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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 一章:目覚める少女

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襲撃者の目論見


 時は少しだけ遡る。


 ローゼン公爵家が統治する都市が極光と共に襲撃され、その内外で転移魔法と思しき光の渦によって現れた人型の魔導人形(ゴーレム)達に包囲された。

 その中でアルトリアやリエスティア姫が滞在する中央敷地内の別邸もまた、魔導人形(ゴーレム)達に包囲されてしまう。


 そして身重の身体で寝室に寝かされていたリエスティア姫は、婚約者候補の皇子ユグナリスやその母親である皇后クレアと逃げる準備を整えようとしていた頃。


 一方のアルトリアは、借りていた客室から窓の外を見てまま立ち尽くし、包囲されつつある状況に対して動こうとしない。

 それを見かねた老執事バリスは、アルトリアの傍に歩み寄りながら告げた。


『――……アルトリア様。急ぎ、御逃げになる準備を』


『逃げる?』


『はい。このままでは、別邸(ここ)は直に包囲されるでしょう。ここは皇后様やリエスティア姫と共に――……』


『そうじゃなくて。逃げるって、何処に逃げるのよ?』


『!』


『見たでしょ? 都市(ここ)の結界を壊した奴なら、都市ごと次の一撃で完全に破壊できる。なのに、今から逃げて間に合うワケがないでしょ』


『……それは、確かに』


『ここの敷地から都市の外に出るだけでも、一時間以上は掛かるわ。広く強固に作った都市だけに、それが仇になったわね』


 呆れるように述べるアルトリアの言い様は、この都市に訪れた時に『景観』の悪さを皮肉として述べていた言葉と重なる。


 外壁や内壁を設けて規模を広く強固に築いた都市は、外壁から押し寄せて来る敵に対しては確かに有効な都市作りがされていた。

 しかし一方で、都市の上空は結界以外の防御手段や防衛手段を持っておらず、上空(そこ)から襲撃された際には逆に広く強固に作り過ぎた都市と、内壁や外壁が邪魔となって人々が逃げる場所を失ってしまう。


 実際にルクソード皇国でも、『神兵』ランヴァルディアに無防備なまま上空から攻撃され、皇都の大部分を破壊され多くの人間が逃げ惑い、内外の壁や多くの建物が邪魔をして避難が円滑に行えなかった。

 ローゼン公爵領地では地下を利用した避難施設なども作っているが、十万人程いる都市の市民が避難し終えるまでにも一時間以上の時間は掛かるだろう。


 そうした事情を知るバリスは、今更ながらアルトリアが上空から襲われる事も既に考え終えていた事を悟り、感服した様子を見せながら敢えて尋ねた。


『アルトリア様は、この事態にどのようにすべきか。何か御考えはありますか?』


『そんなの簡単でしょ』


『簡単?』


『さっきも言ったけど、敵は次の一撃で完全に都市(ここ)を破壊できる。なのにわざわざ、こうして都市の中に戦力を送り込んで来るって事は、都市の破壊が目的じゃないのよ』


『……では、これは貴方を狙う者達の企てであると?』


『それ以外にあるの?』


『いいえ、ございませんな』


『だったら、敵の狙いは私ってことね。狙われてる私がここで待ってれば、勝手に向こうの術者が乗り込んで来るでしょ。それを叩いて、奴等の作戦を台無しにすればいい』


『自ら囮になるおつもりですか?』


『まぁ、言っちゃえばそういうことだけど。――……でもそれは、私に勝てる奴が乗り込んで来た場合に限るわね』


『!』


『バリス。アンタは皇后さんとか御姫様が別邸(ここ)から離れる為に、退路を確保して来なさい。――……どうやら外のお爺ちゃんだけじゃ、別邸(ここ)を守り切れそうになさそうだし』


『しかし……』


『狙われてる私も一緒に逃げたら、他の人達も巻き込まれちゃうでしょ? だったら、無関係な人達は別邸(ここ)から離れるべきだわ。外のお爺ちゃんと別邸(ここ)の全員が協力すれば、都市までだったら逃げ切れるでしょ。……まぁ、都市も無事だったらの話だけどね』


『……分かりました。では皆さんを逃がし終えた後、私が御迎えに参ります』


『別にいいわよ。その時には、私が狙ってる奴を全滅させておくから』


 アルトリアはそう伝えて客室に待機し、バリスはその命令に応じて別邸に滞在していた騎士達と共に皇后クレアやリエスティア姫の退路を確保する為に協力する。

 そして別邸の正面出入り口や各出入り口が突破された衝撃が響き聞こえた時、アルトリアは窓越しに上空を見上げ、眉を顰めながら呟いた。


『……おかしいわね。私がここで一人になれば、すぐに本命(じゅつしゃ)が乗り込んで来るかと思ったけど。……なんでわざわざ、別邸(ここ)の出入り口を潰しに……。……私以外は、全滅させる気?』


