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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 四章:意思を継ぐ者

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火を継ぐ者


 ウォーリスの手駒として動く悪魔騎士(デーモンナイト)ザルツヘルムは、既にガルミッシュ帝国側に侵入している手駒(コマ)の秘密を明かす。

 それはリエスティアと共に帝国に赴いた傍付きの侍女(じょせい)であり、彼女の身体には奴隷紋と共に帝都全体を消失できる程の自爆術式が刻まれていた。


 そうした行いを聞かされた帝国皇子ユグナリスは、憤怒の涙を流しながらザルツヘルムと立ち向かう。

 そしてこれらの所業を実行するウォーリスに明確な敵意を見せ、自ら剣を握り対峙する決意を見せた。


「――……ハァッ!!」


「!」


 ユグナリスは老騎士ログウェルとの修練を経て得た生命力(オーラ)を用い、それと同時に呼吸を整える。

 すると身体に纏う白い生命力(オーラ)に赤い魔力が混じり、ユグナリスを中心に大気が僅かに揺れている光景を会場に残る全員に見せた。

 

 それを肉眼で確認する皇帝ゴルディオスは、息子(ユグナリス)から迸る力強い波動を感じながら呟く。


「……こ、これは……生命力(オーラ)だけではない。まさか、魔力による身体強化も……?」


 そう呟くゴルディオスは、過去にログウェルに教えを受けた時の話を思い出す。


 魔力(マナ)を用いた身体強化は魔力を持つ魔人や魔族の技法であり、魔力を体内に持たない普通の人間が用いれば強い毒を体内に巡らせ維持する状態に近くなる。

 その為に人体に掛かる負荷が非常に強く、通常の魔法師でも一秒に満たない時間で虚脱感に襲われ意識も失うという重大な欠陥があった。


 しかし『生命力オーラ』を用いる技法であれば、疲弊こそしながらもそれなりの時間で肉体能力が向上する。

 時に生命力(オーラ)を自分の意思で纏い防御や攻撃に用いることは、人間から進化した聖人や、聖人の域に踏み込む準聖人達などが辿り付ける唯一無二の技法だった。


 それを同時に用いるユグナリスの姿を見たゴルディオスは、目を見開きながら感嘆の言葉を零す。


「……ユグナリス。まさか三年にも満たぬ時間で、その域まで……。……お前も、アルトリア嬢に劣らぬ才を持っていたということか……」


 ゴルディオスはそうした言葉を見せ、今までユグナリスを甘やかしていた自身の過去を思い出す。


 ただ一人の子供として平和の世で大事に育てていた(じぶん)が、息子(ユグナリス)の才能を見抜けず見出す事も出来なかった。

 それどころか大事に育てたせいで息子(ユグナリス)の持つ才能が育たず、むしろ成長を阻害させていたのだと自覚する。


 その不甲斐なさを感じ取りながらも、誰よりも優しい心で怒り悪魔(ザルツヘルム)に立ち向かう事を決意した姿を、ゴルディオスは感嘆する瞳で見据えた。


 一方でユグナリスは、涙を左手で拭いながら鋭い敵意と決意を秘めた表情をザルツヘルムに向ける。

 それを受けるザルツヘルムは口元を微笑ませ、右手に持つ黒い剣を構えながら声を向けた。


「――……やはり、ウォーリス様の仰る通りだった」


「……なに?」


「ガルミッシュ皇族の中で、最も危険な男。それは皇帝(ゴルディオス)でも、帝国宰相(セルジアス)でもない。……君だ、ユグナリス殿下」


「!」


「今まで計画を(ことごと)く狂わせた男。……始めは利用できる駒だと思った存在がここまでの脅威になるとは、誰も予測できなかっただろう」


「利用……?」


「君がアルトリア嬢と不仲である事を利用し、彼女を帝国から引き剥がす。そして、彼女(アルトリア)をウォーリス様が手に入れる」


「!!」


「当初の計画から大きく逸れたが、こうして予定は戻された。――……アルトリア嬢は、既にウォーリス様が手に入れていることだろう」


 ザルツヘルムはそうした言葉を余裕を見せながら語り、この事態にアルトリアの誘拐が目的に含まれている事を教える。

 それを聞いたユグナリスは驚きこそしたものの、同じく生命力(オーラ)と魔力の炎を纏う剣を構えながら鋭い表情で言葉を返した。


「……ふんっ。アンタ達は、何も分かってないな」


「?」


「あんな性悪女を欲しがるなんて、アンタの主君は随分と見る目が無いってことだよ」


「……君も、アルトリア嬢の価値を何も理解していないらしい」


「知るか、そんな価値(モノ)。あんな性悪女(アルトリア)より魅力的な女性なら、もう俺の手に入れている。こんな事をしなければ性悪女(アルトリア)も手に入れられない、アンタ達と違ってな」


