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方針と祝杯


 報酬を各自で受け取った傭兵達と別れ、アリアとエリクはケイルを伴い、とある宿に訪れていた。

 首都マシラの中でも大きめの宿であり、貴族や商家が泊まりそうなこの宿を見て、ケイルは顔を引き攣らせてアリアに聞いた。


「この宿に泊まるのかよ。高そうだぞ?」


「リックハルトさんが経営してる宿の一つらしいわ。ここに今日は泊まりなさいって。話は既に通してるみたいよ」


「げっ、マジかよ。流石リックハルトの名は伊達じゃねぇな」


「ケイル、リックハルトさんを知ってたの?」


「名前だけな。昔からマシラで手広く商売してる大商家で、一族全員で各地の経営をしてるらしい。リックハルトはファミリーネームで、名前は別にあるみたいだけどな」


「へぇ、結構凄いのね。あのおじさん」


「公爵家の御嬢様がそれを言うのかよ」


「元よ、元。それじゃあ、宿に入りましょう。御風呂あるかしら、楽しみね」


 そう言って笑いながら入っていくアリアに、ケイルは呆れながらエリクに話し掛けた。


「あの御嬢様、いつもあんな感じなのかよ?」


「ああ、風呂があると喜ぶ。二時間近く、風呂にも入る」


「長ッ」


「すぐ慣れる」


 そう話しつつ宿に入ったエリクとケイルは、先に受付で話しているアリアに追いついた。

 アリアはリックハルトの紹介で訪れたと告げ、鉄の認識票を提示すると、すぐに宿の受付が部屋を提示した。


 宿で用意されていたのは家族で過ごす為の大部屋で、宿の中で最も高い部屋。

 風呂は勿論、魔道具の冷蔵庫などが備え付けられ、寝室には四つのベットが四隅に置かれている。

 家具や装飾品の類も豪華であり、部屋に入ったケイルは周囲を見つつ呆然としていた。


「マジで、この部屋を三日も使っていいのかよ……」


「凄いわよね。帝都にもこんな豪勢な部屋、伯爵家から上の貴族の本邸か、皇城くらいにしか無い気がするわ」


「貴族様御用達の部屋かよ……」


「……リックハルトさんに雇われる件、真面目に考えようかしら」


「雇われるって?」


「誘われたのよ。直属の護衛にならないかって。でもしばらくは、町で過ごして様子を見たいって断っちゃった」


「ハァッ!?」


「そんなに驚くことなの?」


「リックハルト直属で雇われるとか、どんなに功績を積んだ【二等級】傭兵でもありえねぇよ。リックハルトの一族が抱えてる傭兵は大体が【一等級】の傭兵達なんだぞ!?」


「えっ。でもリックハルトさん、旅ではそんな連中は連れてなかったじゃない」


 そう疑問を論じたアリアの言葉を遮ったのは、立ちながら冷蔵庫に興味を示していたエリクだった。


「あの商人の周囲に、強い護衛が二名ほど付いていた」


「えっ。あの人達、ただの使い走りじゃなかったの?」


「身のこなしが普通ではなかった」


「エリクがそう言うくらいなんだから、相当強かったのね。見破れなかったわ」


「俺が戦えば、勝てるだろう」


「はいはい。……そんな凄腕を抱えてるなんて、凄いわね。大商家リックハルトって」


「アリア。この中にワイン瓶が入っているが」


「そういうのは飲んで良いみたいよ。ワインあるなら、私も飲んでみたいわ」


「この中は、冷たいんだな」


「それは、二種類の魔石を使って温度を保ってる冷蔵庫よ。水の属性魔力で冷気を放出して、風の属性魔力を使って定期的に冷蔵庫内の温度を調整してるの。冷えた発泡酒があるわね。ケイルはワインと発泡酒、どっちがいい?」


