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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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結集する強者達


 クロエがミネルヴァを懐柔し、自身の思惑に加担させていた頃。

 氷柱結界の中で激しい魔法での戦いを繰り広げていた『神』と『青』の状勢に、僅かな変化が訪れていた。


「――……これは……」


 黒い矛を杖から出して閃光として放ち狙っていた『神』が眉を顰め、杖を持つ腕の動きが固まる。

 そして吐いていた息が途端に白い水蒸気として目に現れ、『神』は結界内に及んでいる変化に気付いた。


「……なるほど。この結界の内部は、どんどんと気温が下がっているわけね」


「――……気付いたか」


「本当に、小賢しい(ジジイ)だわ」


 氷柱結界内の温度が認識できる程に低くなり、『神』の肉体を凍えさせて動きを鈍らせる。

 それを狙い氷柱結界を張った『青』の思惑に気付き、『神』は更に苛立ちの表情を深めた。


 氷柱結界内の温度は、この僅かな時間で既にマイナス側の二桁へ大きく振りきっている。

 元々から高高度付近に浮遊する都市は夜の冷え込みも含めて暗く寒かったが、それでも兵士達が防寒を兼ねた防護服を着込む事で支障なく活動できる気温だった。


 しかし今の結界内だけは、その範疇を大きく超える。

 結界内の建物には水気を含まないにも関わらず薄い氷の膜が張り始め、地面が凍結していた。


「……ッ」


「本物の到達者(エンドレス)であれば、この程度の凍えなど意に介さぬだろう。……だが、お前はどうかな?」


 肉体の温度が急激に奪われ、更に息を吸い吐く肺さえ凍えそうな寒さを急激に感じ始める『神』は、動き難くなった身体に小さな舌打ちを鳴らす。

 氷柱結界の術者である『青』もまた白い息を吐いて飛んでいたが、それでも術者故に肉体の氷結が自分に及ばないように魔法の作用を工夫させていた。


 『青』の張った氷柱結界の意図を身をもって察する『神』は、黒い翼を羽ばたかせたまま杖を持つ腕をぎこちなく降ろし両腕を下げる。

 それを見た『青』は、眉を僅かに顰めて『神』を見据えた。


「……?」


「――……本当の寒さに因る絶望を、見せてあげる」


「!」


 そう呟いた『神』は、素早い詠唱を口から唱え始める。

 その様子に気付き身構えた後は、転移と結界の準備を備えた。


 そして詠唱を終えた『神』は、『青』を睨みながら魔法を告げる。


「――……『死の冷獄が(コキュー)世界を覆う(トス)』」


「!」


 静かに呟いた瞬間、『神』の周囲に凄まじい魔力が出現する。

 それが雪を含んだ風となって氷柱結界内を駆け巡り、『青』はそれを幾重にも重ねた結界で防ぎながら様子を窺った。


 しかし次の瞬間、『青』は目を見開きながら驚愕する。


 凍結しつつあった都市の建物に突如として雪が積もり始め、結界内の建築物が全て雪で覆われてしまう。

 更に『青』が張った結界にも雪が張り付くように纏わり、それを嫌った『青』は雪を落とす為に白い翼を羽ばたかせて飛翔した。


 しかし雪は振り解けず、結界に纏わり続ける。

 更に氷柱結界の内側にすら雪が張り付き始め、結界内の全てが白い雪に覆われ始めた。


「……これは……。まさか、奴の狙いは……!」


 『神』の狙いを察した『青』は、それを防ぐ為の思案を浮かべる。

 しかし結界を解いた瞬間に風に乗った夥しい数の雪が自分を襲う事を予期し、対抗策を実行する事が遅れた。


 その間にも雪は更に氷柱に張り付き、青い魔力で光っていた氷柱に照らされていた都市が雪に覆われ暗闇に閉ざされ始める。

