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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 一章:目覚める少女

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闇夜の襲撃


 持ち越されたリエスティア姫の治療が翌日に行われるはずだったローゼン公爵領地にて、突如として異変が起こる。

 それは上空に存在する何者かが放った一つの極光が、アルトリア達が滞在しローゼン公爵家が統治する都市に降り注ぐという事態だった。


「――……ッ!?」


「!」


「な……!?」


「な、なんだっ!? あの光――……!!」


 暗闇に染まっていたはずの夜空が、突如として白い一筋の光に突き破られる。

 その先端はローゼン公爵家が治める都市に向けられ、都市全体に張り巡らされた結界が白い光と衝突した。


 刺さるように降り注がれた白い光を都市の結界は防いだかに見えたが、その光に触れた結界(ぶぶん)が突如として崩れ落ちていく。

 そして空中で崩壊した障壁が魔力に還元されて戻り消失していく光景は、まるで空に散った星々が流れ落ちるようにすら目撃者達に思えた。


 それを見上げていた都市に駐屯し警備している兵士達や魔法師が、呆然とした表情を見せながら呟く。


「――……ま、まさか……。都市の、結界が……!!」


「あ、ありえないぞ……!?」


「あの光、一撃だけで……」


「破壊、されたのか……?」


 都市に上空に張り巡らされていた結界が、帝都やルクソード皇国の皇都に用いられている結界(もの)と遜色ない性能だと知る者ほど、その結果に驚きを持つ。

 そして上空から突き刺さる白い光は結界だけを破壊して消失し、それから何も起こる様子を見せなかった。


 しかし都市を防衛する兵士達は、迅速に行動し事態に対処する為に動き始める。

 それは長年に渡り兵士達を鍛え上げていた先代当主クラウスと、現当主セルジアスが築いた都市防衛に関する人事と機構が上手く働いていた証拠だった。


「――……壁内警備隊は、結界の術式と魔石の確認を! 急げッ!!」


「都市警備隊は、市民の避難させながら地下の避難施設(シェルター)に誘導させろ!」


「各兵団を掻き集め、壁外を警戒! 結界が解けている間に、敵勢力が侵入してくる可能性がある!」


「次の、上空からの攻撃は……!?」


「まだ、確認できません!」


「今はアルトリア御嬢様や、皇后様達も中央敷地の別邸にいらっしゃるはず! 至急に本邸へ連絡を送り、護衛団を増員して警備を増強し、皇后様達を本邸の避難施設まで誘導するよう指示をッ!!」


「ハッ!!」


 都市の各防衛を担う指揮官達が機能し、市民と避難と同時進行で結界の修復をそれぞれの担当部署にて行わせ、更に奇襲を受け結界が消失した事に因る都市内外の警戒を兵士達に行わせる。