「……はぁ、ウィスキーは?」


 同行者だったリックハルトの凄いという話題が、すぐに冷蔵庫の中身に切り替わった。

 無邪気な様子で冷蔵庫の中へ視線を移す二人に、ケイルは呆れながら同じように冷蔵庫の中身を見た。


 部屋の中には蒸留酒や発泡酒だけではなく、摘みのチーズや燻製肉と共に、年代モノのワインやウィスキーも存在し、ケイルは喜んでウィスキーに手を出し、氷を入れたグラスに注いで飲んだ。

 酒飲み場となった部屋の中でアリアはワインを楽しみながら、エリクと酔い始めたケイルに話した。


「それじゃあ、今後の方針を話すわね」


「ああ」


「えぇ、今するのかよぉ?」


「ケイルも酔っ払ってないで、ちゃんと聞くの」


「へぇい」


 そうして話題を切り出したアリアは、自分達の状況を述べながら今後の方針を話し合う。


「私とエリクの追っ手は、当面だけど無くなった。でも、一応は油断せずに行きましょう。またログウェルが襲ってくるなんて事態が起こるかもしれないし、ゲルガルドが私を野放しにしておくのが危ないと判断して、私を誘拐するか殺す可能性も十分に在り得るから」


「まだ、君の命を狙うと思うか」


「私はこれでも、ガルミッシュ帝国の現皇帝の血筋だからね。それにゲルガルドにとっては、ローゼン公爵家という政敵の弱点にも成り得る。ローゼン公爵家を陥れる為の手駒として、私を手元に置きたいとゲルガルドが気を変えたら、私は連れ戻されかねない」


「そういうこともあるのか」


「それも王国と帝国の戦争結果次第でしょうね。帝国のローゼン公爵家が王国を打ち倒す武勲を挙げたら、ゲルガルト伯爵家とその勢力が帝国内で立場的に弱くなる可能性もある。そうした中で私を誘拐してお父様を脅す為の道具にもしかねない」


「だったら俺は、君を守る。それだけだ」


「ええ。その為に新しい戦力として、ケイルを誘ったんですからね」


 アリアとエリクは、水割りを飲むケイルを見た。

 視線を集めたケイルは、話を聞きつつ酔いある顔で目を据わらせて話した。


「……なんか、すげぇ話をしてるように聞こえるんだが?」


「ええ。実際に凄い話をしてるわね」


「ちょっと待てよ。アタシを誘ったのは、盗賊とか魔物とか、そういうのからお前等をサポートするって話だったろぉ?」


「ええ。それに付け加えて、私を付け狙う可能性がある勢力からの逃亡と撃退も含まれてるわ」


「それ、契約違反だろ?」


「今から契約書を作りましょうか?」


「……いいよ、分かったよ。要は、敵対する奴はとりあえず叩きのめせって話だろ」


「ええ。叩きのめすのはエリクに任せるけど、そのサポートとして私とケイルが徹するの。エリクが今度こそ、思う存分に戦えるようにね」


 ワインを飲むアリアは、少しだけ顔に熱が篭り始めた。

 そんな中でも舌を回して口を喋りに傾けた。


「この宿に三日間、私達は滞在できる。その間に代わりの宿か、借りられる部屋か家を探しましょう。本当は三人一緒に住む部屋か家がベストだけど、ケイルは本当に別の部屋を借りちゃうの?」


「ああ。部屋は心当たりがあるからな」


「えっ、じゃあ私達にも紹介してよ」


「やだよ。自分で探せ」


「私達、この国は何もかも初めてなの。ケイル、助けてよぉ」


「うーん……、分かったよ。一応、仲間だしなぁ」


「良かった。じゃあ明日はケイルに案内してもらって、部屋を探しましょ。良いわね、エリク」


「分かった」


「それじゃあ。今日はマシラに着いた祝杯の意味も込めて。飲みましょう!」


 こうして明日の予定を決めた三人は、冷蔵庫の酒や摘みの燻製肉を食べて飲み、その日の夜を過ごした。


 そして翌朝。

 エリク以外の二人は二日酔いで苦しみつつも、アリアの治癒魔法によってアルコールを抜き、起き上がる事に成功した。


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