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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 二章:それぞれの秘密

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新たな訪問者達


 リエスティア姫の実兄ウォーリスと話す機会を得たセルジアスだったが、その口から予想外の言葉を聞かされる。


 ウォーリスの視点から語られる幼い頃のリエスティアの秘めたる才能と、彼等の祖母である元ルクソード皇国女皇ナルヴァニアがクラウスに礼を呼ばれる関係だった(こと)

 それ等の情報はセルジアスの思考を困惑させ、自身の知る盤上(こと)の外側で何が起こっていたのかを把握できないまま、ウォーリスへの警戒を深くさせるに至った。


 そうした中でリエスティアが懐妊したという情報が届き、更に本邸を置くローゼン公爵領の都市が襲われるという緊急事態が勃発する。

 情報が整理される間も無いまま領地へ帰還を促されたセルジアスは、代理の者に同盟都市建設の責任者を任せ、リエスティアの懐妊と領地襲撃の情報をウォーリスに渡し、共に同伴する形でローゼン公爵領地に帰郷する事となった。


「――……まったく。ユグナリスといい、アルトリアといい。あの二人は、いつも面倒事を起こすんだからな……」


 アルトリアと盤上遊戯(チェス)を行った後、仕事の為に書斎へ戻ったセルジアスは溜息を()きながら愚痴(ぐち)(こぼ)す。


 この二人が起こした出来事が反響を呼び起こし、人間大陸に混乱を招いている。

 それを誰かに言えば誇張にも思われるかもしれないが、実際にこの二人の仲違いを始まりとして各国に様々な波紋を呼んでいた。


 特に逃亡後のアルトリアは自身の能力を明かしながら様々な出来事に介入し、四大国家を含む各大陸が注目を集める程。

 今回の領地襲撃も数多くの魔導人形(ゴーレム)と高度な魔法技術が用いられた事から、アルトリアを狙ったホルツヴァーグ魔導国が関わっている可能性が高いとセルジアスは考えていた。


