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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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相反する精神


 エリクの魂に潜み機を窺っていたアリアの魂は、自身(アルトリア)の魂に接触する。

 そして魂の内部の侵入に成功すると、アリアとアルトリアは互いの人格を対立させ、精神の戦いを始めた。


 二枚の白い翼を羽ばたかせたアリアと、二枚の黒い翼を羽ばたかせたアルトリアが飛翔しながら激突するように互いの右拳を合わせ打つ。

 互いの拳に溜められた魔力が激突と同時に四散し、弾けるように相殺された。


「クッ!!」


「グゥッ!!」


 互いに姿勢を崩した状態で逆方向へ吹き飛びながらも、互いが同じように翼を広げて踏み止まる。

 そして姿勢を戻し先に仕掛け直したのは、黒い翼を持つアルトリアだった。


「――……消し飛べッ!!」


「!」


 アルトリアは左手に溜めた黒い魔力で砲撃を放ち、アリアを撃ち落とそうとする。

 しかし互いに同じ思考を持つ故か、アリアもまた左手に溜めていた白い魔力で砲撃を迎撃した。


「フッ!!」


「ッ!!」


 互いの相克する魔力が打ち消し合い、砲撃が弾け消える。

 それによってアルトリアは苛立ちを含んだ表情を浮かべ、黒い翼を大きく羽ばたかせながら黒い羽根を中空に四散させた。


「――……『鳴き叫ぶ堕天使の翼(ダージェラウル)』ッ!!」


「!」


 その瞬間、アルトリアが短く詠唱し魔法を発動させる。

 黒い羽根が微細な振動を放ちながら共振し、まるで叫びのような音を発し始めた。


 普通の人間であればその音を聞いただけで嫌悪し発狂させしかねない音だったが、この(なか)で物理的な音が意味を成す事は無い。

 それを察したアリアはすぐに白い翼で身を守るように羽を閉じると、その効果が明らかになった。


「――……ッ!!」


 アリアは精神体にも関わらず眩暈を感じ、吐き気さえ感じ始める。

 それによって察した事が当たっていた事を悟り、自身を守る為に古代魔法の言葉を綴った。


「――……『お前の叫びは(レキス)届かない(ヴェイ)』ッ!!」


「……チッ」


 古代魔法の言葉(えいしょう)で魔法の効果を防いだアリアを見て、アルトリアは舌打ちを漏らす。

 そして黒い羽根の振動と音は無くなり、黒い羽根は全て消失した。


 自身に及んでいた魔法効果を打ち消した事を確認したアリアは、アルトリアを見ながら呆れるように述べる。


「……魂ごと精神(わたし)を破壊しようとするなんて、よく自分の(なか)で使うわ。アンタの精神も壊れるわよ」


「壊れたっていい」


「!」


「貴様さえ消せれば、私は消えてもいい。――……私の身に降り掛かった全ての元凶である、貴様さえ……!」


「……」


貴様(アルトリア)という存在を私に押し付け消えた貴様を、どれだけ憎んだか……! ……他者に向ける憎悪に比べれば、貴様(アルトリア)という存在そのものに向ける憎悪が遥かに勝るのよ……!!」


「……で、私に恨みが晴らせないから他人に八つ当たりしてたってわけ? ……本当に子供ガキね」


「そう、これは全て貴様のせい。――……国々を滅ぼし、多くの犠牲者を生み出したのも、全て私に自分(おまえ)を押し付けたせいよッ!!」


「はいはい。全部が全部、私のせいね。確かに、私の考えが甘かったわ。――……まさか記憶を失った程度で、私がこんな馬鹿になるなんてね」


「……ッ!!」


「全てを周りのせいにして、自分(わたし)のせいにして。――……結局、アンタは自分がやったことに向き合わず、アンタの夢とやらに逃げ込んだだけよね?」


「……黙れ……!!」


「苦難に立ち向かおうとせず、私という虚構(すがた)に、そして他者に怯えていただけ。――……結局のところ、アンタは何かを成せていると勘違いしていた、ただの馬鹿よ」


「――……ァアアアアアアアアアアッ!!」


 アリアの煽りを受けたアルトリアは憤怒と憎悪を宿らせた表情を見せながら叫び、自身の精神体から夥しい瘴気(オーラ)を発し始める。

 それに呼応するようにアリアも自身の精神体に眩く白い生命力(オーラ)を発し、両者は凄まじい速度で激突しながら互いの顔面を右拳で殴った。


「グ、ァアアッ!!」


「フンッ!!」


 互いに大きく仰け反りながらも踏み止まりながら上半身を倒し、今度は左拳を前に突き出す。

 アリアは胴体を狙い、アルトリアが再び顔面を狙うように拳を放つと、互いがそれに直撃し大きく弾け退いた。


「……ッ!!」


「ハァ……ッ!!」


 それでも二人は互いに殴り合いを続け、徐々に高度が下がっていく。


 魔法での攻防は決着として難しく、また互いに秘術を用いてもそれを相殺し防げる手段を知っている。

 互いにその結論を導き出すと、必然として精神を衝突させ摩耗させていく肉弾戦という手段(かたち)に持ち込んだ。


 精神体であるが故に、二人に及ぶ肉体的な損傷は無い。

 それでも迫り来る拳や蹴りは、二人の精神そのものに衝撃と消耗を与えながら精神を揺るがしていた。


「――……ク、アアッ!!」


「ハァアッ!!」

 

 短く吠える二人は用いる格闘術で攻撃を加え続け、ついに下の白い地面に足が着く。

 そこで互いに蹴りを浴びせ押し退けると、二人は同時に顔を上げながら睨み合った。


 しかし二人の様子には、大きな違いが見えている。


 アリアは整然とした顔で強い意思を持った表情を崩さず、真っ直ぐな姿勢と青い瞳を見せていた。

 逆にアルトリアは息を荒くした様子で肩を揺らし、明らかに疲弊した様子を見せている。

 

「――……ハァ……ハァ……!」


「……どうしてアンタがそんなに疲弊してるか、分かる?」


「!」


「アンタの精神、そして意思が、強くないから」


「……!?」


「アンタの精神は、大きく揺らいでいる。……だから拳や蹴りに宿る意思(つよさ)が弱くて、私のダメージにならない」


「……そんな与太話で、私を動揺させようだなんて……!!」


 憎々しい表情を浮かべながら言葉を聞かないアルトリアはそのまま駆け跳び、右手でアリアに殴り掛かる。

 しかし、その拳は容易くアリアの左手によって受け止められた。


「ッ!?」


「――……アンタみたいにどうしようもない子供(ガキ)には、お仕置(しお)きが必要なようね」


 呟くアリアが見せる表情に悪寒を感じたアルトリアは、思わず右拳を払い身を引かせる。

 そしてアリアが見せる表情を見て、精神体にも関わらず寒気を感じた。


 それは以前、マギルスと対峙した際に見せたアリアの表情。

 目の前の相手に対して『公爵令嬢』としての顔ではなく、『化物』の一面を晒した時に見せるアリアの本性。


 『化物』になる事を選んだアルトリアは、この時に初めて思い知る。

 目の前の相手(アリア)こそ、本物の『化物』を(なか)()まわせていたことを。


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