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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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聖剣の担い手


 再び瘴気を纏い異形の姿へ変化した『悪魔』に、ケイルとマギルスは対抗できず瓦礫の中に伏し倒れる。

 そして腹部の裂傷を瘴気によって修復し終えた『悪魔』は、傍に倒れる二人に向けて両手を翳した。


 そして今度は瘴気の閃光を放ち、二人の魂を肉体ごと消滅させようとする。

 それをいち早く察したアレクは駆け出し、二人の助ける為に『悪魔』へ立ち向かおうとした。


「――……やらせないッ!!」


「……うるさい」


「ッ!!」


 『悪魔』はケイルに向けていた左手をアレクの方向に翳し、瘴気(オーラ)の砲撃を放つ。

 それを視認したアレクは大きく横に飛び避け、瘴気の砲撃を回避する。


 しかし僅かに『悪魔』から意識を逸らした瞬間、既にアレクの背後に黒い影が飛翔していた。


「――……ッ!?」


「――……フッ!!」


「グ、ァア――……ッ!!」


 背後に気配を感じたアレクが振り返った瞬間、『悪魔』が右拳を固めて穿ち放つ。

 アレクは左腕を回し受け上体を逸らしその拳を避けようとしたが、凄まじい膂力と速度で放たれた威力を完全に受け流せない。


 『悪魔』が放った拳の風圧だけで背中に裂傷を負ったアレクは流血し、傷みに歪んだ顔を浮かべる。

 それでも身を翻し着地しすぐに迎撃の姿勢を整えながらも、顔を上げた眼前には『悪魔』の黒い瞳が存在していた。


「……ッ!!」


「遅すぎる」


 影を宿す表情で述べる『悪魔』は左手を突き放ち、アレクの首を掴み上げる。

 その瞬間に上体を起こされたアレクの腹部に、『悪魔』の右手が凄まじい殴打を浴びせた。


「……ゲ、フ……ッ!!」


 アレクの口から血が吐き出され、首を掴む『悪魔』の左腕に零れ落ちる。

 それを嫌うように眉間を寄せた表情を浮かべる『悪魔』は、掴んでいた首を離し再び放った右拳でアレクを吹き飛ばした。


「――……ガッ、ゲハ……ッ!!」


「……結局、お前等は何もかも遅すぎるのよ」


 アレクは吹き飛ばされた場所で瓦礫の中にのめり込むように沈み、異様に陥没し腹部と共に吐血を幾度も吐き出す。

 瀕死のアレクを睨む『悪魔』は、それに止めを刺すように右手を翳し瘴気(オーラ)を溜めて放出しようとした。


 その時、再び『悪魔』の背後から駆け跳び襲う者が現れる。

 それを察知していたのか、『悪魔』は左腕を無造作に動かしながら首を狙った赤い刃を掴み止めた。


「――……ク……ッ!!」


「……ゴミが、まだ動くの」


 その赤い刃で『悪魔』の首を刈り取ろうとしたのは、重傷を負った身体を酷使し動かす赤髪のケイル。

 しかし気配を断った移動法で完全に虚を突いた両腕で振るう赤い魔剣の一撃を『悪魔』に受け止められ、痛みを堪えた表情を強張らせながら左手を離した。


 そして右腰に収めた小剣を掴み抜こうとした瞬間、悪魔が左腕を振るい掴んでいた赤い魔剣ごとケイルを吹き飛ばす。


「――……い、ぎ……っ!!」


「赤髪の女剣士、確かケイルだったかしら」

 

「……はぁ、はぁ……! ……アリア……ッ、テメェ……ッ!!」

 

「ならさっきの青髪のガキが、マギルスというわけ。……尚更、お前達は苦しめながら消滅させてあげる」


 『悪魔』はこの場で対峙している二人が、改めてケイルとマギルスである事に気付く。

 そして歩み寄りながら左手を細めて黒爪を伸ばし、まるで細い剣を模るように手の形を変異させた。


「剣士なんでしょう? 剣で相手をしてあげる」


「……舐め、やがって……ッ!!」


 左手を黒い細剣に模る『悪魔』は右手を軽く揺らし、ケイルに向けて起き上がるように促す。

 それを聞いたケイルは傷付いた身体を動かしながら立ち上がり、両手に大小の赤い剣を持ち構えた。


「――……トーリ流術、裏の型。『鳴雷(なるかみ)』ッ!!」


 ケイルは瓦礫の地面が砕け割れる程の脚力で駆け跳び、まるで雷光の速さとなって『悪魔』に迫る。

 その一閃から放たれる両手で振るわれる大小の剣が別角度から斬り襲ったが、それを円を描く軌道で容易く見切り払い除けたのは、『悪魔』の左手で模った細剣のような爪だった。


「……な……っ!!」


「――……当理流(とおりりゅう)。その型の一つで、『円刀(えんとう)』だったかしら?」


「……なんで、お前がトーリ流の型を……!?」


「『茶』の七大聖人(セブンスワン)を殺した時に、粗方の型を見たからよ」


「ッ!!」


手駒(ミネルヴァ)が奴の国に乗り込んで、逆に殺されそうになった。そして奴を巻き込んだ転移で、都市まで逃げ帰って来た事があったわ。――……私が相手をしてあげたけど、『青』より歯応えが無かったわね」


