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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 一章:別れ道

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猪突の決着


 フォウル国の十二支士(じゅうにしし)、その頭目である干支衆の『(いのしし)』ガイと『(さる)』シンに強襲されたエリクとマギルスは、相手の圧倒的力量を前に苦戦を強いられる。

 更にその周囲では他の干支衆と思しき者達が気配を隠し、それぞれの戦いに視線を向け傍観していた。


 戦いに夢中になっているマギルスはそれに気付けず、シンとの戦いに心血を注ぎ対応している。

 しかし一方で、エリクはガイと相対しながらも周囲から感じる干支衆の視線に気付いていた。


「――……全部で、十二人か」


「むっ」


「……気付くのか」


 エリクが呟きを聞いたガイと『牛』バズディールは、周囲で隠れ見ている干支衆達に気付かれた事を察する。

 それはガイという強者を相手に攻めあぐねていた様子のエリクが、実は余裕を持って周囲に警戒を向けていた証拠でもあった。


 その事を指摘するように、バズディールはガイに向けて声を発する。


「ガイ、そろそろ本気でやれ!」


「うむ」


「!」


 バスディールの言葉を聞いたエリクは僅かに目を見開き、再びガイへ意識を向ける。

 その瞬間、今までガイが滾らせていた身体回りの魔力圧(プレッシャー)が膨れ上がり、瞬く間にその様相が変貌した。


 頭すら毛の見えなかった褐色の巨体が突如として黒と茶が混じる毛並みに覆われ、更に下の犬歯が急速に伸びる。

 そして人間的な顔立ちが猪を思わせる骨格に変化し、肉体も二回りほど膨れ上がった。


 その変化が『魔人化』である事を、エリクは察する。

 そして変身を終えたガイは、猪獣族(ちょうじゅうぞく)と呼ばれる魔族の姿へとなった。


「……コイツは、猪の魔人か」


「――……はぁああ……!」


「……なんだ?」


「……グラァアア……ッ!!」


 その姿になって尚、ガイは顔を伏せながら全身から漲る魔力を大きく高める。

 そして顔を上げた瞬間、ガイの眼球は充血するような赤さを宿し、先程のように物静かな様子とは真逆となる荒々しい唸り声を見せた。


 それに合わせて気配と圧を変えたガイに、エリクは警戒を向ける。

 そして先程と同じようにガイの肉体が一瞬だけ萎み、エリクの意識から消えた。


 それを察知し再び横へ大きく跳び避けたエリクは、先程まで立っていた場所に再び突風が通過した事を感じ取る。

 しかし次の瞬間、大地が破裂したような凄まじい音と共にエリクの後方に凄まじい圧が発生した。


「!」


「――……ァアアアアアッ!!」


「なにッ!?」 


 突撃(ぶちかまし)を避けたはずのエリクだったが、再び後方から感じる圧がガイのモノだと察する。

 更に後方のガイが短く雄叫びを上げ、着地したエリクの背中に向けて突撃を開始していたのだ。


 先程の比ではない短時間で突撃を行うガイに対して、エリクはそれを辛うじて右側に避ける。

 しかし魔人化した分だけ増えた面積が避ける距離を狂わせ、エリクの身に纏っていた黒い外套が避け切れずに千切れると、それに合わせて左腕に流血を伴う裂傷を生み出した。


 そして左手に持っていた大剣を手放し、地面へ投げ落としてしまう。


「ッ!!」 


「――……グラァァアアアアア!!」


「クッ!!」


 エリクはその時、突撃後に前に出たガイがどのような行動をしているかを確認する。


 今まで人間の姿で突撃していたガイは、障害物に当たると止まるだけだった。

 しかし魔人化したガイは避けられた事を察して凄まじい加速を右足だけで踏み留め、すぐに左足を蹴り放つように回しながら身を捻り回転している。


 そして僅かに萎んだ脱力から力を入れた左脚で地面を蹴り上げ、切り返すように加速しながら突撃していた。 

 その動作をコンマ数秒以内に収めて行うガイは、野性的な咆哮と共に(エリク)を倒すという意思を持って隙の無い突撃(ぶちかまし)を連発している。


 先程の突撃の余波で左腕から流血し、更に武器を手放し着地の態勢を崩したエリクは三度目の突撃を避けられる姿勢では無い。

 しかし容赦なく存在感を消し加速したガイは、エリクに突撃(ぶちかまし)を浴びせた。


 その瞬間、凄まじい衝撃音が周囲に鳴り響く。

 更に土埃が舞う中で、それを観戦していた干支衆達は目を見開きながら結果を見た。


「――……アイツ、凄いな」


「うわー、すっごい馬鹿力(ばかぢから)