「なるほど、それには反論の余地も無い。――……しかし、言葉だけでは私達に勝てないぞ。皇子」


「ッ!!」


 ザルツヘルムは左手で自身の顔を覆い、即座に瘴気の甲冑(ヘルム)を身に付ける。

 それと同時に踏み込み瘴気を纏った黒い剣でザルツヘルムが素早く斬り込まれると、ユグナリスは生命力(オーラ)と炎を纏わせ自身の剣で打ち返した。


「!」


「ハァッ!!」


 ザルツヘルムは甲冑(ヘルム)越しに赤い目を見開き、自身の剣が弾かれた状況に驚く。

 それと同時にユグナリスの剣は躊躇無く胴体部分へ斬り込み、ザルツヘルムは一歩下がりながら紙一重で炎を纏った剣を回避して見せた。


 そこで驚愕を抱くザルツヘルムは距離を保ち、剣を構えながらユグナリスと向き合う。

 しかしその時、瘴気を纏った自身の剣に赤い炎が移っている事にザルツヘルムは気付いた。


「……これは、私の瘴気(オーラ)を焼いている……?」


「まだっ!!」


「!」


 瘴気を焼く炎に意識が向いた瞬間、ユグナリスはザルツヘルムに劣らぬ速度で踏み込みながら右手に持つ剣を薙ぐ。

 その速度にもザルツヘルムは対応し瘴気の剣で防ぎ止めたが、炎を纏ったユグナリスの剣が瘴気に移り、その内部に在る鉄の刀身を(あらわ)にさせた。


「この炎、まさか……!!」


「せぁあッ!!」


「ッ!!」


 ユグナリスの炎が瘴気に及ぼしている影響に気付いたザルツヘルムだったが、剣の刃を戻したユグナリスが再び斬り込み始める。

 その速度と剣圧は尋常ではなく、悪魔騎士であるザルツヘルムの身体能力と拮抗して見せた。


 更に炎を纏った剣戟と打ち合う黒剣から、ほとんどの瘴気が剥ぎ取られる。

 その異様な光景に気付いたザルツヘルムはユグナリスの剣を薙ぎ押した後、手元にまで燃え広がろうとする剣の瘴気を床へ払い捨てた。


 そうした状況を待たずに再び踏み込み剣を上段から振り下ろすユグナリスに対して、ザルツヘルムはまた瘴気に剣を纏わせながら鍔迫り合いを始める。

 そして間近でユグナリスの放つ剣の炎を確認し、その性質を感じ取りながら理解した。


「……なるほど。瘴気まで(はら)うとは、これが『赤』ルクソードの血が成す『火』か。……だが、悪魔騎士(わたし)に拮抗できる技量はいったい……ッ!!」


「俺の師は、帝国で最も偉大だと語られる騎士だ……!」


「!」


「その騎士は、忠義を言い訳にして言いなりになってるアンタみたいな騎士(コマ)なんかじゃない……!!」


「……クッ!!」


「誰よりも厳しく、誰よりも思慮深く、誰よりも尊敬できる男……。――……俺は、その偉大な騎士の剣を受け続けた弟子(おとこ)だッ!!」


 鍔迫り合いを続けながら剣に纏わせる炎を強めたユグナリスは、悪魔化しているザルツヘルムの剣を押し返す。

 それに対抗するように瘴気を高め押し返す腕力を強めるザルツヘルムだったが、それすらも祓うようにユグナリスの炎は瘴気に燃え移り始めた。


 そして自身の剣が全て炎に覆われてしまったザルツヘルムは、自身の剣を手放しユグナリスの腹部に右足を蹴り込む。

 それすらも避けたユグナリスは、逆に蹴り込む為に体勢を崩したザルツヘルムの左肩から胸へ斬り込むように炎を纏わせた剣を振り抜いた。


「ッ!!」


「はぁあああっ!!」


 ユグナリスは瘴気の鎧を炎で斬り破り、ザルツヘルムの肉体に自身の刃が斬り込まれた感触を確認する。

 それと同時に表情を強張らせ、右手に纏わせる炎を強めながらザルツヘルムの肉体へ炎を纏わせ始めた。


「グッ、ァアッ!!」


「このまま燃え尽きろ、ザルツヘルムッ!!」


 ザルツヘルムの肉体に炎が広がり、纏っていた瘴気の炎が全て燃えながら散り始める。

 そして(あらわ)になったザルツヘルムの肉体へ更に深く斬り込んだユグナリスは、心臓に届く刃に炎を流し込みながらザルツヘルムの全身を焼いた。


 瘴気すら焼き尽くす炎に包まれたザルツヘルムは、そのまま短い絶叫を上げながら床へ倒れる。

