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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 三章:オラクル共和王国

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鳴り響く禁忌


 オラクル共和王国に潜入したクラウスとワーグナーを含む黒獣傭兵団の一行は、王都から移り住んだとされる貧民街の人々を探して南方の元貴族領地へと向かう。

 敢えて東方から迂回しながら南方を目指す一行は、ついに南方を超える為に必要な山越えをしようとしていた。


 王国時代から国内の地理を把握している黒獣傭兵団達の案内と、各村や町で得た情報を(もと)に、兵士が配置される関所や検問所を避けながら一行は進む。

 そして南方の内乱後から何十年と使用されていない荒れた山道を通れる事を確認し、大型の荷馬車を馬と共に押しながら進め、山を越えて南方の土地へ潜入する事に成功した。


 そうした状況で山を越えた事に安堵を漏らす一行の中、ワーグナーとクラウスは秋を迎えて冷え込み始める空気とは裏腹に、高まる体温と流れる大量の汗を拭きながら話し合う。


「――……ここまでは、何とか順調だな」


「ああ。……だが、順調過ぎる」


「!」


「南方で隠すべき何かを行っているにしては、東側の監視が甘い。外国からの移住者や訪問者が多い東側からの潜入を、最も警戒すべきだろう。違うか?」


「……確かにな。だが、この共和王国(くに)もまだ出来たばっかりなんだろ。村や町を作るのに集中し過ぎて、放置されてる南側は雑なままなのかもしれんぞ」


「その可能性もあるだろう。……だが、この共和王国(くに)が内外から兵士を募っているという話。覚えているか?」


「ああ。それが?」


「気付いていなかったか? ……外国からも兵士を集めているにしては、王都でも東側でも外国人らしき兵士が極端に少なかった」


「!」


「兵士の数にしても、あれほどの村や町が建設され移民達が暮らして居たのだ。外国人兵士が多く居ても不思議は無いはず。……だが少なくとも、国境に近い西側と我々が通って来た東側、そして王都でも、そうした兵士達をあまり見かけなかった」


「……じゃあ、外国から集まった兵士は……」


「この南方に集められている可能性がある。……だが旧王国の兵士ではなく、外国人兵士を集めて何の訓練をさせているのか。それが私にも分からんがな」


 クラウスは自身が挙げる推察の限界を教え、軽く手の平を見せながら嘲笑気味に話す。

 それを聞いていたワーグナーは汗を流す顔を布で拭くと、改めて表情を引き締めながら口を開いた。


「……警戒は、緩めるなってことだな」


「そうだな」


「――……おい、まだ気を緩めるなよ! 少しでも怪しかったり不自然に思った事があったら、迷わず報告だ!」


「へい!」


「了解!」


 南方が今も危険地帯である事を自覚させる為に、ワーグナーは団員達に呼び掛けながら警戒を強めさせる。

 それに応じる団員達と共に二人は水と食事の補給を終えた後、再び馬や荷馬車へ跨りながら目的地である南方の元領都から離れた田舎地域を目指した。


 途中、クラウス達は廃村や廃町を幾つか発見する。

 その全てが三十年前に起きた内乱で荒らされ放置された状態にあり、そのまま廃れた場所となっていた。


 そうした場所に近付く際、クラウス達は荷馬車を村には近付けずに身を潜ませ、二人か三名で廃村や廃町の中を探索する。

 そこで暮らす者達が居ないかを確認し、使えそうな物などが残されていれば拝借した。


 しかし捜索中、生きた人間を発見する事は出来ない。

 ただ腐敗し白骨化した遺体などが幾つかあり、その周辺は何者かに荒らされた場所や黒く染まった古い血痕が見受けられた。


 そうした惨状を見るクラウスと共に訪れたワーグナーは、廃村を見回しながら呟く。


「――……三十年前の内乱で、討伐軍の奴等に襲われた村らしい」


「そうか。……この状況、かなり(むご)い事になったようだ」


「ああ。……おやっさんが俺達を行かせなかった理由が、今になってよく分かる……」


「おやっさん?」


「俺やエリクを傭兵団に入れてくれた、ガルドって人だ。……三十年前の内乱に参加したガキの俺等は戦いが終わった後、そのまま王都に戻った。多分、こういう事を見せない……いや、させない為だろうな」


「……」


「戦うってことは、奪うか奪われるって事だ。そんな事も、もう十分に知ってる。……だが多分、ガキの俺達がここで起こった光景を見たら。……殺し合いの戦場に居た時よりも、色々とヤバくなってたかもしれん」


