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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 一章:別れ道

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決断の案


 ミネルヴァに匿われる形でフラムブルグ宗教国家の大陸に滞在する事になったエリク達一行は、標高二千メートル程の山の中腹に設けられた家で過ごしていた。

 そんなミネルヴァと別れて家に戻ったマギルスは、台所で食事の準備をしているケイルと話を交えている。


「――……この大陸にも、特級傭兵が来たって。『(きいろ)』のお姉さんが言ってたよ。でも、僕達よりは弱いってさ」


「……そうか。悪いな、伝言役を任せちまって」


「別にいいけどさ、暇だし!」


「……アタシはどうも、あのミネルヴァを心の底で信用できない」


「匿ってくれてるのに?」


三十年後(みらい)でダニアスの首を()()げながら、アタシを殺しに来た奴だからな。それが暗示の影響(せい)だったって言われても、納得し切れるわけがないだろ」


「ふーん」


「マギルス、お前はミネルヴァを信用してるのか?」


「信用っていうか、協力してるだけだよ。『黄』のお姉さんもそうじゃない?」


「……協力?」


「『黄』のお姉さんは、神様(クロエ)が言ったから僕達を助けるのに協力してるだけでしょ? もし神様(クロエ)に頼まれなかったら、『黄』のお姉さんはアリアお姉さんを殺して未来で起こる事態を解決させようとするんじゃないかな? 『黄』のお姉さんの強さなら、あの時の僕達を倒して瀕死のアリアお姉さんを殺した方が簡単だもん」


「……確かにな」


「僕も、クロエに頼まれたからこうしてるだけだからね。――……ケイルお姉さんは、どうなの?」


「……」


「やっぱり、エリクおじさんがここに居るから残ってるの?」


「……(メシ)、もうすぐ出来るから。皿を出しといてくれ」


「はーい!」


 ケイルは話題を唐突に切り替え、その話を終わらせる。

 それに執着する様子も無いマギルスは、自身の空腹感に従いケイルの言う事を聞いた。


 そして四角に切った牛肉を山で自生している茸や香草と共にペーストしたトマトで煮込んだシチューと、少し硬めのパンを添えられた食事が用意される。

 マギルスがそれを美味しそうに食べている横で、ケイルは食事(シチュー)と切られたパンが入った皿に加え、果実を擦り入れたコップを一つ(ぼん)に加え乗せた。


「エリクに届けてくる」


「ふぉーい!」


 ケイルはそう言うと、マギルスは食べながら特に疑問を持たずにそれを送り出す。

 そしてケイルは廊下を歩み、エリクが居る部屋の扉前に訪れて声を発した。


「エリク、食事を持ってきたぞ」


「……ああ」


 ケイルの声に応じ、エリクは部屋の扉を開ける。

 そして盆に乗った食事を部屋にある机の上に置いたケイルは、いつもと変わらずベットの上に眠るアリアの顔を見た。


「……今日も、起きないみたいだな」


「ああ……」


「目を覚ますまで、あと九ヶ月くらいか。……それまでずっと、ここでアリアを見張ってる気か?」


「……ああ」


「何もせずにか?」


「……ケイル、何が言いたい?」


 眠るアリアの顔を見ながら尋ねるケイルの言葉に、エリクは引っ掛かりを覚えて訝し気に聞く。

 そして僅かに溜息を漏らした後、ケイルは伝え聞いた事をエリクにも教えた。


「砂漠の捜索を止めて各地に散らばった特級傭兵の一部が、この大陸に入り込んでいるらしい」


「……!」


「ここはミネルヴァの故郷が在った場所らしいが、奴がアタシ達を匿っている事をこの国の上層部や傭兵達に勘付かれていたら。……ここも(じき)に、居られなくなる」


「……その時には、そいつ等を倒せばいい」


「倒しても、それが呼び水になる。……奴等は馬鹿じゃない。組織で動いている連中と連絡が取れなくなれば、捜索者(そいつ)が赴いた場所をまず怪しむ。そして次々と、ここに新手が押し寄せて来ることになる。……そうなった時、そいつ等も()る気かよ?」


