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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 閑話:裏舞台を表に

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真実の下で (閑話その八十二)


 オラクル共和王国の使者として訪れた、アルフレッドと名乗る使者の青年。

 彼こそが、共和王国の頂点に立つウォーリス王自身だった。

 更にはリエスティア姫の実兄であり、既に滅んでいるゲルガルド伯爵家の血縁者であるという。


 そして彼の祖母ナルヴァニアと妹リエスティアの運命を狂わせる実行役となった【結社】を壊滅させる事を目的とし、ベルグリンド王国を奪い【結社】と対峙しようとしている事を明かしたウォーリスの話は、その場に居た帝国皇帝ゴルディオスや宰相セルジアスだけではなく、その日の夜に皇后クレアと皇子ユグナリスにも伝わった。


 面会を終えた日の夜、ガルミッシュ帝都の城内部に設けられた皇室内にて、ルクソード皇族であるゴルディオスとクレア、そしてユグナリスとセルジアスが集う。

 更に老騎士ログウェルも室内の片隅に佇み、その室内で行われる話を見守っていた。


「――……そんな……。……ナルヴァニア姉様が……」


「……彼、ウォーリスの話が本当であれば。ナルヴァニアは自分が殺される為に、晩年の騒乱を仕向けたようだ」


「……うぅ……ッ」


 ゴルディオスはナルヴァニアが辿った末路が自分自身の望んだ事であった事を、妻クレアに伝える。


 幼い頃から姉として慕っていたナルヴァニアが、嫁いだ先でルクソードの血を継いでいない事を知り、それを責めたてられ皇国に戻された。 

 その末に本当の家族を陥れた者達への仇討ちと、その出来事を隠していたルクソード一族に対する復讐として内乱を引き起こす。

 しかし家族を陥れた皇王暗殺の実行者を見つけられずに復讐心を持ち続ける事に苦しみ、自らも憎しみを向けられる事で自身の人生を終わらせることを望んでいたのが明かされた。

 

 クレアはその話を聞き、悲しみを浮かべながら両手で顔を覆う。

 そんな母親の姿を辛そうに見ていたユグナリスは、父親であるゴルディオスに顔を向けて口を開いた。


「――……父上。結局、ウォーリス殿の申し出を受けたのですか?」


「和平については、既に議会で決定している。今から私やセルジアスが反対すれば、無用な混乱を与え疑惑が起こるだろう。帝国と共和王国の和平についてはそのまま進めるが、彼等の復讐に介入しない事にした」


「……ウォーリス殿の復讐を、諫めようとはなさらなかったのですか?」


「例え私が諫めたとしても、彼を止めるのは無理だ」


「どうして……!?」


「彼の目は、既に覚悟を終えている」


「!」


「彼は自分の生きる意味を復讐に見出し、また自身の復讐の為ならば如何なる犠牲も厭わぬ事を受け入れている。下手に彼等に肩入れし介入すれば、我々が彼等の復讐に巻き込まれかねない」


「それは……そうかもしれませんが……」


「本当ならば、彼の妹であるリエスティア姫を帝国(ここ)に保護しておくのも躊躇(ためら)われる程だ」


「!!」


「安心しろ、リエスティア姫はお前の婚約者候補として帝国(ここ)に留める。……彼も妹を帝国内に保護してくれるのならば、決して自分達の復讐と争いに帝国を巻き込まないと述べていた」

 

「そ、そうですか……」


「だが逆に言えば、リエスティア姫を保護しなければ我が帝国を彼の私的な復讐に巻き込むという脅しにもなっている」


「!」


「余とセルジアスは話し合い、リエスティア姫を帝国内で保護する事に決めた。(ウォーリス)に約束を守らせる為の、人質として」


「……人質、ですか」


「リエスティア姫が彼の実妹(じつまい)であり、復讐を考える彼等にとっての唯一の弱点でもある。それを我々の手中に収める形で留め、共和王国や彼等とは一線を引いた関係性を保つ。それが最善の行動だ」


 ゴルディオスの言葉を聞き、ユグナリスは幾らか不遜な面持ちを見せながらも口を閉じる。


 復讐者となり【結社】の壊滅を企てるウォーリスにとって、唯一の弱点は妹リエスティアだけだろう。

 その存在が、同時に彼に残る良心や理性として歯止めにもなっている。


 仮にリエスティアを失えば、ウォーリスはその歯止めを失くす。

 それによって起こる復讐がどのような形に変化してしまうかを、最もゴルディオスは恐れていた。


 だからこそリエスティアを保護する形で帝国に留め、ウォーリスに対する人質と牽制に使う。

 それを考えたセルジアスの案に賛同し、ゴルディオスはリエスティアに関する処遇を再び保留に留めた。


 それを述べている事を理解したユグナリスの不満を他所に、 ゴルディオスは改めて二人に告げた。


「クレア。そしてユグナリス」


「はい」


「……はい」


「明日の夕食会には、リエスティア姫とウォーリスを招き、二人にも会ってもらう」


「!」


「しかし、ウォーリスが頼んだように。私達は彼とリエスティア姫が実の兄妹である事を話さず、それに関連する事を問わない。その為に今日は集まり、この話を聞いてもらった」


