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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 一章:別れ道

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干支衆の力量


 フォウル国を目指す途上、山の中腹にて魔獣達を囮にした誘いに掛かってしまったエリクとマギルスは、干支衆の襲撃に見舞われる。

 更に一対一の構図に持ち込まれた二人は、干支衆との戦闘に入った。


 大柄の体躯に頭髪の無い褐色肌の大男、『(いのしし)』を関するガイと呼ばれる人物と対峙したエリクは躊躇せずに腰に備えた欠けた黒い大剣を引き抜け、気力剣(オーラブレード)を作り出す。

 それに合わせてガイは茶色混じりの赤い魔力を滾らせ、僅かに体格が一回り萎んだ。


 次の瞬間、エリクの意識からガイが消える。

 それに危機感を覚えたエリクは大きく横に飛び避けた瞬間、避けた場所に凄まじい突風が鳴り響いた。


「ッ!!」


 その突風は後方の木々に激突し、凄まじい轟音を鳴り響かせる。

 そこには先程より膨張した筋肉で纏った両腕を突き出し、頭を前方に伏せた突撃の姿勢で硬直していたガイが居た。


 エリクはそれを見て、驚愕を見せながら呟く。


「……構えた瞬間が見えなかった。突っ込んで来る瞬間も……」


「――……むっ」


 まるで両腕を牙に見立て凄まじい突撃(ぶちかまし)を見せたガイは、姿勢を戻してエリクが居る後ろ側へ振り返る。

 そして再び筋肉を萎ませた瞬間、警戒を向けるエリクの意識から消えた。


「!!」


 再びエリクは素早く跳び避け、その場所を凄まじい突風が通過する。

 そしてその先に在った地形を破壊するように衝撃が巻き起こり、再びガイが同じ姿勢で姿を現した。


「あの男、萎んで気配が消えた瞬間に突っ込んで来る」


「……また避けた」


 予備動作も無く凄まじい突撃(ぶちかまし)を喰らわせるガイと、それを超人的な反射神経と速度で避けるエリク。

 その構図を傍らで観察している『(うし)』のバズディールは、呟くように述べた。


「――……ガイは猪獣族(ちょじゅうぞく)。猪獣族の筋肉は他の獣族に比べて筋肉の緩急で大きな差が生じる。それを利用する弛緩した脱力は目の前に居ながら存在感を失わせ、直後に筋肉を大きく膨張させることで凄まじい加速と膂力を瞬時に生み出す」


「グッ!!」


「むっ」


「単純な力だけならば、『牛』の俺が(まさ)るだろう。だが瞬間的な加速と膂力は、やはり『(ガイ)』の方が遥かに上だな」


 再び突撃(ぶちかまし)を放つガイに向けて、バズディールはその賞賛を向ける。


 フォウル国の干支衆で随一の瞬発力と膂力を誇る『(いのしし)』、ガイ。

 それと相対するエリクは、攻めに隙が生じないガイに苦戦を強いられていた。


 一方で、バズディールは別の方向に視線を向ける。

 そちらでもまた別の人物達が戦い、攻防を繰り広げている様子を窺っていた。


「……向こうの勝敗は、どうなるものかな」


 バズディールはそう述べ、厳かな顔立ちながらも口元を微笑ませる。

 干支衆の『(さる)』シンは、その五体のみを駆使してマギルス以上の身軽さで拳を用いた鍔迫り合いを続けていた。


「――……ほらほらっ、もっと速くするね!」


「うっ!!」


 マギルスは離れず絡み纏うシンの打撃に辛うじて対応し防ぎながらも、一方的に攻撃を受け続けている。

 体格的にも戦い方にも似通った部分が大きく、更に大鎌という武器を持つ分だけ間合いが必要なマギルスは、打撃の接近戦に対応できずにいた。


 そんなマギルスに躊躇せず、シンは右足を跳ね上げ相手(マギルス)の胴体に蹴りを浴びせようとする。

 それを大鎌の柄で防ごうとしたマギルスだったが、その蹴りを柄に当てる前に止めて(フェイント)に使い、左拳を真正面から撃ち放った。


「――……イッ、タァッ!! 


