして旧ゲルガルド伯爵領地から北上し、とある場所を目指す形で走り続けた。


 こうしてザルツヘルムを追っていた二人は、目標を切り替えてアルトリアの発する紙札の魔力を追跡する。

 それは奇しくも、いがみ合っていたアルトリアとユグナリスが、互いの汲む状況を示していた。


 しかしユグナリス達以外にも、アルトリアが紙札を使用した事に気付いた者も居る。

 それはアルトリアと共に魔符術の研究する立場だった妖狐族クビアであり、各国にガルミッシュ帝国の現状を知らせて救援を求める最中に、対となっている紙札を通じてその声を聞いていた。


 しかしその言葉を聞いていたクビアは、表情を曇らせながら焦燥する感情を浮き彫りにする。

 その理由は、クビアが跪きながら頭を下げて相対する人物にあった。


「――……クビア。今の声が、アリアという少女ですね?」


「……は、はぁい……」


 クビアが相対するのは、フォウル国の到達者(エンドレス)である鬼の巫女姫レイ。

 今まさにフォウル国に赴いていたクビアに対して、膨大な生命力と魔力の波を当てているレイは、クビアの持っている紙札からアルトリアの言葉を聞いていた。


「やはりアリアという少女は『創造神(オリジン)』の魂、その生まれ変わり。そして『創造神』の魂と肉体も手に入れた者がいる。……この事態は、看過する事は出来ません」


「……!」


「何としても、『創造神(オリジン)』の復活だけは阻止しなければいけない。……例え、彼等と敵対する事になったとしても」


 一言ずつ発する度に流れ来る波動の強さを感じ取るクビアは、戦々恐々とした面持ちでレイの言葉を聞く。

 そしてクビアの後ろに控えている干支衆の『(いのしし)』ガイと『(うし)』バズディールに対して、レイは意識と声を向けた。


「ガイ。そして、バズディール」


「はい」


「全ての干支衆、そして人間大陸へ赴ける十二支士の戦士達を集めてください。そして、人間大陸に居る戦士達にも伝えてください。貴方達には、ガルミッシュ帝国なる国に向かって頂きます。負傷したというタマモの転移魔術も、今回は必要になるでしょう。私が直々に治癒を施しますので、ここまで連れて来て下さい」


「ハッ」


 レイの言葉にガイとバズディールは声を揃えながら応じ、祠の穴に向かって歩み出す。

 しかしその場に残されながら跪いたままのクビアは、冷や汗を一筋だけ流しながらレイに問い掛けた。


「……み、巫女姫様ぁ。聞いていいですかぁ……?」


「何でしょうか?」


「……あの御嬢様達をぉ、どうするんですかぁ?」


 敢えてそれを聞くクビアの言葉に、レイは答えずに口を閉じる。

 その僅かな沈黙が一時間にすら思える程の長さに感じてしまうクビアは、その沈黙を破るように自らその問い掛けの答えを口にした。


「殺しちゃうんですかぁ……?」


「……貴方も、五百年前の天変地異を経験していませんでしたね。クビア」


「は、はいぃ……」


「当時の私達も、『創造神(オリジン)』の復活させようとする者達を止めようとしました。……結果としてその者達を止められずに、この世界は崩壊した。そして大きな犠牲と大きな悲しみに、世界は包まれてしまった」


「……だからぁ、殺すんですかぁ?」


「それがこの世界を担う、到達者(エンドレス)である私の役目。もしもの事があれば、魔大陸の到達者(エンドレス)達も動き出すでしょう。そうなる前に、どのような方法でも『創造神(オリジン)』の復活は阻止します。……例え、多くの者達に恨まれる事になっても」


「……」


「クビア、貴方も里を去ってから人に関わる立場である事は理解しています。私から里や一族の事で、貴方に無理強いをしようとは思いません。ここからは、貴方自身の思いで自由に行動しなさい。……けれど私達と相反する意思で動くのであれば、覚悟はしておきなさい。それが、私から贈れる唯一の言葉です」


「……ッ」


 跪くクビアに対して、レイはそうした言葉を向ける

 それは人間大陸の中で五十年程の時を生きたクビアの心情を悟り、またガルミッシュ帝国から使者を任されている彼女の立場を察するような優しい口調だった。


 それでもレイの述べる内容は、特定の人物達に対して酷く冷たい様相も見せている。

 それを察したクビアは深く頭を下げた後、立ち上がりながら祠の穴へと歩き出て行った。


 奇しくもユグナリス達が行き先を変えたタイミングで、クビアが持つ紙札からアルトリアの言葉が巫女姫(レイ)にも届く。

 しかしその救援を求める言葉は、逆に『創造神(オリジン)』の復活が近い事を知らせ、その鍵となる『魂』と『肉体』の持ち主を教える事にも繋がってしまった。


 こうしてアルトリアが助けを求める言動が、様々な人物達を動かす。

 それはアルトリアにとって、良し悪しも定かではない不安定な状況を生み出す事にもなっているのだった。


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