 そうした事を考えながら書斎の中で襲撃対策と措置に関する書類を作成している中、扉を叩く音が聞こえる。

 視線と顎を上げて椅子に座ったまま姿勢を正したセルジアスは、大きめの声を発して応えた。


「……どうぞ」


「――……セルジアス様。失礼します」


 扉を開けたのは家令の老人であり、丁寧な動作で扉を閉める。

 そしてセルジアスが仕事をしている机に近付き、数歩ほど離れた距離で立ち止まった。


「どうしたんだ?」


「ログウェル様とガゼル子爵様が、面会を御求めになって御伺いしています」


「一人ずつで、かな?」


「いえ。御二人と、それとガゼル子爵が御連れしている方も二名いらっしゃいます。その方も含めて四名で、面会を御求めです」


「四名で……。……分かった。客間の方で、ニ十分ほど御待ち頂くように御願いしてくれ」


「承りました」


 セルジアスは訪問者がログウェルとガゼル子爵だと聞き、その二人が同時に面会に赴いた事を不可解に思う。

 しかし両者が何かしらの事情を示し合わせた上で面会を求めている事を察し、それを受ける事に決めた。


 進めていた書類の作成を手早く終えた後、それ等を家令達に預けて身嗜みを整える。

 そして予定通りニ十分が経った頃合いに客間へ訪れ、そこで待つ者達と面会した。


「――……お待たせしました。ログウェル殿。そしてガゼル子爵と、御連れの方々」


「御久し振りです。公爵閣下」


「忙しい中、申し訳ありませんのぉ」


 セルジアスの迎える為に長椅子(ソファー)から立ち上がったログウェルとガゼル子爵は、丁寧に礼を見せる。

 それに応じるセルジアスは対面の椅子まで歩き、二人が座る長椅子(ソファー)の後ろに立ちながら控えている残り二名を見た。


 一人は体格の良い男性で、ガゼル子爵家の軽装鎧の兵服姿のまま鉄兜を被り、鍔部分で瞳部分が隠れながらも金色の髪と髭が見えている。

 もう一人は頭を隠し外套を身に付けた褐色肌の人物で、隣に立つ男よりも背は低くも体幹がしっかりとしている事が理解できた。


 セルジアスは座る前にその二人に注目し、外套を身に付けている人物を見て僅かに微笑む。

 そして四名が位置する対面の長椅子(ソファー)に腰掛けると、姿勢を整えながら四名と向き合った。


「……御二人で面会を求められたと聞いています。どのような御用件でしょうか?」


「では、儂から話して(よろ)しいかな?」


「どうぞ。ガリウス様」


 問われた二人は互いに視線を交え、ログウェルの言葉にガゼル子爵は頷きながら答える。

 そしてログウェルは視線をセルジアスへ戻し、自身の用件を伝えた。


「まず、簡潔に御伝えしましょう。――……今回の襲撃は、『青』の七大聖人(セブンスワン)が関わっておる可能性が高い」


「!」


「しかも『青』単独か、もしくは『青』を中心とした少数で今回の襲撃(こと)が起こされた可能性がある。それを御伝えしておきたいと思いましてな」


「……つまり、ホルツヴァーグ魔導国は今回の襲撃に関わっていないと?」


「少なくとも、国は関わっておらんでしょうな。仮に関わっておれば、この都市は多くの死者に見舞われながら完全に陥落し、アルトリア様は誘拐され、クレア様やユグナリスを始めとした者達は殺されておったでしょう」


「……なるほど。確かに、その通りかもしれません」


 ログウェルの言葉は不思議と説得力を含んでおり、セルジアスは頷きながら理解を示す。


 今回の襲撃で負傷者こそ存在したが、どれも重傷と呼ばれるような状態ではなく、死者は一人として存在しない。

 被害も結界を展開させていた魔導器が全損し、別邸を含む周辺が破壊されたこと以外は特に確認されておらず、明らかに襲撃の規模に比して被害が一致していないことが窺えた。


 そうした情報を含めて理解を示したセルジアスを確認すると、ログウェルは続けて自身の推察を伝える。


「また、今回の襲撃がどのような目的で行われたかについてですが。……クレア様とは、御話になられましたか?」


「いいえ。まだ事後処理が忙しく、御話を伺えていません」


「そうですか。では、儂から御伝えしましょう。……今回の襲撃は、おそらくアルトリア様を目的としたモノではありません。目的があったとすれば、リエスティア姫の方かと」


「……どういう事でしょうか?」


「敵の襲撃者がリエスティア姫の居る寝室へ転移し、護衛をしていた者達を無力化した。その中にユグナリスも含まれておりましたが、特にユグナリスを狙う素振りは無く、また共に居たクレア様を狙う素振りも無かったそうです」


