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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 二章:修羅の鍛錬

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偽らぬ者


 師匠である武玄(ぶげん)に伴われたケイルは、京の(みやこ)に訪れる。


 都の景色は港町と似た和風の建築物が立ち並び、帝国や皇国で見られるような五階以上の建築物はほとんど存在しない。

 二階建てまでの役所や宿屋は存在していたが、ほとんどが平屋に都の民が住み暮らす様子が窺えた。


 また(みやこ)の周囲には高い壁などは存在せず、物見用の矢倉(やぐら)屯所(とんしょ)があるのみ。

 外敵から攻め込まれる事をまるで想定していない作り方だったが、中央部分に近付く五メートル程の高さがある白い壁は存在していた。


 その壁に設けられた門を潜り、武玄(ぶげん)とケイルは新たな区画に入る。

 そこは都の外周部分に設けられた建築物と違い、小綺麗で色鮮やかな様相をした大きな建築物が増え始めていた。


「……この区画、初めて来ました」


「で、あろうな。ここを通れる者達は、宮使(みやづか)いか貴族院に属する者達だけだ」


「貴族院……」


「相変わらず、『貴族』は嫌いか?」


「まぁ、そうですね」


「貴族と言っても、ここに住むのは銭集めと芸能を得意とする者達のみ。武力を司り治政を行うのは、公卿(くぎょう)家と各藩主、そして(みかど)に仕える将軍達よ」


「……相変わらず信じられないんですけど。師匠がその、将軍の一人なんですよね?」


「うむ。当理流(とおりりゅう)の流派師範は、全て将軍の(くらい)を得ているな」


「なんでその将軍様が、(きょう)から離れた田畑で農作業しながら暮らししてるんです?」


(きょう)に留まると、色々と面倒なのだ。()からぬ者達も寄って来るので、昼寝をする暇も無い」


「師匠らしい理由です……」


 呆れ半分の声を漏らしながら、ケイルは武玄(ぶげん)の後ろを付いて歩く。

 そうした中で視線を感じ続けており、ケイルは横目を向けながら再び溜息を漏らした。


「……やっぱりこの髪、目立ちますかね」


「うむ」


「染め直しとくんだったかなぁ……」


「無駄に装えば、警戒を向けられるは必至。偽らぬ事こそ至上よ」


「偽らぬことが、至上ですか……」


「偽りとは、己に不自然さを纏わせること。それは己を曲げ、周囲を曲げ、いずれは大きな歪みを生む」


「……」


「まぁ、偽らぬことで生じる問題もあるにはあるが、少なくともそのような歪みは生まぬよ。上辺だけの言葉で話す者より、嫌う者でも真っ直ぐとそれを告げられる正直者こそを(この)ましく思おう」


「……正直者……」


 武玄(ぶげん)とそうした話を交えながら、ケイルは何故かアリアを思い出していた。


 自分を偽り続け、それでも仲間である自分達を救う為に様々なモノを曲げ、そして最後には世界を憎み滅ぼそうとする【悪魔】となってしまった少女(アリア)

 アリアの身勝手な行動は苦慮する部分こそ多かったが、それは彼女なりの信念に(もとづ)いていた行動だと、最近までケイルは考えていた。


 しかしその信念は、本当にアリア本人が望んでいたことだったのか?

 もし本当に望んでいたのだとしたら、何故あのような形で偽り続ける必要があったのか。


 それを思い出した時、ケイルは『螺旋の迷宮(スパイラルラビリンス)』でアリアと戦った際に述べられた言葉を思い出していた。


『――……私は『国』と『家』、そして『立場』に縛られる事で、『化物』から『人間』として認められた。でも私がそれ等から解放されるという事は、また『化物』に見られる事を意味する。……だから私は、エリクを自分の護衛として誘ったわ』


『私は貴族として十六年間を生きた中で、誰かに守られた事も、誰かの前で弱音を吐いた事も、ましてや誰かに甘やかされた事も無い。ましてや、自分がやるべき事を他人に押し付けた事なんて、一度だって無いわ』


『私の言う事が嘘だと思うなら、この世界から出た後にガルミッシュ帝国に行きなさい。そしてローゼン公爵家を始めとした人間達に聞けばいい。私がローゼン公爵家の娘として、どういう生活を送っていたかを』


『――……私が貴族として過ごした日々は、アンタの頭の中で思い描く程に悠長なモノじゃない。限られた時間の中で、自身に課せられた責任と義務を果たす為に自分を磨き続け、誰にも弱味や甘えなんて晒さない。例えそれが、親兄弟でもね』