 そして三十秒にも満たない時間で、氷柱内の空間は全て雪に覆われ、寒さだけを残した光の無い空間へ変化した。


 そして『青』もまた、結界に雪が張り付き暗闇の中に閉じ込められる。

 そうした中でも『神』の狙いを察し、『青』はすぐに迫る気配に気付いた。


「……ッ!!」


 結界の外から何かが迫る気配と音を探り当て、それを回避する為に結界を展開したまま飛翔し逃げる。

 更に迫る音を聞いた『青』は、外で『神』が自分を狙い魔法での攻撃を行っている事を察した。


「暗闇での奇襲。……ならばッ!!」


 『青』は『神』の攻撃を避け続ける事が困難であると察し、あの黒い閃光の直撃を危惧する。

 それを回避する為にも纏わり付く雪を振り払い、『神』の姿を視認するしかないと『青』は考えた。


 その為に錫杖を振った『青』は結界を回転させ、雪を振り払う為に高速で振り動かす。

 そうした中で雪が崩れ暗闇ながらも外の光景が見えた『青』は、暗闇の中から迫るモノを感じ取った。


「――……!!」


 それは、黒い翼を広げた人影。

 そしてその手には杖から放たれている黒い矛が握られており、『青』はそれを『神』だと気付いた。


 暗闇という空間で接戦という思わぬ奇襲を受けた『青』は、その黒い矛の軌道を読み取り回避する。

 そして素早くも単純な動きだった『神』を迎撃する為に、結界を解いて錫杖を振り『神』に凄まじい殴打を浴びせた。

 

「な……!!」


「――……馬鹿ね」


「ッ!?」


 『青』は自分が殴り飛ばしたモノが、間違いなく人体ではないと悟る。


 それは氷結結界内部に倒れ放置されていた、あの黒い人形。

 それに黒い翼を模した黒い魔力を纏わり付かせ、更に黒い矛を成した自身の杖を持たせていた。


 それを殴った感触で知った『青』は、自身の真上からする声に目を見開く。

 しかしその時には既に手遅れであり、『神』は黒い翼を羽ばたかせながら杖の無い手に纏わせた黒い稲妻で『青』の背を貫いた。


「――……グ、ガッ……!!」


「死ね」


 しかしそれに留まらず、更なる黒い稲妻が『青』の肉体を貫く。

 結界を解き生身を晒した『青』の肉体は黒い稲妻の穿ち撃たれると、錫杖を持った右手が千切られるように裂け、更に上半身と下半身が焼け裂けながら、『青』の肉体はバラバラに散り落ちた。


 『青』は残る意識と左腕と頭だけが残る胴を白い翼で僅かに羽ばたかせ、下への落下速度を緩める。

 そして都市に積もる雪の中へ落下した『青』は、右手と下半身を失いながら胸と背中に穴を空けられ、襲う激痛に表情を歪ませた。


「……ク、アグ……ッ!!」


「……まだ生きてる。運が良いわね、即死してないなんて。……それとも、運が悪いのかしら?」


「……ッ!!」


 左手以外の手足を失い瀕死の『青』を、『神』は見下ろしながら呟く。

 そして黒い人形に持たせていた自身の杖を回収し、同時に左手の親指と中指を擦り鳴らした。


 すると氷柱結界内の雪が全て溶け始め、十数秒にも満たない時間で全て消え失せる。

 そして青い光の明るさが内部に戻ると『神』は黒い翼を羽ばたかせて、倒れる『青』がいる場所まで緩やかに降りた。


「――……これでお(しま)いね」


「……ッ!!」


「無駄よ」


「グ、ガ……ッ!!」


 『青』は唯一残った左手を動かし、何かを行おうとする。

 しかしそれを察した『神』は杖を振り向け再び黒い稲妻を堕とし、『青』の左腕を吹き飛ばした。


 苦痛の顔を浮かべる『青』の背から白い翼が消失し、傷みに堪えながら『神』を睨む。

 それを見下ろす『神』は、右手に持った杖をまだ胴体のみとなった『青』へ向けた。


「治癒は無駄よ。あの稲妻には矛と同様、肉体の細胞そのものを焼きながら腐らせてる効力も含めてるから」


「……ッ」


「散々、手こずらせてくれたわね。――……これでサヨナラよ、『青』の七大聖人(セブンスワン)