 自身が狙われていると考えていたアルトリアは、こうして一人の状況を作り攫い易くしたにも関わらず、それを狙うように術者が乗り込んで来ない事を不可解に思う。

 そうした事を考えながら僅かに視線を伏せた後、自身の胸部分がざわつく感覚を味わった。


『……なに、これ……?』


 胸の奥から感じる熱さと共に胸の高鳴りが強まり、自身の耳を通して心臓の鼓動が聞こえる。

 その不可解な感覚を味わいながら窓から視線を外したアルトリアは、ある方角を見ながら眉を(ひそ)めて呟いた。


『……まさか、今回の襲撃は私じゃなくて、別の――……!!』


 アルトリアは自身の口を動かして思考を回し、ある結論に辿り着く。

 それは今回の襲撃が自身を目的とした行動(モノ)ではなく、まったく別のモノを狙った行動(モノ)だという推測だった。


 そして今現在、この別邸でそれらしい理由となる人物が三人ほど居る事をアルトリアは瞬時に察し、部屋の外へ飛び出るように走りながらその場所に向かう。


『――……私以外で狙われそうなのは、三人。この帝国(くに)皇后(クレア)皇子(ユグナリス)。……そして、もう一人が……クロエオベール。リエスティア……!』


 アルトリアはこの状況でその三人が集まるだろう場所に目星を付け、轟音が響く別邸の廊下を走り抜ける。 

 そして一分もしない内にその部屋へ繋がる扉を開けると、自身の予想が当たっていたと悟れる出来事が起きていた。


『――……チッ、やっぱり……!!』


 リエスティア姫が居た寝室の手前に在る居間(リビング)では、待機していたであろう侍従達や帝国騎士達の全員が倒れ伏している。

 その生死を確認しないまま倒れる者達を跳び越え走るアルトリアは、寝室に繋がる扉を押し退けるように開いた。


『……!!』


 寝室内の光景を見たアルトリアは、目を見開く。


 そこには壁際で倒れる複数の騎士達と、壁際で剣を支えに立ち上がろうと必死に藻搔くユグナリスの姿があった。

 更に寝台(ベット)の傍で車椅子に座るリエスティアと、それを庇うように守る皇后クレアと侍女の姿が見える。


 そして彼女達の目の前には、黒い外套を羽織った身に覚えの無い人物が左手を伸ばし向ける姿を見て、アルトリアはその人物こそ今回の襲撃を起こした術者(てき)だと瞬時に理解した。


『……その子から、離れろッ!!』


『!』


 アルトリアは表情に怒気を含み、自身の右手に白い輝きを宿す。

 その声を聞いた謎の人物は視線を扉側に逸らし、そこから自分を狙うように放たれる白い波動砲撃(こうげき)を視認した。


 すると謎の人物は、瞬時に自身の周囲に結界を作り出す。

 それに合わせるように、室内に居るアルトリアとユグナリス以外の全員にも同じ結界が張り巡らされた。


 そしてアルトリアの放った魔力砲撃(こうげき)は謎の人物を飲み込み、白い波動が部屋の壁を突き破る。


 部屋の中はアルトリアの波動砲撃(こうげき)で生じて飛び散る瓦礫や埃が舞い、それぞれの視界を妨げた。

 しかし波動砲撃(こうげき)によって壁に開いた壁の穴から風が入り、宙に舞う埃を押し退けながらそれぞれの視界に映る光景を鮮明にさせる。


『……ア、アルトリアさん……!』


『そっちは無事?』


『え、ええ……』


 視界が拓けて声を掛け合うのは、皇后クレアとアルトリア。

 クレアは変わらずリエスティアを守るように庇った姿勢のまま、その傍には侍女も身を挺して爆風から守るように二人の前に立っていた。

 

 しかし拓けた視界は、同時に望まぬ光景も目にさせる。

 それを真っ先に見たのはリエスティアを守っている侍女であり、護衛として両脚の太腿に備えていた短剣(ナイフ)を両手に構え、警戒の声を向けた。


『――……気を付けてください! まだ……!!』


『!』


『!?』


 侍女の声を聞き、アルトリアとクレアは侍女が視線を向ける方角を見る。 

 すると風で晴れる埃が出て行く壁の穴付近で、平然とした様子で立っている人影が確認できた。


 そしてその人影に対する埃も晴れ視界を拓けさせた時、アルトリアは僅かに眉を顰めながら鋭い視線を向ける。

 それは波動砲撃(こうげき)で吹き飛ばしたはずの、黒い外套を羽織った謎の人物だった。


『――……』


『……まさか、無傷とはね……』


 アルトリアは再び右手を翳し、謎の人物に向ける。

 顔を黒布で覆い隠す謎の人物もまた、アルトリアの方へ視線を動かすように顔を向け、互いに対峙した。


 そして皇后クレアや侍女がリエスティアを守るようにする姿勢を見て、アルトリアは自身の推測として相手の目論見を確認する。


『――……アンタ、誰?』


『……』


『てっきり、私が狙いだと思って待っててあげたのに。……どうやらアンタの狙いは私じゃなくて、あの子みたいね』


 アルトリアは謎の人物が狙う目的の人物を推察し、それを阻む為に相対する様相を見せる。

 それに対して無言のままアルトリアを見る謎の人物は、互いの視線を交えた。


 こうして襲撃の目的が自身では無い事を悟ったアルトリアは、相手の目的としている人物がリエスティアだと気付く。

 それに僅かな怒りを感じて阻むように、謎の人物とアルトリアは対峙することになった。


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