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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
修羅編 一章:別れ道

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匿われる者達

修羅編、第一章が始まります。


 エリク達が三十年前(かこ)に帰還し、三ヶ月の時間が経過する。

 『黄』の七大聖人(セブンスワン)ミネルヴァの転移で特級傭兵達が囲む砂漠の大陸から脱出した一行は、フラムブルグ宗教国家の拠点が在る大陸に赴いていた。


 フラムブルグ宗教国家が在る大陸は、人間大陸の中で更に南方に位置する。

 そして大陸の大部分は自然を残しており、ガルミッシュ帝国やルクソード皇国などと違い開拓業などが頻繁に行われてはおらず、また人々の生活に伴う技術力も他国と比べて下回っていた。


 しかしそうした一方で、人々の生活には『奇跡』と呼ばれる魔法が定着し、大部分の人間が魔法を扱える素養を持っている。

 更に『繋がりの神』を根強く信仰し、それぞれの宗派に別れながらも教えに従い、自然を崩さず無暗な争いも無い慎ましくも逞しい生活を送っていた。


 しかしエリク達一行が滞在する場所は、人が集まる都市でも無ければ町や村と呼べる場所でもない。


 総本山と呼ばれる都市から更に南方に存在する、大規模な山脈地帯。

 その山に立つ木製の一軒屋に、エリク達は潜むように過ごしていた。


「――……アリア……」


「……」


 家に設けられた一室には、傷を治されながらも眠るアリアがベットの上に横たわっている。

 それを起こすように上半身を支えるエリクは、水や搾った果実の磨り潰した汁が注がれた木製のコップを傾け、眠るアリアの口に与えていた。


 あの日から三ヶ月間、アリアは一度として目を覚ましていない。

 しかし傷はミネルヴァの魔法で癒され、呼吸も整い口に含む水分だけなら飲み込む様子は確認できていた。


 そんなアリアの様子に安堵しながらも、エリクは不安に満ちた瞳を向け傍を離れずに付き添っている。

 三十年後(みらい)の出来事でアリアが死に逝く姿を目にしてしまったエリクは、安堵の裏側で再び失う恐怖を抱いていた。


「……ッ」


 そんな二人が居る部屋の扉越しには、背を向けたケイルが佇む。

 濃く暗めの赤髪が明るくなった反面、ケイルの表情は視線を落としながら苦悩に満ちた様子を見せていた。


 一方で、元気に動き回る者も居る。

 それは家の遠方に在る岩肌で囲まれた広い地帯で、鎌を振り裂くマギルスと旗槍を振り薙ぐミネルヴァが、互いの色を成すように閃光を思わせる動きをしながら激しい交戦を繰り広げていた。


「――……っとッ!!」


「!」


 両足を踏み締め大鎌を振った瞬間、マギルスは青い魔力斬撃(ブレード)を飛ばす。

 斬撃に襲われるミネルヴァは怯えすらせず、旗槍の一振りを持って青い斬撃を打ち消した。


 逆にミネルヴァは旗槍の先端を向けると、そこから予備動作も無しに高密度の魔力砲撃が放たれる。

 マギルスはそれに笑みを浮かべながら大鎌を大きく振り、魔力砲撃を薙ぎ逸らした。


 更に互いが高速で動きながら武器を振り、衝突しながら火花を散らす。

 互いの武器が押し合う形で身体を吹き飛ばしながら着地すると、ミネルヴァが姿勢を正しながら再び迫るマギルスに述べた。


「――……今日の修練は、ここまでだ」


「えー! もっと()りたい!」


「また町へ情報収集に行くのでな。(こちら)の消耗は抑えたい」


「ぶー。しょうがないなぁ」


 旗槍と共に戦意を引かせたミネルヴァを見て、マギルスは不貞腐れながらも動きと鎌を引かせる。

 そして二人は岩肌を跳び越えるように昇りながら着地すると、山を歩きつつ話し合った。


「――……それで、今はどんな感じなの? 変わってない?」


「変わっていないな。……砂漠の大陸に集結していた特級傭兵達は引いたが、逆に各地に散らばりながら捜索を続けている。この大陸にも、幾人か特級傭兵とその配下達が入り込んだと聞いた」


「ふーん。その特級傭兵(ひとたち)って、僕達より強いの?」


「直接の戦闘ならば、お前達が勝つだろう。……だが向こうは、そうした正攻法を得意とする者じゃない」


「そっかぁ」


「他にも、魔導国(ホルツヴァーグ)宗教国家(フラムブルグ)に所属する実力者達も捜索に動いている。私もその要請に応じている素振()りはしているな。……フォウル国に関しては、表立った動きは何も無い。だが魔人達が動いているという情報はある」


「そっかぁ。その人達も強いなら、戦ってもいいかな!」


「……そちらも、相変わらずのようだな」


「うん。アリアお姉さんはずっと眠ったままだし、エリクおじさんはそれに付きっきりで遊んでくれないし。ケイルお姉さんは、そんな二人を見ながらずーっと落ち込んでる」


「そうか」


 マギルスとミネルヴァは互いに近況を伝え、確認し合う。


 砂漠から転移した三ヶ月の間に、エリク達を取り巻く情勢は変化していない。

 賞金首として各地で指名手配されている一行は、傭兵ギルドを始めとした各国の実力者達に捜索されていた。


 本来ならば捜索に加わっているはずのミネルヴァだったが、クロエの能力によって三十年後(みらい)の記憶を引き継いでいる為に、今は一行の味方となって外の状勢を伝えてくれている。

 また辺境の山で暮らす為に食料などの物資を運んでくれてもおり、それによって三人は静寂の暮らしを営めていた。


 ミネルヴァに匿われる形でその暮らしを一行が続けている理由は、ただ一つ。

 自分達を助ける為に身を犠牲にし、その結果として三十年後(みらい)では世界を滅ぼそうとしたアリアの目覚めを待つこと。


 未来の出来事として、砂漠で発見されたアリアは一年後に目を覚ます事を、エリクを含めた一行は伝え聞いている。

 その期間、アリアが目覚めるまで隠れ潜む生活を送ることを望んだエリクの意思によって、三人はこの場所に滞在を続けていた。


「――……それでは。彼等にも伝えておいてくれ」


「うん。じゃーねー! また遊ぼうねー!」


 その間に幾度も修練と言う名の訓練(あそび)を続けていたマギルスとミネルヴァは、互いに打ち解けた様子を見せている。

 同じ人物(クロエ)を慕っているという共通点がある為か、二人は良好な関係を築けていた。


 マギルスは手を振りながら、ミネルヴァが転移魔法で移動する姿を見送る。

 そして三人が居る家に向かいながら、隣を走る透明な青馬に話し掛けた。


「――……あーあ。また、つまんなくなっちゃったなぁ」


『ブルルッ』


「分かってるよぉ。……クロエが、僕に頼んだことだもんね。ちゃんとやるよ!」 


『ヒヒィン』


 マギルスはそう言いながら山を駆け上がり、エリク達が隠れる家へ戻る。

 一行はそれぞれの思いを抱きながらも、アリアという未来に繋がる鍵の目覚めを待っていた。


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