 ワーグナーはそう述べ、過去の出来事を振り返りながらかつて理解していなかったガルドの意思を汲み取る。


 三十年前に起きた王国の内乱で、黒獣傭兵団は最前線で戦った。

 しかし戦場の戦利品以外は持ち帰らずに、勝利し都市や町を侵攻する討伐軍に追従はしていない。


 ガルドは子供だった二人に対して、そうした光景を見るべきではないと語っていた。 

 その理由を当時は完全に理解できなかったワーグナーだったが、年齢と経験を重ねた事で今になって師ガルドの思いを知る。


 傭兵は戦場以外で、人殺しをする必要は無い。

 そうしたガルドの意思を理解しながらも、ワーグナーはその意思を全て肯定できない事もあった。


「……おやっさん。俺も、戦い以外でも人を殺しちまったよ」


「……」


「そのせいで、俺がウォーリスの奴に恨まれてるんだとしたら。……俺が黒獣傭兵団(みんな)を、そして貧民街の連中も、追い込んじまったってことかな……」


 ワーグナーは曇る空へ顔を見上げながら呟き、既に亡きガルドへ僅かな後悔を語る。


 傭兵は依頼(しごと)で生きる者を殺す生業である以上、遺恨や敵視される事は避けられない。

 しかし依頼(しごと)以外で感情に任せて誰かを殺める行為は、傭兵の生業から大きく外れている。


 そうした事をしないようにガルド自身から注意を受けていたワーグナーだったが、結局は感情を優先して腐敗した王国貴族とその関係者達を殺めていた。

 それがベルグリンド王国で勇名を馳せた黒獣傭兵団の裏側であり、誰からも誇れる部分ではない事をワーグナーは承知している。


 しかしそうしなければ、守れなかった者達も遥かに多い。

 だからこそ自身の選んだ道を後悔しないと決めていたワーグナー自身が、様々な思いに苛まれながら弱音を漏らしていた。


 その弱音(ことば)を聞いたクラウスは、ワーグナーに向けて告げる。


「……悔いる事も、またいいだろう」


「……」


「人とは、自身の過ちを認めてこそ成長できる。……だが決して、後悔で足を止めてしまってはならない」


「……!」


「お前は多くの選択をし、現在(いま)の道に立っている。……そしてお前の選んだ道に、付いて来てくれている者達がいる」


「……ああ」


「お前がすべきことは、後悔と反省だけではない。お前が選択した道を見定め、付いて来る者達の導く。……それが指導者として在るべき姿だと、私は思っている」


「……指導者か。……ガラじゃねぇな。俺も、そしてアンタにしてもな」


「ふっ」


 クラウスとワーグナーはそうした語らいを見せ、互いに自分自身の現状を嘲笑するように微笑み合う。

 そして二人は廃村から出ると、団員達と合流して再び目的地を目指す為に荷馬車と馬の足を進めた。


 一行は警戒しながら慎重に足を進め、出来るだけ荷馬車の車輪や馬の蹄が残す痕跡を消しながら道を進む。

 その為に進行速度は遅く、目的地に向かうまでに二十日以上の時間を掛けていた。


 幸いにも東側の町に寄り保存の利く食料を多く買い込んで荷馬車に積む事が出来、季節も冬へ近くなり気温が下がり始めているので、食糧に関しては問題は無い。

 飲み水も途中で小川などを見つけ、沸騰させ濾過(ろか)して水筒に補充している。

 無理に動物や魔物を狩る為に足を止める必要もなく、一行は荷馬車でも通れる比較的安全となる順路を進み続けた。


 しかしある日、荷馬車と馬の足音がが僅かに響く森の中で一行は思わず足を止める。

 それは全員が共通した理由であり、クラウスとワーグナーは顔を合わせながら互いに話し掛けた。


「――……おい、今の……」


「やはり聞こえたか?」


「ああ。……なんだ、さっきの音……?」


「……まただ。……向こうから聞こえる」


 二人の他にも、後ろから追従している黒獣傭兵団の団員達も同じ音を聞いて表情を強張らせる。

 そしてクラウスが耳に届く音が鳴る位置を察し、ワーグナーは馬を降りて後ろの団員達に命じた。


「俺が見て来る。お前達はここの付近で、荷馬車と馬を隠せる場所を探せ」


「了解」


 ワーグナーは団員達に指示し、荷馬車と馬を隠して耳に届く音の正体を探ろうとする。

 それを聞いていたクラウスは、自身も荷馬車を降りながらワーグナーに伝えた。


「私も行こう」


「いや、俺だけでいい。アンタも荷馬車を隠して――……」


「……この音だが、私には聞き覚えがある」


「!」


「予想が正しければ、お前が見てもあの音の正体が何なのか分からない可能性が高い。私も連れて行った方が、より詳細な情報が得られるぞ」


「……分かった。おい、こっちの荷馬車(やつ)も隠しておけ」


「了解」


 クラウスの強めに述べる口調を聞き、ワーグナーはその意見を取り入れる。

 そして荷馬車と馬を団員達に委ねたクラウスとワーグナーは、互いに武器を持ち音が鳴る場所へ身を潜めながら足を進めた。


 それから十数分程の位置で、森から抜けて拓けた場所に二人は辿り着く。

 その位置は崖となっており、二人は身を屈めながら崖下を見下ろした。


「――……これは……!」


「……やはりか」


 二人は崖下の開けた土地で行われる光景を見て、互いに対象的な表情を見せる。

 特にクラウスは僅かに目を大きく見開いたが、すぐに冷静な表情に戻しながら目の前で起きている状況を理解した。


 そこには数百名程の外国人兵士達が集まり、ある武器の訓練を施されている。

 それは四大国家が法として製造と使用が禁止されている武器、『銃』を用いた射撃訓練が大規模な形で行われていた。


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