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昔の仲間達


 マチスが話していた黒獣傭兵団の仲間達と再会する為に、エリクはアリアを連れて少し前に泊まっていた酒場を兼ねた宿屋に訪れる。

 その時に偽装された姿を解いていたエリクは、賑わう酒場の入口で待っていたマチスに出迎えられた。


「――……旦那、待ってたぜ!」


「ああ。……みんなは?」


「席を取って待ってるよ。ほら、こっちさ!」


 笑いながら答えるマチスは、そのまま二人を店内まで連れて行く。

 すると店の隅にある席と机で固まる複数人の集団が居る場所へ赴き、気さくに呼びかけた。


「みんな、旦那を連れてきたぜ!」


「――……うわっ、本当に団長だ!」


「団長! 久し振りですよ!」


「無事だったんっすね! 良かった!」


「ああ、久し振りだ。……え、えっと……」


 席に座っていた幾人かの男達が立ち上がり、エリクの方へ歩み寄る。

 それに応じるようにエリクも頷きながら答えた後、彼等の顔を見て僅かに言葉を詰まらせた。


 その様子を確認した団員達(かれら)は、笑い顔と声を浮かべて話し始める。


「あっ。団長、また俺達の名前を忘れてるぜ」


「まぁ、毎回だけど」


「しょうがねぇよ。団長だからな」


「ハハハッ!!」


 彼等の名前を呼ぼうとして言葉を詰まらせていた事に気付いた団員達は、特に落ち込む様子も無く笑顔を見せる。

 その様子を後ろから見ていたアリアは、彼等の様子とエリクの態度に違和感を持った。


 そこでアリアが思い出したのは、初めて二人が出会った旅路の頃。

 エリクは暫くの間、アリアという短い名前を呼ばず『君』などと呼んでいた場合が多かった。


 それを思い出すと、エリクが人の名前を覚えるのも苦手だったのだと察し始める。

 すると落ち着いた面持ちで席に座っていた体格の良い茶黒髪で壮年の男性と、赤髪の若い女性もエリクへ近付きながら話し掛けた。


「――……エリク、無事だったか。ったくよぉ……」


「お前も無事で良かった、ワーグナー。……それに、えっと……」


「――……ケイルだよ。いい加減、名前くらいは覚えて欲しいんだけどさ。ワーグナーやマチスは覚えてるのにさ」


「すまん。今度から覚える」


 ワーグナーと呼ばれた茶黒髪の男は呆れた声を向けながらも、微笑んでエリクの右肩を左手で叩き互いに無事だったことを安堵した様子を浮かべる。

 そして名前を憶えられておらず自らケイルと名乗る赤髪の女性は、不満そうな表情と愚痴を向けていた。


 改めて再開した傭兵団の仲間達に対して、エリクは振り返りながら後ろに控えているアリアにも紹介する。


「アリア。王国の時に一緒に傭兵団をしていた、仲間達だ」


「――……初めまして。(エリク)を雇わせて頂いてます、アリアです」


 偽装魔法で染めている黒髪のまま、アリアは軽く会釈した挨拶を向ける。

 すると傭兵団は驚愕の表情を浮かべながら、エリクとアリアを交互に見ながら唖然とした声を向けた。


「エリクの旦那が、名前を覚えてるだと……!?」


「この嬢ちゃん、すげぇな……」


「えっ、そっちで驚くの?」


 驚愕された部分に思わず突っ込みを入れたアリアだったが、傭兵仲間達が顔を見合わせる。

 そして納得し難い表情を浮かべながら、この驚愕の意味を改めて伝えた。


「いや、だって。エリクの旦那が名前を覚えるのは、かなり長い付き合いの副団長(ワーグナー)班長(マチス)ぐらいなんだ」


「付き合いが浅い奴だと、覚えてくれないからなぁ」


「俺達、まだ入団して数年くらいだし」


「でも顔は覚えてもらってるみたいだから、気にはしねぇよ」


「……エリク?」


「……む、むぅ……」


 笑い混じりで話す傭兵仲間達の言葉を受け、アリアは訝し気な表情と声をエリクへ向ける。

 すると気まずそうな表情を浮かべたエリクが顔を逸らし、この話題について言及されたくなさそうにした。


 彼等が述べている事が事実だとエリクの態度で知れたアリアは、呆れながら今後の教育課題だと内心で決める。

 その中で唯一の女性であり赤髪のケイルだけが、訝し気な表情と言葉をアリアに向けて来た。


「アンタかい。マチスが言ってた貴族の御嬢様ってのは」


「はい。元ですけれど」


「エリクに名前を覚えられたからって、いい気になるんじゃないよ」


「別に、そういう事は気にした事がありませんから」


「なにぃ……」


「それに今のエリクだったら、人の名前もすぐ覚えれられるでしょうし。帝国文字で簡単な文字なら書けますし、名前も書けると思いますよ」


「は?」


「最近だと数字の計算も、三桁の足し算と、一桁の掛け算まで使えるようになりましたよ。簡単な会計支払いも、自分で計算して出来るようになりましたね」


「……え?」


 アリアが述べる言葉を聞いた瞬間、ケイルを始めとした黒獣傭兵団の団員達が表情を呆気を含み始める。

 その話を信じられていないと察したアリアは、提げている鞄に入れていたペンとインク入りの小瓶をエリクに差し出し、メモ帳にしている小さな紙束の一枚を破いて机の上に置いて証明させた。


「エリク、貴方の成長を見せなさい」


「あ、ああ。――……これで、いいか?」


「うん。……はい、皆様。これが証明です」


 アリアに言われるがまま、エリクは置かれた紙に自分の名や知っている者達の名を書き始める。

 その様子を戦々恐々とした表情と面持ちでそれを見ていた傭兵団の面々は絶句し、改めて見せられた紙に書かれた内容を見ながら辛うじて数人が声を漏らした。


「……本当だ、文字だ……。帝国語だけど……」


「エリクの旦那が、数字の計算が出来てる……」


「な、何がどうなってんだ……」


 文字を書き自身で書いた計算問題まで解いている紙面を見て、一同は唖然とした様子になる。

 そうした中で自慢気な表情を浮かべるアリアは、腕を組みながら自身の教育成果を見せて鼻を高くしていた。


 こうしてエリクは成長姿を見せながら、自身が所属していた『黒獣傭兵団(ビスティア)』の仲間達と再会する。

 時間にすれば半年以上が経過した再会だったが、その成長度合いの驚愕は外見より内面に向けられることになった。


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