 そう述べながら自分と相対したアリアの言葉を、ケイルは激昂していた為に聞き流していた部分がある。

 改めてアリアが語る過去の在り方を聞くと、そこには自身の信念よりも、周囲に抑え込まれながら偽りで装った信念を成り立っていたのではないかという疑問が浮かんだ。


 アリアの『化物』としての本性は、恐らく三十年後(みらい)で見た姿で間違いは無い。

 しかし『化物』が人間の世界で溶け込めるはずもなく、自身の本性を隠し『人間』を装う努力を重ねたのがアリアだ。


 結果、『化物(アルトリア)』は『人間(アリア)』の皮を被り、偽りの信念に(もとづ)いて行動するようになる。

 その行動こそが『化物(アルトリア)』と相反するモノであり、それを歪め続けた結論が『自己犠牲』に至り、あの三十年後(みらい)を作り出してしまったのだとしたら。

 そして自己犠牲の果てに記憶を失った『化物(アルトリア)』に対して、いきなり『人間(アリア)』を求めれば、三十年後(みらい)の結果になるのは当然なのかもしれない。


 そうした思考に改めて考え至ったケイルは、小声で呟いた。


「――……【悪魔】を倒せたとしても、アイツ自体をどうにかしないと、やっぱり無理なのかもしれないな……」


「む?」


「あっ、いえ。……師匠、聞きたい事があります」


「なんだ?」


「さっきの、偽らぬ事と、正直者という話。……もし自分が偽っていないつもりでも、本当はそれが偽りの信念(もの)だとしたら。そして人が求める姿こそ、偽る姿だとすれば。その者は、どのようにすればいいと思いますか?」


「ふむ、偽りであるとすら気付けぬ者か。それはそれで、中々に厄介よな。……お前自身は、どうするべきだと考える?」


「……分かりません。ただ、偽る姿こそ人が求めるモノであるのならば、そう在るべきだとは考えます。例えそれが、自分を曲げる事になったとしても」


「ほぉ。……儂なら、そうじゃな。儂は偽る姿をその者に求める者達こそを、叩き斬ってしまうかもしれんな」


「!」


「そうせねば生きられぬ程に世が狭いのならば、滅びてしまうのが自然な流れであろう」


「……でも三十年後(みらい)で、それを本当にやろうとした奴がいます。……私はあの未来を、自然に起きた事とは考えられません」


「ふむ。……軽流(けいる)、世の(ことわり)とは何を指す?」


「え? ……人が生きる為の、仕組みですか?」


「それはあくまで、『人』の理よな。……しかしこの世は、『人』だけで成り立ってはいない」


「それは、そうですけど……」


「『人』の理で生きれぬ者もまた、『人』の中に生まれることもあろう。そうした者を別の(ことわり)に導くことを、不可能と考えるか?」


「別の(ことわり)に……?」


「儂はかつての旅で、とある者と出会った事がある。その者はこう述べた。『人』である事に飽きたのなら、未知なるモノに踏み込む事もまた一興だろうとな」


「!」


「儂はあの在り方こそ、『人』の理に外れながらも『人』の新たな道となるのだと思う。……今頃、奴はどうしておるだろうな」


「……その人物とは?」


「メディアという女人(おんな)だ。儂やお前と同じ『仙人』であり、一人で魔大陸に赴くと述べておったなぁ」


「仙人……。聖人ですか?」


外国(そとぐに)では、確かそう呼ぶのだったな。中々に面白き者であったよ。人間大陸は隅々まで見尽くしたので、飽きたと言うておった」


「……そうですか」


「カッカッカッ。もし『人』の理に飽いた者がいるのなら、別の理に導くといい。それに適応するかは、その者が決める事よ」


 武玄(ぶげん)はそう話しながら笑いを浮かべ、ケイルはそれを真剣な表情で聞き入る。

 それもまた一つの答えであり、『化物(アルトリア)』を暴走させない為の手段にはなるのだろうと納得しながら、ケイルは武玄(ぶげん)の後ろを歩き続けた。


 そうした話を交えていた二人は、(みやこ)の中心に設けられた後宮に辿り着く。

 門番を担う兵は武玄を見ると身体を強張らせ、膝を落とし跪くように平伏した。


「――……武玄(ぶげん)殿。今日はどのような御用で?」


「親父殿は?」


「いつもの場所で()られるかと」


「そうか。ならば通してもらおう。客人を連れ入れるぞ」


「ハッ」


 武玄(ぶげん)はそう伝えると、門番の兵は立ち上がり門を開ける。

 それに応じるように武玄(ぶげん)は通り抜け、ケイルも続くように通り抜けた。


 そうして後宮の中を歩き続け、十数分後にある部屋に辿り着く。

 そこの扉を開けると、武玄(ぶげん)は紅葉の見える庭に設けられた部屋の中で盃に酒瓶を傾ける人物に声を掛けた。


「――……親父殿」


「……武玄(ぶげん)か。……その赤髪は、新たな『赤』だな」


「はい」


「!?」


 武玄(ぶげん)はそう述べ、身を横に引かせながらケイルとその人物の視界を妨げないようにする。

 そして向かい合う二人は、改めて己の名を明かした。


「――……『赤』の七大聖人(セブンスワン)、ケイルと申します。御国一(おんくにいち)の武芸者を御目に出来ること、光栄です」


「……『茶』の七大聖人(しちだいせいじん)なんぞと呼ばれておる、ナニガシと申す。……よくぞ訪れたな、『赤』の末裔よ」


 こうして二人は名乗り、改めて顔を見ながら挨拶を交える。

 互いに人間大陸を担う『赤』と『茶』の七大聖人(セブンスワン)は、こうして出会いを果たす。


 それは一つの境地に辿り着いた修羅に、ケイルが(まみ)えた瞬間でもあった。


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