「……」


「三ヶ月前、アタシは言ったよな? アリアが目覚める一年後まで隠れ潜むのは不可能だって。でも、お前は自分の我を押し通した。……だが、状況は時間と一緒に変わる。もしここがバレたら、アタシ達を隠れ潜ませる場所は無くなって、逃げ場を失う」


「……ッ」


「こんな逃げてばかりの暮らし、いつまでも続けられないぞ」


「――……なら、どうすればいいんだッ!!」


 ケイルの指摘にエリクは言葉を詰まらせ、ついに堰を切ったように怒鳴り声を出す。

 その怒鳴り声に僅かに目を見開いたケイルだったが、すぐに冷静な面持ちと声で伝えた。


「前から、不思議に思っていたことがある」


「……不思議?」


「あの未来では、アタシ達は行方不明だった。だから傭兵達はアタシ達を捕まえられずに諦めた理由も理解できる。……だが、アリアはどうして【結社(そしき)】に捕まらなかった?」


「……!」


「アリアだけは、砂漠で皇国軍に発見された。そして目覚めるまでの一年間は、皇国のハルバニカ公爵領地で匿われた。……その間に、どうやって皇国はアリアを守れたんだ?」


「……それは……」


「未来で再会したシルエスカは、確かこう言った。『アリアを保護し、匿っていた』と。つまり傭兵ギルドや特級傭兵共は、ハルバニカ公爵家に匿われたアリアを見つけられなかった。あるいは見つけていても、手を出されなかった可能性がある」


「……!」


「ミネルヴァの話では、皇国側の港にも特級傭兵達が張り込んでいたらしい。皇国軍がアリアを発見した情報を、組織が見逃すはずがない。……流石に皇国とやり合うのを控えて手を出さなかったのか。それとも、何かしらの理由があってアリアからは手を引いた可能性も考えられる」


「……アリアだけは、見逃された……?」


「――……それって多分、『青』のおじさんじゃないかな?」


「!」


 ケイルとエリクが話す合う部屋の中で、開けられていた扉からマギルスが歩き入る。

 食事を食べ終えたばかりの口から述べられる『青』の話を、ケイルは不可解そうな表情で尋ねた。


「どういうことだ?」


「未来でね、『青』のおじさんが言ってた。記憶を失ってるアリアお姉さんの様子を窺ってたって」


「!」


「多分だけど、『青』のおじさんが傭兵の人達に命令して、アリアお姉さんだけは見逃したんじゃないかな? あのおじさん、アリアお姉さんが掛けてた誓約のことも知ってたっぽいし。アリアお姉さんが記憶を失った後に勧誘しようとしてたとか、そんなことも言ってた」


「……つまり、どういうことだ……?」


「アリアお姉さんが危険だから賞金を懸けて殺そうとしてるのは、『青』のおじさんの意向(かんがえ)なわけでしょ? そして今も、『青』のおじさんはアリアお姉さんの状態(いま)が分からないから、ずっと探し続けてるんじゃない?」


「……つまり今のアリアが見つかれば、『青』は傭兵を使ってアリアを捕まえる必要が無くなるということか?」


「多分ね。特級傭兵の人達も、賞金首じゃなくなったら捕まえたり討伐しなくなるんじゃないの? だから未来では、アリアお姉さんを捕まえなかったんじゃないかな」


 マギルスは『青』から聞いていた話を統合し、その結論を導き出す。

 それを聞いたエリクは困惑にも似た動揺を浮かべ、ケイルは導き出したもう一つの結論を納得しながら述べた。


「……なるほど。『青』の七大聖人(セブンスワン)が狙ってるのは、アリアだけ。そして他にも【結社】を動かしてる連中……フォウル国の狙いは、クロエやエリク、そしてアタシやマギルスってことか」


