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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
革命編 一章:目覚める少女

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少女の異変


 ユグナリスが葛藤を抱く中、別邸に訪問したアルトリアは老執事バリスと共に案内役を務める使用人に伴われながら、懐妊したリエスティアが居る部屋の前に訪れる。

 そして扉を開けて中に入ると談話などを行う居間が在り、そこの長椅子に腰掛けていた赤髪の女性がアルトリア達を出迎えた。


 それは現ガルミッシュ帝国皇帝ゴルディオスの正妃であり、皇子ユグナリスの母親である皇后クレア。

 クレアは久方振りに目にするアルトリアの姿を見て、微笑みながらも申し訳なさを宿した表情を話し掛けた。


「――……御久し振りですね。アルトリアさん」


「……誰?」


「そうね、記憶が無いという話でしたね。……私は、帝国皇帝ゴルディオスの妻。クレア=フォン=ガルミッシュよ」


「!」


「そして、貴方の元婚約者。ユグナリスの母親でもあります」


 クレアに自己紹介をされたアルトリアは、僅かに嫌悪に滲んだ表情を見せる。

 ユグナリスという名前を聞いただけでも嫌悪を示すアルトリアは、その母親と称する女性を見て少なくとも良い印象を持てない。


 それを察しているのか、クレアは先んじて丁寧に頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。


「……この度は、私達の息子が貴方に無礼を働き、申し訳ありませんでした」


「!?」


「既に誰かから聞いているかもしれないけれど。貴方がこの帝国から去った理由の一つに、息子(ユグナリス)の態度と対応に問題がありました。それについて、父親である皇帝陛下と共に母親の私からも謝罪させていただきます」


「……私、それについて詳しく聞いてないのよね。聞きたくもなかったし」


「なら、改めてその事に対する説明や弁明をする事をこちらからは控えます。それでも、貴方に対して私や皇帝陛下が申し訳なく思っている事を、伝えさせてください」


「……まぁ、別にいいけど」


 口先を僅かに尖らせながら視線を逸らしたアルトリアは、覚えの無い出来事の謝罪を受け入れる。

 それを聞き寂しさを見せながらも微笑みを浮かべるクレアは、頭を上げながら本題へと移った。


「――……アルトリアさん。これもまた不本意な事かもしれませんが、息子(ユグナリス)の婚約者候補であるリエスティアさんの治療を受けて頂き、本当に感謝します」


「それも、暇だったから受けただけで別にいいんだけど。でも、その子って妊娠してるのを知ってパニックを起こしてたのよね? もう大丈夫なの?」


「はい、今は落ち着いています。貴方の治療を受ける事も、了承済みです」


「なら、さっさと治すわ。他にやりたい事も出来たし」


「そうですか。では、野暮な話は抜きにしましょう。ただ本来ならば、ユグナリスも立ち合わせたいのですが――……」


「それは止めて」


「そう聞いています。なので、私が代わりにリエスティアさんの治療に立ち合ってもよろしいかしら?」


「……まぁ、別に構わないわよ」


 ユグナリスの立ち合いを完全に拒否するアルトリアの様子から、クレアは自身が治療に立ち合う事を望む。

 それを渋々ながらも受け入れたアルトリアに安堵の息を漏らすクレアは、自らが部屋の奥に続く寝室へと二人を案内した。


 そしてクレアが寝室の扉を開け、二人を中に導く。

 そこには大きな寝台(ベット)で大きな枕に背を委ねている黒髪の女性と、その傍には椅子に座り控える侍女らしき服を着た薄い茶髪の女性が待っていた。

 寝台の近くには、編み掛けた裁縫道具と刺繍されている布生地もある。


 先を歩くクレアは寝台に近付き、瞼を閉じたまま迎える黒髪の女性に声を掛けた。


「――……リエスティアさん。アルトリアさんが来てくれたわ」


「……はい」


 クレアの声に応えたリエスティアは、僅かに身体を震わせながら下げていた顎を上げて正面を向く。

 そしてアルトリアの傍に控えていたバリスが足を進めようとした時、寝台に目を向けたまま動こうとしないアルトリアに気付いた。


「……アルトリア様?」


「……」


「!」


 バリスは動かないアルトリアの横顔を覗き込んだ時、僅かに驚いた様子を見せる。

 アルトリアの視線は寝台で待つリエスティアに固定されながら、目を見開いたまま呆然とした様子を見せていた。


 そして次第に表情が驚愕へ変わり、何故か恐れも宿すように青い瞳を揺らす。

 そうしたアルトリアの様子にクレアやリエスティアの傍に控えていた侍女も気付き、不可解な視線を向けていた。


「……アルトリアさん、どうしたの?」


「……は……、……はぁ……ッ!!」


「アルトリア様っ!?」


「!?」


 リエスティアに視線を向けたまま動きを止めていたアルトリアが、唐突に過呼吸を起こし始める。

 そして自身の胸部分の服を右手で掴みながら床に膝を着けたアルトリアの様子に、リエスティアを除く全員が驚きを浮かべた。


 一方で目の見えないリエスティアは状況が分からず、周囲が困惑した声を出したことで動揺を見せる。

 そして膝を着いたアルトリアに対して、バリスは屈みながらその背中と腹部を支えるように手で触れた。


 その際にバリスは、アルトリアの身体が震えを起こしながら腕などは鳥肌を立たせ、額からは冷や汗を流し始めている事に気付く。

 アルトリアの様子が明らかな異常だと察したバリスは、クレアに視線を向けながら落ち着いた声で伝えた。


「――……皇后様。隣室でアルトリア様を休ませてもよろしいですかな?」


「え、ええ。御医者様を呼んだほうが?」


「私は皇国で医師免許も有しておりますので。診察は私が」


「そ、そうですか。分かりました」


 クレアは突然の状況に動揺しながらも、バリスに委ねる形でアルトリアの事を任せる。

 そして震えて動けないアルトリアをバリスは抱え持ち、隣室へ戻した。


 一方でクレアはリエスティアにも話し掛け、唐突に起こった状況を教えながら動揺を落ち着かせる。


「リエスティアさん。少し、アルトリアさんの体調が優れないようなの。私は様子を伺って来るから、少し待って頂戴ね」


「は、はい。分かりました……」


 クレアはそう述べながら寝室から出て行き、呆然とした様子のリエスティアと侍女はそれを見送る。


 こうして記憶を失っているはずのアルトリアが、リエスティアを見た事で明らかな動揺を起こす。

 それは何を起因した異変なのか、その場に居た誰もが理解できない状況だった。


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