「隙だらけだね!」


「……このぉおおッ!!」


 顔面に左拳が直撃したマギルスは鈍い音を鳴らし、鼻血を吹き出して大きく仰け反る。

 しかし痛みと共に感じる怒りを気力にして姿勢を戻すと、全身から青い魔力を漲らせてた。


 それを見たシンは更に微笑みを深め、右拳をマギルスの顔面に向け放つ。

 それを防ぐかのようにマギルスの身体に青い魔力が迸り、シンの拳を硬い物質が防いだような音を鳴り響かせた。


「!」


「――……『精神武装(アストラルウェポン)甲冑形態(アーマーフォルム)』ッ!!」


 青い魔力が鎧のような装甲となり、マギルスの全身を覆う。

 それは以前のように首と頭の無い巨大な甲冑姿ではなく、少年のマギルスに合わせ全身を覆う少年用の鎧となっていた。


 シンの拳を防ぎ止めた甲冑を使い、マギルスはその拳を押し退ける。

 そこで生じた隙と僅かな距離を狙い、右手に持っていた大鎌を振りシンを切断しようと試みた。


「いいね!」


「ッ!?」


 迫る刃で瞬く暇すら無い窮地を迎えているはずのシンは、そう告げながら笑顔を浮かべる。

 そしてシンは腰に備えていた短い金色の棒を左手で引き抜き、迫る刃に押し当て止めて見せた。


 逆に大鎌の刃を弾いたシンは、左手を軽く捻り棒の先端をマギルスに向けて告げる。


「――……伸びろ、『金箍棒(きんこぼう)』!」


「が、はっ……!!」

 

 そう叫んだ瞬間、シンが持っていた金色の棒が凄まじい速度で伸びる。

 それに驚き避ける間も無いマギルスは腹部に棒の先端を突き立てられ、勢いよく吹き飛ばされた。


 吹き飛んだマギルスは腹部を覆っている鎧を砕かれ、重い痛みを感じながら後方に広がる木々に激突する。

 木々を砕きながらマギルスの身体はダメージを負い、それが止まっても流血した身体を起こす動作が遅れてしまう。


 そして走り寄るシンは、マギルスを見下ろしながら笑い述べた。


「――……うん、頑丈だね!」


「……くっそぉ……!」


「僕は干支衆(えとしゅう)、『(さる)』のシン! 君は?」


「……お前の首を飛ばすまで、教えないよ! ――……『精神武装(アストラルウェポン)攻撃形態(アタックフォルム)』ッ!!」


「元気の良い少年だ!」


 マギルスは起き上がりながら大鎌の柄を支えに、装甲状態(アーマーフォルム)を解く。

 そして再び精神武装を身に纏い、今度は攻撃形態(アタックフォルム)へ移行した。


 それを嬉しそうに迎えるシンは、金箍棒を構えながら飛び出す。

 更に互いの武器が振られ、そこから放たれる青い魔力と金色の魔力がその場に交わり、凄まじい衝撃と轟音を鳴り響かせながら地形を変えていった。


 干支衆の二名がエリク・マギルスの両名と激戦が行う中で、バズディール以外にも遠巻きから観察する者達が居る。

 彼等は樹木の上に立ちながら見下ろし、それぞれの戦況を確認していた。


「――……相変わらずやねぇ、シンもガイも。戦い方が荒っぽいわぁ」


「……向こうの青髪の子供は、興味深い武器を使うようだ」


「アレって、精神体(アストラル)かな?」


「武器や肉体に精神体を纏わせているのか。なかなか面白いことしてやがるぜぇ!」


「……向こうの黒髪の男は、聖人か? 魔力を感じないぞ」


「確か話だと、男も魔人じゃなかったっけ? 魔力を抑制して隠してるだけかな?」


気力(オーラ)しか使っていないぞ」


「……」


「そういうのは後で確認すればいいさ。――……今は、彼等の手並みを拝見だ」


 戦いを繰り広げ近くで静観している干支衆の他に、九名程の人物達が高見の見物をしている。

 それぞれが人とは異なる姿と様相を見せ、干支衆と戦う二人を興味深く見守っていた。


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