「……しかし、リエスティア姫は狙っていた?」


「らしいですのぉ」


「ログウェル殿の推察が正しければ、どうして『青』の七大聖人(セブンスワン)がリエスティア姫を狙ったか分かりますか?」


「それは、彼女の素性……生まれ方が関わっているかもしれません」


「生まれ方……?」


「その辺りの事情は、アルトリア様から伺うとよろしいでしょう。儂もまた、アルトリア様と同意見ですので」


「……分かりました。後でアルトリアに聞いてみましょう」


 ログウェルの推察を素直に聞き入れたセルジアスは、今回の襲撃事件が単純な誘拐目的では無い事を察する。

 しかも襲撃の狙いがリエスティア姫だと理解すると、ある疑念が思考の中に浮かび上がった。


 それを思考の中で形作る前に、ログウェルは横に居るガゼル子爵へ視線を向けながら伝える。


「それと、儂がガゼル子爵と共にこの場に赴いた理由ですが。貴方に会わせるべき者がガゼル子爵と共に訪れているのに気付いたから、と言うべきでしょうな」


「……それは、彼女の事ですか?」


「ほぉ、お気付きですか?」


「一度、彼女とは試合(しあ)った事もありますから。――……貴方も、御久し振りですね」


「――……ああ」


 セルジアスは二人の背後に立つ外套を身に付けている人物を見ながら、その名を呼ぶ。

 その人物は応えるように頭のフードを外すと、その場で素顔を晒した。


 その人物は、南方の樹海に棲むセンチネル部族の女勇士パール。

 一年程前に帝国と盟約を結ぶ為に樹海の使者としてローゼン公爵地に訪れ、その交渉の席に着いた女性。


 パールが一年ぶりにローゼン公爵領地に訪れ、再びセルジアスと相まみえた。


「パール殿。御元気でしたか?」


「ああ」


「そうですか、それは良かった。――……ガゼル子爵。何故、彼女をここへ?」


「はい。盟約に関する交渉が色々と纏まりましたので、その説明を公爵閣下に直々に御伝えしたいということで、彼女を御連れした次第です」


「なるほど。確かに片方の言葉だけで内容を伝えられるのは、問題が起こり易いでしょうからね」


 ガゼル子爵がパールを連れて来た理由を尋ねると、その答えが淀みなく返される。

 それをセルジアスは頷きながら納得したが、申し訳なさそうに二人にその件に関する事を伝えた。


「ここまで赴いてもらって恐縮ですが。貴方達も御存知の通り、我が領地が何者かに襲撃されました。その対応で今は忙しく、盟約に関する事はそちらの件が落ち着いてから対応する事になるでしょう。それまで暫し、御待ちください」


「理解しております。どうぞ公爵閣下には、御自身の事を最優先に行って頂きたい。パール殿も、それでよろしいですか?」


「ああ、構わない。今のアタシは、次期大族長の立場としてここに来ている。いつでも戻っていいし、いつでも樹海の外に出ても構わなくなった」


「……次期、大族長?」


「大族長が、アタシを次の大族長に指名した。この盟約が成功した暁には、正式にセンチネル部族が樹海の中心になる」


「……どういう事でしょうか?」


「大族長に選ばれた勇士の部族が、樹海では一番偉くなる。だから大族長になるアタシが居るセンチネル部族が、樹海の中心になる。そういう話だ」


「……なるほど、交代制での集権制度ですか」


「しゅうけん? まぁ、多分そうだ」


「しかし、次の大族長ならば。むしろ樹海から出るべきではないのでは?」


「今後、樹海は帝国(そと)の者達と深く接していく。なのに大族長が帝国(そと)の事を知らなすぎるのはよくない。今の大族長がそう述べ、アタシに見聞を広める事を許した」


「そうですか。こちらとしては、樹海(そちら)の政治的状況に口を差し挟むつもりはありません。ただし各領地への検問などは、ちゃんとガゼル子爵家の許可を頂いてから御越しください」


「分かった」


 セルジアスはパールと話を交え、結ばれた盟約後に樹海で起きている出来事の一部を知る。

 次の大族長となる事を指名されたパールは樹海での立場が大幅に代わり、全部族の勇士を束ねセンチネル部族を中心に帝国との盟約を進める中心人物となっていた。


 そしてガゼル子爵に伴われて来た事情をセルジアスは理解すると、次の疑問へと視線を向ける。

 それはパールの隣に立つ兵士姿の男性であり、その人物に視線を向けながらガゼル子爵に尋ねた。


「……それで。そちらの方は?」


「――……なんだ。俺が分からんか? セルジアスよ」


「!?」


 控え立つ後ろの兵士が口元を吊り上げながら言葉を発し、セルジアスの疑問を一蹴する。

 その兵士が発する声にセルジアスは驚き、思わず腰を上げて立ち上がった。


 それを見た兵士は自分で鉄兜を外し、その素顔を晒す。

 それと同時に鉄兜の中から長い金髪が流れるように兵士の身体に降り掛かり、その人物の顔と姿を見たセルジアスと扉付近に控えていた家令の老人は驚きを浮かべた。


「……ま、まさか……!?」


「父上……!」


「久しいな。セルジアス」


 家令の老人とセルジアスは互いに驚愕し、その兵士は口元を吊り上げながら微笑みを浮かべる。


 それは家令の老人にとって仕えていた元主人であり、セルジアスにとっては超えるべき壁である存在。

 三年前に起きた内乱で死亡したとされているクラウス=イスカル=フォン=ローゼンが、ガゼル子爵家の領兵を装い実家へ帰省した事がこの場で明かされた。


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