「……お前……ッ!!」


(これ)は、アンタの得意分野でしょ。――……来ないなら、こっちから行くわ」


「ッ!!」


 ケイルは当理流(とおりりゅう)の総師範である『茶』の七大聖人(セブンスワン)ナニガシが既に殺されていた事を知り、驚愕と共に怒りの感情を沸かせる。

 その瞬間、『悪魔』は左手で作り模した細剣を使いながらケイルを攻め始めた。


 両手の剣で防ぎ受け流していたケイルは、その黒い細剣から感じる重みに腕を痺れさせる。

 それでも反撃しようと小剣と長剣を繰り出しながら攻めたが、その全てが当理流(とおりりゅう)の受けに用いる型で防がれてしまった。


 『悪魔』が受けとなる型を熟知しているということは、『茶』のナニガシが一度は見せたのだろう。

 それが防戦一方故の事だったと察してしまったケイルは、更に怒りを深めながら二つの剣を奮い扱った。


「――……もういいわ」


「!」


「飽きたのよ。――……弱すぎてね」


「――……ッ!!」


 ケイルの剣を受けていた『悪魔』はそう呟き、突き薙いだ大小の剣を弾く。

 それと同時に両腕を広げ隙を晒したケイルに対して、『悪魔』は左腕の細剣を躊躇無く突いた。


 それはケイルの腹部を突き刺し、更に薙ぐ事で左横腹が切断される。

 それを防ぐ反応すら出来なかったケイルは腹部から出血し、更に吐血しながらその場に倒れ込んだ。


「――……あ、ぐぅ……っ!!」


「サヨウナラ」


「……あ……っ」


 倒れたケイルに『悪魔』は躊躇せず左手で模した爪の細剣を突き出し、その胸を刺し貫く。

 そして左爪から瘴気が流し込まれ、それがケイルの肉体と魂を汚染し始めた。


「……!」


 それに『悪魔』が微笑みを浮かべた瞬間、ケイルが右手に持っていた赤い魔剣が突如として赤い光を強く放ち始める。

 それに呼応するように離れた瓦礫地帯の一角から何かが飛び出し、それが凄まじい速さで『悪魔』に目掛けて突き放たれた。


「――……なにッ!?」


 『悪魔』が異様な気配を察知し、ケイルから視線を逸らして後ろを振り向く。

 そして迫る何かを視認し、驚きの声を漏らした。


「アレは、ユグナリスの……!!」


「……聖剣……!」


 『悪魔』に迫っていたのは、ユグナリスが使っていた『聖剣』ガラハット。

 それを視認した『悪魔』は驚愕し、瓦礫に埋もれていたアレクはそれが『聖剣』だと気付いた。


 『聖剣』が独自に凄まじい速さで白銀の刀身と赤い柄を輝かせながら一筋の閃光となり、『悪魔』に向かっている。

 更に光速に見える『聖剣』の突きは、赤い聖痕が唯一刻まれていない『悪魔』の左手を狙っていた。


 それを察した『悪魔』は紙一重で迫る『聖剣』に接触する事を拒み、大きく跳び避ける。

 しかし次の瞬間、『聖剣』が瘴気に侵され倒れ伏していたケイルの胸に突き刺さった。


「――……あ……っ」


「……フッ、どこを狙って――……!?」


 ケイルに突き刺さった『聖剣』を見て嘲笑った『悪魔』だったが、直後に起こった出来事で異常事態だと察する。


 胸に突き立てられた聖剣が突如として炎に滾らせ、ケイルの魂と肉体に浸食した瘴気を瞬く間に焼き払った。

 しかし肉体も魂も無傷であり、逆に傷を負っていたケイル肉体はその炎によって包まれ傷を癒していく。


 その異様な光景を目にした『悪魔』は、聖剣に宿る炎を見て驚愕の声を漏らした。


「――……その炎、まさか……!!」


 気を失ったケイルは『聖剣』の炎によって完全に癒され、更にその身に炎が纏われる。

 (それ)がケイルとは異なる人相と体格へ変化し、その身体を守るように纏わり始めた。


 そして赤い魔剣と重なるように聖剣そのものが炎となって宿り、炎に包まれながら『聖剣』と同じ造形へ形作られる。

 更にその聖剣は、模られた人物の右手に握られていた。


 炎に形作られたその人物の姿を見た時、『悪魔』は嫌悪と僅かな恐怖を宿す表情を見せる。


「……ユグナリス……ッ!!」


「――……お前の勝手には、させないぞ」


「……消滅させたあの魂は、偽物フェイク……!? お前の本体(たましい)は、聖剣(そっち)か……ッ!!」


「言ったはずだ、俺の生命(いのち)は『火』そのものだと。……性悪女(アルトリア)が同じ事をしていたのは、不本意だがな」


 ケイルの身体を依り代に纏わせた炎で姿を形作ったのは、聖人ユグナリス。

 更に自身の根源である魂を『火』として『聖剣』そのものと成っていたユグナリスは、再び『悪魔』の前に立ちはだかった。


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