 それに伴い、別邸に居る皇后クレアを始めとした帝国にとっての重要人物達を守る為に本邸を預かる家令達と連絡を取り、急ぎ彼等を避難させる為の対処が実行されていた。


 その時、都市防衛を担う指揮官と幹部達が集まる施設に、一つの通信が魔道具越しに届く。

 それは彼等が予想した中で、最も嫌う状況が作り出されてしまった事を知らせる情報でもあった。


『――……指揮官殿! 壁外に、突如として多くの人影が出現しました!』


「突如だと!?」


『これは、おそらく……転移魔法が使用されているモノかと!』


「転移魔法だと……。馬鹿なっ!?」


『次々と、敵らしき人影が白い光の発光と共に出現していきます……。現状、数は二百以上!』


「二百名以上を、転移魔法で……」


「転移魔法は、最高峰の魔法師達を掻き集めても、一度に十数人を転移させるのがやっとのはずなのに……!」


 魔道具越しに届く兵士の情報を聞き、都市司令部は最悪の状況に流石に困惑を見せる。


 都市外部には白い渦上の光が地面から出現し、それ等から光り輝く粒子状のモノが集い、一つに固まり人型と思しき影が姿を見せる。

 それを転移魔法だと推測する兵士達の情報によって、都市を攻めて来た者達が恐ろしく魔法に長けた大規模な集団である事が判明し、司令部は迎撃方針を伝えた。


「遊撃部隊は壁外に出ず、そのまま壁内に留まり敵の侵攻に合わせて遠距離から迎撃するよう指示を! 敵に魔法師が居る可能性が高い以上、迂闊に壁の外へ出れば狙われる!」


「はい!」


「本邸との連絡は、繋がったか!?」


「そ、それが……。……本邸周辺にも、壁外に出現したと思われる光が出現したと連絡が……!」


「なにっ!? ――……急いで護衛団を本邸と別邸に送れッ!! アルトリア御嬢様と皇后様達を、急ぎ救出せよッ!!」


 壁外に敵兵力と思しき集団が転移魔法らしき手段で出現し、更に結界が消失した壁内にも同じ方法で敵が侵入する。

 予想と都市防衛機能を上回る速度で事態は進み、どれだけ臨機応変に備えられる者達であっても、常人では手に負えなくなる様相を見せつつあった。


 そうして都市側では突如の敵勢力と思しき事態に追われる中、別邸の庭で佇み結界を破る極光を放った人物を視覚で捉えていたログウェルは上空を睨んでいる。

 しかし都市に届いた連絡通り、別邸周辺でも地面から現れた光の渦が浮かび上がり、白い粒子状を展開しながら人影に近い何かを作り出していた。


 その数は瞬く間に数十を超え、別邸周辺を覆うように光の渦が展開されていく。

 空を見ていたログウェルは視線を落とし、光の渦によって出現した人影を視認しながら、左腰に下げた長剣の鞘口を左手で押さえた。


「――……これは、随分と手の込んだ贈り物じゃな」


 光の渦から消失すると同時に、そこから出て来た人影をログウェルは睨みながら視線を細める。


 それは二メートルを超えるだろう体格を持ち、顔すらも覆う黒い外套を全身に着込んだ姿。

 一見すれば人に見えるが、歩み進むその足は地面を大きく沈み込ませながら重量感のある足音を鳴らし、明らかに普通の人間には思えぬ様相を見せていた。


「……人の気配ではないな。……ならば、これは人形か」


『――……』


 ログウェルは別邸の周辺に出現した人影の集団が、人間ではなく生命の無い人形だと気付く。

 それと同時に人形と思しき集団は歩く速度を上げ、別邸に向けて攻め込んで来た。


 そして皇后クレアの護衛として赴いていた帝国騎士の複数が、同じようにログウェルが居る庭先に辿り着く。

 しかし別邸の周囲から鳴り響きながら近付く足音と、更に出現する光の渦を確認し、困惑した様子を見せながらログウェルに声を向けた。


「――……ロ、ログウェル殿! これは、いったい何が……!?」


「お前さん達は、クレア様達を守っとれ」


「!」


「儂が出来る限り、数は減らす。屋敷に入られたら、お前さん達で(しの)ぎなさい」


「わ、我々も御手伝いを!」


「要らんよ」


 帝国騎士達は別邸へ侵入しようとする集団を確認し、ログウェルと共に侵入を阻もうと腰の剣を抜こうとする。

 しかしそれを一蹴する言葉と共に、ログウェルは左腰に帯びていた長剣を右手で引き抜くと、緑色の魔力を全身に纏い、それ等が風のように巻き上がると周囲の地面や木々を揺らした。


 そして次の瞬間、ログウェルが右足を踏み出すと同時に緑色の魔力がその場に吹き荒れる。

 それによって生じた凄まじい風を顔に受けた帝国騎士達は、守るように顔を覆っていた手を動かすと、既にその場からログウェルが消え去っていた。


 それと同時に、帝国騎士達が向ける視線の先で緑色の光が、まるで突風の如く暗闇の中で動き回る姿が見える。

 そして緑の光が別邸に近付く集団の一画を襲い、凄まじい暴風と共に地面を削りながら人形達を吹き飛ばした。


「――……ただの人形かと思ったが、存外に硬い作りのようだ」


『――……』


 ログウェルは緑の光を纏ったまま地面に着地し、暴風の如く吹き飛ばした集団を視認する。

 しかし凄まじい威力と共に吹き飛ばされたにも関わらず、人形と思しき集団は破壊された様子は無く、何事も無かったかのように起き上がった。


 ログウェル自身、先程の攻撃で人形を一人として破壊できなかった事に驚いた様子を見せる。

 そして視線を細めると、人形達は個々に術式と思しき光を身体から展開しており、自身を守るかのように結界を作り出していた事が判明した。


「……これは、ちと厄介じゃな」


 結界まで張り即座に防御態勢を整えた人形達を目にし、ログウェルは思わず呟いてしまう。

 しかし再び剣を構えると、緑の魔力を纏いながら再び地面を蹴り上げながら跳び、別邸の周囲から迫る人形達の侵入を阻む為に奮戦した。


 そうしている間にも、別邸周辺に出現する光の渦は更に数を増す。

 そこから現れる人形達は既に百近くを超え、更にログウェルの攻撃で吹き飛ばされながらも身に纏わせている外套や身体を破壊できた様子すら無く、減らない人形勢力によって別邸は完全に包囲されてしまった。


 しかし数分程の時間は、老騎士ログウェルがたった一人で人形達の侵攻から別邸を守り通す。

 それでも増え続ける人形を減らせない状況によって圧迫され、ついに別邸の各場所から侵入を許す事となってしまった。


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