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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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精神の衝突


 記憶を失っているはずのアルトリアは魂の痛みで涙を流し、悲哀と憎悪の狭間でエリクの死を望み首を絞め魂を消滅させようとする。

 そうした最中、突如としてエリクの胸から細く半透明な腕がアルトリアの胸に伸び、魂を掴んだ。


 そして両者の間に、透明な腕と身体の持ち主が姿を見せる。

 それは掴まれたアルトリアより若干幼い、アリアの姿だった。


「――……お前は……ッ!!」


『――……やっと掴まえたわよ。(アンタ)を』


「……アリア……?」


 突如として出現した半透明なアリアの出現に、アルトリアとエリクは互いに目を見開きながら驚愕する。

 そしてエリクから離れるように飛び退くアルトリアに引かれるように、アリアも半透明の全身を晒しその全貌を明らかにした。


 僅かに白く光る半透明のアリアは、その背に二つの白い翼を持っている。

 その姿はまるで絵物語に出て来る天使であり、心臓部分を掴まれているアルトリアはそれを見て何かに気付いた。


「――……まさか、お前も……ッ!!」


『へぇ、ちゃんと気付くの? 流石は私ね』


「魂が……精神だけで現世に留まる、精神生命体(アストラル)……!?」


御名答(そう)よ』


「ありえない……ッ!! 私のような肉体(よりしろ)も無く、死霊術や悪魔の誓約も無く! 人間の魂が、精神だけが生き永らえ――……!?」


『そこまで言えるなら、気付いたわよね?』


「……まさか、それこそありえない……! ……ッ!?」


 アルトリアは目の前に居るアリアから視線を逸らし、エリクに視線を注ぐ。

 更に視線はあるモノに注視され、エリクはその視線に気付き視線をその場所に流した。


 そこにはアリアが使い崩れた短杖の破片を入れた革袋があり、『悪魔』に受けた砲撃で破れた状態になっている。

 そこから漏れ出る短杖の破片を見た時、アルトリアは自身の察した事を口にした。


「――……短杖(あれ)に宿したお前の魂は、偽物フェイク……!?」


『いいえ。あの時、私の短杖(つえ)に込めていた魂は本物よ』


「なら、なんでお前がその男から……!?」


『簡単な話よ。――……私とエリクに課した制約を通して、回線(パス)を繋いだ。そして壊れた短杖(よりしろ)から、エリクの(なか)に移ったのよ』


「な……!?」


「……俺と、制約……? ……そうか、アレは……」


 アリアが述べる事にアルトリアが驚愕する中で、エリクはその言葉を聞いてある事を思い出す。


 死者の世界から現世に帰還したエリクは、黒い人形の手に短杖を置きアリアに教えられた魔法陣を書いた。

 そして魔法陣(それ)が光った後、短杖を掴んでいた黒い人形がアリアの姿に変化する。


 その時のエリクは、あの魔法陣の効果によって黒い人形にアリアの魂が乗り移ったのだと思っていた。

 しかし、それは真実と異なっていた事をエリクは察する。


 アリアに教えられた魔法陣の形を何処かで見た事があると、エリクは再び思い出す。

 それはゴズヴァールと戦い赤鬼化し暴走している自分を鎮める為に、アリアが自分(エリク)に制約を施したモノに似ていた。


「……アレは、俺と君が制約を繋ぎ直す為の魔法陣(もの)だったのか……?」


「!!」


『ええ。――……(アンタ)の事だから、奥の手を必ず隠してると思ったわ。だからこっちも、保険を掛けてたってわけよ』


「馬鹿な……!! 別の魂と繋がり、お前の魂を入れる……!? そんな事をすれば、二つの魂が拒絶反応を起こして瞬く間に消滅するはず……ッ!!」


『普通ならね。――……でも彼の(なか)には、既に別の鬼神(モノ)が棲んでいた。私一人分の魂くらい、余裕で流し込めるだけの容量があったのよ』


「……!?」


『アンタが最も警戒すべきだったのは、(アリア)でもユグナリスでもなかった。――……今のアンタの事さえ受け入れてしまう、エリクの魂と器の広さこそを警戒すべきだったわね』


「ク……ッ!!」


(エリク)を魂ごと消滅させる為に、アンタは安易に彼へ触れてしまった。……それが(アンタ)の、運の尽きよ』


 アリアは微笑みを浮かべながら事の経緯を述べる最中、半透明の身体を光らせながらアルトリアの(なか)へ侵食していく。

 それに圧迫感を感じるアルトリアは、アリアの腕を引き剥がそうと必死に魔力を纏わせた両手で半透明の腕を引き剥がそうとした。


 しかしアリアの腕を掴めず通過し、アルトリアは更なる驚愕を浮かべる。


「な、なんで……!? なんで、引き剥がせないのよ……!?」


『私とアンタの魂が、同じ存在だからに決まってるじゃない』


「!?」


『同じ根源から生み出された魂同士が触れ合えば、その魂は同一の存在(もの)となる。最早、それは止められない』


「な……ッ!?」


『さっきまでだったら、私の魂を消滅させられたかもね。――……でも今、私は(アンタ)の魂に接触している』


「……まさか、お前は……。始めから、コレを狙って……!?」


『瘴気に汚染された魂のせいで、それも難しかった。癪だけど、ユグナリスに初めて感謝するわ。――……こうして(アンタ)の魂に、余裕で侵入できるんだから』


()め――……!!」


 アリアがそう言い放った瞬間、半透明のアリアは白く発光しながらアルトリアの(なか)に入り込む。

 それを防げないアルトリアは魂の内部に侵入され、二人の意識は(なか)に移った。


 アリアの人格と精神体が光の粒子となり、魂の内部である白い空間に辿り着く。

 侵入したアリアは光の粒子を自分の姿へと形成し、着地した姿勢から立ち上がり正面を向いた。


 正面(そこ)には、同じようにアルトリアの人格と精神で形成された黒い衣を纏った姿がある。

 互いに白と黒という対照的な服と、更に白と黒という相反する色合いの翼を展開させながら相対した。


「――……これでやっと、対等に向き合えるわね。(アルトリア)


「――……いいだろう。お前を(ここ)で、消滅させてやる。亡霊(アリア)め……!!」


 アリアは微笑みを浮かべ、アルトリアは憎悪に満ちた表情を見せ合う。

 そして互いに翼を広げ、手に光を纏わせ前へ飛翔し激突した。


 こうしてアリアとアルトリアは、互いに同じ根源の(なか)で激突する。

 それはエリクと鬼神フォウルが行った、魂の中で行われる精神の戦いと同じ勝負だった。


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