 ユグナリスは斬り込ませた剣を引き、倒れながら炎に焼かれるザルツヘルムの肉体を見下ろしながら乱れた息を整えながら呟いた。


「……はぁ、はぁ……。……やった、のか……?」


 生死を確認するユグナリスは、炎に焼かれるザルツヘルムを見下ろす。

 しかしザルツヘルムは動く様子は無く、確実に心臓を裂いた状況と炎に包まれる姿を確認し、安堵の域を漏らして死亡した事を確認した。


 そして振り返りながら壇上側に視線を向け、微笑みを見せながら口を開く。


「ザルツヘルムは倒した! 後は、皆で逃げれば――……」


「左だ、ユグナリスッ!!」


「っ!?」


 避難を提案しようとしたユグナリスだったが、その言葉は拡声されたセルジアスの声に遮られる。

 そのセルジアスが視認していたのは、不自然に揺らめく影がザルツヘルムの持っていた剣を動かす様子だった。


 しかし反応が遅れたユグナリスは、咄嗟に避けながらも鋭い痛みを感じ取る。

 ユグナリスの左腹部にザルツヘルムの剣が十数センチに渡って斬り込まれ、飛び退いた後に再び構えた時には大量の血を流し始めていた。


「ク……ッ!!」


『――……予想を超える、見事な腕前だ。ユグナリス殿下』


「!」


『だが、やはり若い。――……悪魔がこの程度で、(ほふ)れると思わない事だ』


「な……っ!!」


 深く斬り込まれた左腹部の傷を癒しながら、ユグナリスは剣を掴み動く影から声を聞く。

 そして影が徐々に人型の姿を形成し、そして影から傷一つ無いザルツヘルムが姿を現した。


 その事態に驚くユグナリスは、痛みを堪えながら右手に持つ剣に再び炎を灯す。


「何故、確かに死んだはずなのに……ッ!!」


()の『火』は、確かに瘴気を扱う悪魔(われわれ)にとっては脅威だ。……だが炎の傍には、必ず影が付き纏う」


「!?」


「炎に照らされた私自身の肉体が、その背後に影を作った。……安定した影があれば、すり替わる事は出来る」


「……まさか、あの鎧から抜け出して、別の下級悪魔(あくま)と入れ替わった……!?」


「君の剣は、確かに悪魔を斬った。……だが残念な事に、それは私では無かった。それだけだ」


「クソ……ッ!!」


 ザルツヘルムはそう語り、再び剣を構えながら瘴気を身に纏い鎧を形成する。

 それを見ながら苦々しい面持ちを浮かべるユグナリスだったが、更に左側から迸る金色の雷光が目に移った。


 その雷光がザルツヘルムを襲い、纏おうとした瘴気の鎧を一部だけ散らす。

 そして両者が雷光の放たれた位置を見ると、そこには金色の魔力を身に纏った狼獣族エアハルトが右手を翳しながら立っていた。


「エ、エアハルト殿……!」


「……」


「――……俺の相手だ。引っ込んでいろ、小僧」


 エアハルトは電撃を纏いながらそう言い、二人に歩み寄る。

 その言葉を聞いたユグナリスは傷口を左手で押さえながら治癒力を高め、息を乱しながらも強気な態度を見せた。


「……いいえ。この男は、俺が倒します……!!」


「奇襲も見抜けないような間抜けは、邪魔だ」


「もう、邪魔にはなりません。……今度は、逃げ込める影も一緒に焼き払います……!!」


「……チッ」


 二人は譲ろうとする意思を見せず、互いに闘争心を高めてザルツヘルムと向き合う。

 その二人に見られるザルツヘルムは、改めて瘴気の鎧を纏いながら剣を構えた。


「……いいだろう。お前達に、悪魔(わたし)の恐ろしさを教えてやる」


 そうした言葉を見せるザルツヘルムは、殺意と敵意を剥き出しにした瘴気を纏いながら二人と対峙する。

 それに対してユグナリスとエアハルトは同時に構え、互いに飛び出すようにザルツヘルムに襲い掛かった。


 こうして悪魔騎士ザルツヘルムと対峙するユグナリスとエアハルトは、会場内にて激戦を続ける。

 しかし二人の女性を目的とした襲撃は継続しており、二人の知らぬ場所で状況は時間が経つにつれて悪化していた。


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