 そう述べる『神』は、杖の持ち手に嵌め込まれた魔石に黒い稲妻を再び発生させる。

 それを見上げる『青』は抵抗できず、自身の死を覚悟し瞳を閉じ、そして口元を微笑ませた。


「……!」


「……時間稼ぎは、出来たな」


「……なに……!?」


 『青』がそう呟く声を聞き取り、『神』は不可解な表情で眉を顰める。

 それと同時に氷柱に(ひび)割れが発生し、四方と天井を囲んでいた結界が砕け壊れた。


 それを見た時、『神』は氷柱の外から近付く気配を感じ取る。

 気配は複数も存在し、『神』は目を見開きながらそちらへ意識を向けた。


 すると視線の先に居る気配から、巨大な白い魔力球が作り出されて蹴り放たれる。

 同時にもう一つの気配から一本の赤い槍が高温の炎を纏いながら迫り、凄まじい速度で『神』に目掛けて投げ放たれていた。


「!!」


 『神』は自分を襲う二つの攻撃を視認し、黒い翼を羽ばたかせながら飛翔し回避する。

 そして攻撃して来た人物が一キロ以上も離れた建物の屋上に居る事を視認し、苛立ちの表情を浮かべた。


「……チッ。次から次へと……」 


「――……避けられたか!」


「ちぇっ、避けられちゃった」


 離れた位置から魔球と槍を放ったのは、フォウル国の干支衆(まじん)である『兎』ハナと、元『赤』の七大聖人(セブンスワン)シルエスカ。

 その二人を視認し攻撃を加えようと杖を持つ右腕を振った瞬間、『神』が飛翔する建物の屋上に気配を殺して登った人物達が、恐ろしい速度で斬り込んで来た。


「!?」


「――……当理流(とおりりゅう)、月の型。『弦月(げんげつ)』ッ!!」


「――……起爆符(きばくふ)!」


 突如として『神』の真横からブゲンの巨大な白い斬撃が襲い掛かると同時に、周囲からトモエが投げ放った苦無(クナイ)に取り付けられた符を用いた爆撃が加わる。

 『神』は咄嗟に数枚の結界を作り出しながら気力(オーラ)の斬撃と爆発を防ぎ、その場から飛び退き離れようとする。


 しかし警戒していた別方向から、新たな人物が襲い掛かった。


「――……そぉらッ!!」


「!」


 更に気配を殺していた人物が、建物の屋上から飛んでいる『神』に攻撃を加える。

 それは干支衆の『虎』インドラであり、魔力と闘気(オーラ)を混ぜ練った夥しい数の魔力斬撃(ブレード)を薙ぎ飛ばした。


 それに『神』は気を取られ結界で防ぎながら迎撃しようとした瞬間、逆方向から別の人物が飛び襲い掛かる。

 同じく干支衆の『牛』バズディールが魔人化した姿で脚力を高め、凄まじい跳躍と速度で頭部の角に魔力を高め、身体を砲弾にしながら結界を纏う『神』の背後を襲った。


「な……!?」 


「――……ウォオオオオオオッ!!」


 『神』はバズディールの凄まじい突進を受け、結界が砕け割られて背中に直撃を浴びる。

 そして背骨を砕き割る音を確かに鳴らしながら、『神』は地上の建物群に吹き飛ばされた。

 それを()(てい)の姿ながらに横目で確認する『青』は、口元を微笑ませる。


 『神』と対峙した『青』は時間を稼ぎ、新たな増援を間に合わせる。


 聖人シルエスカと干支衆に加え、武士ブゲンと忍者トモエ。

 人類に残された最高戦力達が、ついに『神』との対峙を果たした。


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