「!」


「ミネルヴァの話が本当なら、フォウル国は『(クロエ)』が転生する度に攫って殺していたんだろ? ……皇国で【結社(そしき)】の運び屋をしていたバンデラスに、クロエの運搬を依頼していた奴が分かったぜ。奴の出身地、フォウル国が依頼者だったんだ」


「……!」


「そしてフォウル国はもう一人、狙っていた奴がいる。……エリク、お前だ」


「……フォウル国は、クロエを殺し俺を引き入れる為に傭兵達を使って追い詰めている?」


「そうだな。ついでに一緒に行動しているマギルスも珍しい魔人だから、エリクと一緒に引き込もうとしてるってのが妥当だろう」


「えー、僕ってついでなの?」


「アタシの場合も、組織の依頼を受けてエリクをフォウル国に送り届ける役目があった。フォウル国からして見れば、アリアのことはどうでもいいから『青』に任せて、アタシ等とクロエの行方こそを重要視しているんだろうな」


「……未来では、俺達はクロエと一緒に世界から消えていた。だからフォウル国は俺達を探し続け、見つかったアリアの監視は『青』に任せた。そういうことか?」


「多分な。それなら、色々と辻褄は合う」


 マギルスの話を聞いたケイルはその結論を導き出し、エリクはそれに幾らかの納得を浮かべる。


 ホルツヴァーグ魔導国はフォウル国と繋がり、海の上では軍艦や合成魔獣キメラを用いてクロエとアリアを同時に捕らえようとしていた。

 それが『青』の意向であり、最優先に捕らえるべき人物だと判断していたのが、その二名だった事を証明している。


 クロエに関してはフォウル国からの要請で、そしてアリアに関しては『青』の要請だったのだろう。

 そして二人を捕らえた後は、残るエリクとマギルスはケイルが役目を果たしてフォウル国に連れて行けばいい。


 過去の出来事にもフォウル国の狙いが符合する事を察する三人の中で、ケイルは結論とそれに伴う案を口に出した。


「……このままアタシ達が姿を隠し続けても、組織はアタシ達を見つけるまで追い続ける。下手に見つかって退けでもすれば、フォウル国の連中もアタシ達の追跡に参加するかもしれない」


「!」


「特級傭兵だけならともかく、フォウル国の魔人共はヤバい。……特に十二支士と、それを束ねている干支衆が動いたら、眠っているアリアを守りながら逃げるのは不可能だ」


「……ミネルヴァがいる。それに、転移魔法で逃げれば……」


「忘れたのかよ? ミネルヴァはフォウル国の魔人に何度も挑んで返り討ちに遭ってる。転移魔法も日毎の使用回数に限界があるって言ってただろ。……しかも干支衆の中には、ミネルヴァのように転移魔法に似た魔術を使える魔人がいるはずだ」


「……ッ」


「フォウル国が動く前に、アタシ達も何かしらの対処が必要になる。……その一つの案が、アタシにはある」


 ケイルはそう告げ、二人に一度だけ視線を向ける。

 そして眠るアリアに視線を移し、息と意思を整えてから述べた。

 

「――……アリアを、ルクソード皇国に戻す」


「なに……!?」


「そしてエリクとマギルスは、フォウル国へ行くべきだ」


「……!!」


「へぇー!」


「アリアが起きても、組織から逃げ続けても、結局のところ事態は解決しない。――……だったら、連中の思惑に乗るしか手段は無いだろ」


 ケイルは臆すること無く、隠れ潜む案とは全く逆の事を述べる。


 それは組織から逃げるのではなく、組織を差し向ける背後の人物達が抱く思惑を達成させること。

 それぞれが姿を見せる為に赴く事を提案するケイルの言葉に、エリクは表情を強張らせ、マギルスは飄々としながらも笑みを浮かべた。


 迫り来る追跡者達の知らせが、沈黙し潜み続けたエリク達の状況に変化を起こす。

 その変化を望むように述べるケイルもまた、ある一つの決断を秘めていた。


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