「……ッ」


「お前達の気持ちは分かる。だが向こうが真実を明かしてまで口止めを頼んで来た以上、軽々な気持ちだけで二人の事を口には出来ない。分かるな?」


「……はい」


「夕食会も我々と給仕の極少数で、口が堅く信頼できる者達だけで行う。その時に、彼にはユグナリスとリエスティア姫の婚姻を正式にしたいという話を行うつもりだ」


「!」


「彼の反応次第だが、もしそれに強く反対するような様子が見えれば。最悪の場合、リエスティア姫の保護に関しても取り止めてしまうかもしれぬ。……その時は彼の意向に従い、リエスティア姫は共和王国に戻す事もあるやもしれぬ」


「父上ッ!?」


「ユグナリス。もしそうなったとしても、決して感情に流されずに踏み止まれ。……もしそれが出来なければ、今度こそお前とは親子の縁を切り、皇位継承権と皇子の位を剥奪する」


「……!!」


「確かに伝えたぞ。……今日は議会もあり、疲れた。余は先に休ませてもらおう」


 ゴルディオスは大きな溜息を吐き出し、席を立ち扉が在る方向へ歩く。

 それを追うようにセルジアスも席を立ち、二人扉から出て行った。


 残されたクレアとユグナリスは、納得を浮かべ難い表情をしながら口元を歪ませている。

 そんな二人に対して、部屋の片隅で見ていたログウェルは声を掛けた。


「――……陛下の決定に、御不満ですかな? クレア夫人、そしてユグナリスも」


「……ッ」


「儂もどちらかと言えば、陛下の意見に賛同しておる者です。……あのウォーリスという青年の目は、確かに覚悟を終えている。自分の目的を果たす為ならば、どのような手段も用いる事を選ぶ者でしょう」


「……だからと言って、実の兄妹である事を隠すなど……。ましてや、復讐に身を費やすなど。……それでは、ナルヴァニア姉様と同じ末路を辿ってしまう……」


「確かに、そうかもしれませぬ。……しかし、彼の覚悟もまた本物。もし彼が自分の行く末に後悔する時が訪れるとしたら、それは復讐を終えた後でしょうな」


「……」


「『復讐者』とは、復讐する事をこそ生きる上での糧としている者。復讐(それ)が果たされれば、そこで生きる意味を失う者もいる」


「そんな……」


「逆に復讐を終えてから初めて、生きる目的を定める者もいる。……クレア夫人。彼にとって復讐以外に生きる目的があるとすれば、妹であるリエスティア姫がそうなのでしょう」


「……!」


「復讐を不粋と断じて止める事は、誰にでも出来る。……しかし復讐を終えられぬ限り、その者は復讐の炎を燻らせながら生涯を生き抜く事となる。その苦しみは、本人以外は分かち合えぬ感情(もの)となるでしょう」


「……分かりました。私は復讐に生きる彼を止めるのではなく、その後に必要となる彼女(リエスティア)こそを、守る必要があるのですね……」


 ログウェルに諭されるクレアは、揺らぐ自身の気持ちに対して答えを得る。


 姉と慕ったナルヴァニアの孫であり、互いに過酷な状況に身を置いて来た二人の兄妹。

 その妹は不自由な体を持ち、兄は復讐の為に身を費やしながら妹を守ろうと必死になっている。


 例え(ウォーリス)が復讐を諦め人生から離れさせても、何かしらの遺恨を残してしまう。

 ならば止めずに復讐を果たさせ、終えた後に訪れる平穏を妹と共に享受させる。

 その場を用意する事が自分の役割なのだと考えたクレアは、ゴルディオスの提案を受け入れた。


 クレアを納得させたログウェルは、次にユグナリスに顔を向ける。

 そして口髭を触りながら小さな鼻息を漏らし、ユグナリスに向けて呆れた口調で話し掛けた。


「ユグナリス。お前さんは、父君の言葉を聞いていたか?」


「……ああ。要は、向こうが結婚を認めなかったら大人しく引けと、父上は言っているんだろう?」


「違うな」


「えっ」


「ゴルディオス様は言ったな。感情に流されずに踏み止まれ。それが出来なければ、親子の縁を切り皇子から外すとな」


「ああ」


「だが、お主は既に『皇子でなくなっても彼女(リエスティア)を愛する』と言ったのじゃろう?」


「……あ、ああ」


「ゴルディオス様は、暗にこう言っておるのじゃよ。『もし彼女(リエスティア)との結婚を向こうが認めなければ、ルクソード皇族や帝国皇子としての立場を捨ててでも、一人の男として向こうに結婚を認めさせろ』とな」


「!!」


「まだまだ皇子としては未熟じゃが。一人前の男としては、ゴルディオス様もお前さんを認めとるんじゃよ」


「……そ、そうなのか。……父上、分かりました。必ず、リエスティアとの婚姻を認めて頂けるようにします……!」


 ユグナリスもまたログウェルに諭された事で、自分が行うべき事を見つけ出す。


 明日の夕食会は、恐らく帝国と共和王国に置ける和平の延長として、リエスティアに関する婚約が進展するか破綻するかの話になる。

 和平の上で婚約が正式になる可能性が高いが、妹を大事に思うウォーリス側がそれに難色を示す可能性も高い。

 その時には自分(ユグナリス)がウォーリスを説得し、リエスティアの婚姻を認めてもらう必要がある。


 敢えて言葉を少なくしそれを伝えたゴルディオスの意思を理解し、ユグナリスは席を立ち明日に備える為に休む事を選んだ。

 クレアもまた席を立ち、自室に戻り休む為に室内から出て行く。


 そして二人の後に続く形でログウェルも室内から出て行き、その日の密談を終えた。


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