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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 一章:目覚める少女

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謎の人物


 リエスティアを目的とするかのように別邸に乗り込んだ謎の人物は、その姿を黒い布で覆った外套で纏いながら別邸近くの森林へ侵入する。

 そしてアルトリアもまた森林へ飛び込むように入り、謎の人物を追跡していた。


「――……逃がさないわよッ!!」


「!」


 アルトリアは距離が詰められない相手に対して苛立ちを見せ、走る足を止めて地面に両手を着く。

 そして手から放たれる白い輝きが地面を伝うように光の速さで移動し、謎の人物が走る地面へ到達した。


 すると謎の人物の周囲にある地面が突如として盛り上がり、走る姿勢を崩させる。

 そして進路を阻むように木々を押し退け倒しながら、巨大な土壁を作り出した。


 更に謎の人物の正面だけではなく、左右と後方も閉ざすように巨大な土壁を形成し始める。

 そして高さ二十メートルを超え、厚さ三メートルを超える分厚い土壁が森の中に出現することとなった。


「さぁ、捕まえたわよ。土の棺桶(かんおけ)に埋められた気分はどう?」


「……」


「魔法を無効化できるらしいけど、そんなの魔法で作り出した贋作(もの)じゃなくて、実物(ほんもの)で押し潰せば済むのよ」


「……ッ」


「それに、魔法は人体に魔力(マナ)を取り込んで発動させるモノでしょ? だったら、十分に呼吸できない土の中では魔法は使えないわよね。……このまま潰されて息も出来ないまま死ぬか、大人しく捕まるかを考えなさい」


 謎の人物を拘束する為に土壁の中を大量の土で満たしたアルトリアは、不敵に微笑みながら選択を迫らせる。


 呼吸により大気中の魔力(マナ)を人体に取り込み、術者が意図的に構築式を刻んだ魔法陣を用いて『魔法』という現象を発現させる現代魔法をアルトリアは承知していた。

 ならば術者が呼吸できない状況に持ち込めば、例え転移魔法を使える優秀な魔法師だとしても、抗う術を持たないだろうと対抗策を考え付く。

 更にユグナリスが伝えた魔法の無効化という現象も魔法の一種だと考え、魔法で作り出した土ではなく、実際の土を使って謎の人物を拘束した。


 その戦術を一瞬で考え実行に移せる実力を、記憶の無いアルトリアは披露する。

 しかも構築式や魔法陣を用いずに魔法に似た現象を行使する姿は、明らかに現代の魔法師とは異質な様子が窺えた。


 アルトリアは勝利を確信し、土の棺桶を見上げながら捕らえた謎の人物が根を上げる様子を待つ。

 しかし十数秒の沈黙が続いた後、アルトリアは分厚い土壁の内部で何かが起きた事に気付いた。


「……なに? この音……」


 アルトリアは土壁内部から音が響いている事に気付き、怪訝そうな表情を見せる。

 しかし次の瞬間、内部で起きている異変が表に出て来るようにその姿を現した。


「……!!」


「――……」


 アルトリアは土壁の一画に視線を向け、目を見開きながら驚愕した様子を見せる。

 その部分から分厚く凝縮された土壁を破壊して這い出る一本の黒い腕が突き出すと、そこから抉じ開けるように謎の人物が土の中から這い出て来たのだ。

 

 土の棺桶から完全に抜け出し地面へ落ちるように着地した謎の人物は付着した土を払いながら、アルトリアと向かい合う。


 謎の人物は変わらず顔も姿も黒布の外套で隠れている為、表情を始めとした様子が見ただけでは分からない。

 しかし二度目に向かい合ったアルトリアは、相手と自分に体格の差が無いことに気付いた。


「……アンタ、もしかして女?」


「……」


「にしては、随分と馬鹿力ね。……そういえば、さっき転移してた連中。アレって人形よね? ……ということは、アンタも人形?」


「……」


「じゃ、ないわよね。……身体はそうでも、少なくとも中身(なか)には居るみたいだし」


 アルトリアは淡々としながら話し、向かい合う謎の人物に対する考察を述べる。


 砂利や石などを含んで凝縮された土に挟まれた中、あっさりと突き崩して這い出る膂力は明らかに人間の力では不可能。

 更に土に含まれる酸素を搾り出すように排出させた土の中から這い出て来たにも関わらず、短時間ながらも呼吸を乱していない様子から、身体すらも生物ではない事が窺えた。


 しかしそれと相反するのは、他の人形達と違い感情にも似た意思が動きで見えること。

 つまり身体は人形でありながら、その中には確かに人の意思(たましい)が在る事がアルトリアには理解することが出来ていた。


「アンタの目的は何? どうしてあの子を狙ってるの?」


「……」


「喋れる内に、喋っておいてほしいんだけど。……じゃないと、アンタの人形(からだ)を粉々にしちゃいそうだから」


 アルトリアは自信に満ちた表情で右手を握り、白い輝きを宿らせる。

 それを見た謎の人物は、初めてアルトリアの前で声を発した。


「――……相変わらずね」


「……?」


 謎の人物は、まるで口を手で覆ったように篭る声を発する。

 しかし発せられた言葉は、アルトリアに訝し気な表情をさせるに十分なモノだった。


「……相変わらずって、どういうことよ?」


「分からない? 私のことが」


「なによ、アンタも私の知り合いなの? ……悪いけど、記憶が無いから覚えてないわ」


「知ってるわよ」


「そう。だったら、自己紹介くらいしてくれても良さそうだけど?」


「悪いけど、今のアンタに名乗る気は無いわ」


「なんでよ?」


「私も、色々とやることがあるからよ」


「あっ、そう。……じゃあ、それをやらずに済むようにしてあげる」


 アルトリアと謎の人物は会話を交えたが、話は平行線となる。

 それに苛立ちを僅かに込めたアルトリアは、右手を翳し白い輝きを強めながら拳を握り締めた。


 するとアルトリアが作り出した土壁が突如として崩れ、謎の人物を覆うように雪崩(なだ)れ込む。

 それに気付き大きく横へ跳び避けた謎の人物だったが、崩れる土がまるで蛇の身体のように変化し形成された複数の土蛇が、地面へ着く前に謎の人物を追いながら巨大な口を開けて襲い掛かった。


「噛み砕け」


「!」


 土蛇の頭達が謎の人物を囲い、四方八方を塞ぐ形で追い詰める。

 そして一斉にそれ等の頭が口を開けて襲い掛かると、謎の人物は左腕を動かし腰部分の外套内に手を入れた。


 謎の人物は何かを握り締め、左腕を周囲へ振り翳す。

 すると襲い掛かった土蛇の頭が全て様々な角度で切断され、土へ還るように崩れて落下した。


 アルトリアはそれを見て、謎の人物が握り持つモノに注目する。

 それを見た瞬間、アルトリアは頭痛にも似た痛みを頭に走らせた。


「……アレは……ッ」


「……」


 アルトリアが見たのは、木製の短い杖。

 その杖の先端には白い魔力の剣が作り出され、そこには洗練された加工技術で作り出されたであろう白く綺麗な魔玉が嵌め込まれていた。


 こうして対峙した謎の人物は、自身が持つ武器(つえ)を明かす。

 それはアルトリアに鈍い頭痛を起こさせ、魂を揺さぶる程の存在にすら思えさせた。


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