「ガハハッ! あの男、ガイの野郎を止めやがった!」


 結果を見ていた干支衆の何人かが、驚きながら笑いを浮かべる。


 突撃したガイの両腕から放たれた拳の突きを、エリクは自身の両手で受け止めていた。

 それに合わせて両足で踏み止まり、数メートルほど下がりながらもガイの突撃(ぶちかまし)を停止させている。


 それを叶えたのが技巧では無く、純粋にエリクの常人離れした膂力の結果だという事を干支衆達は察していた。


「――……むぅ……!」


「……止まったな」


 止められたガイと、止めたエリクは互いに睨み合う。

 それに合わせてガイは固めていた拳を解いて受け止めたエリクの手を掴み、互いに両手を握り固めた状態となった。


「……グラァアアッ!!」 


「……おぉおおッ!!」


 そして互いに拳を作るように手に力を込め、唸りながら凄まじい握力で互いの手を潰し合う。

 ガイは凄まじい魔力と共に混ざる生命力(オーラ)も身体から滾らせ、腕回りの筋肉を更に太くさせた。


 それに対してエリクも生命力(オーラ)を高め、全身から白い輝きを迸らせる。

 二人の力が周囲に揺れを起こし地面に亀裂を生ませる程の踏み込みを見せながら、互いに手を握り潰し合う。


 そして数分間、(りき)む表情を浮かべ合う二人の中で先に苦痛の表情を現し始めたのは、『(いのしし)』のガイだった。


「……グ、ガァア……ッ!!」


「……おぉおッ!!」


 苦痛を見せたガイに対して、エリクは更に両手へ力を込める。

 ガイの両手から僅かな音が鳴り響き、エリクは躊躇せず握る手骨を砕き折った。


 その痛みで目を閉じ背筋を仰け反らせたガイが見せた隙を、エリクは逃さない。

 握る両手を掴んだままガイの両腕を振り回し、その巨体を横転させながら地面へ投げ飛ばしたのだ。


「グッ!! ――……ッ!」


「……お前の負けだ」


 地面へ伏せた姿勢から起き上がろうとしたガイだったが、その顔先にエリクの大剣から放たれる気力剣(オーラブレード)(かざ)される。

 エリクは地面へ投げていた大剣を右手で素早く拾い掴み、ガイに敗北を伝えた。


 両手の骨を折られて膝を着いた姿勢だったガイは、表情に悔しさを宿しながらも瞼を閉じる。

 そして降伏の勧告に対する答えとして、頷きながら呟いた。


「……負けた」


「そうか。……次はお前か?」


 敗北を認めたガイに対して、エリクは大剣の刃を引かせる。

 そして別の方角に視線を向け、再び警戒を持った声を向けた。


 そこから歩み寄って来るのは、干支衆の『牛』バズディール。

 人間の姿をしたバズディールの顔に僅かな既視感を感じるエリクだったが、その答えを導き出すより先に相手の声が向けられた。


「――……ガイを破ったか。流石は、鬼神(きしん)()しろだ」


「……鬼神の、依り代だと……?」


「お前の名は、エリクだな?」


「……俺の名を、知っているのか」


「知らせは来ていたからな」


「……それで? お前も俺と戦うつもりか」


「こちらの用件は、向こうが終わってからにさせてもらおう」


「……マギルス……」


 バズディールの視線の先に意識を向けたエリクは、そこから感じるマギルスの気配に気付く。

 自分と同様に干支衆の一人に襲われているマギルスは、まだ激しい戦いを続いていた。


 エリクはこうして、干支衆の『(いのしし)』ガイを打倒する。

 しかしマギルスと『(さる)』シンの戦いは、終わりの様相を見せていなかった。


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