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傭兵入門


 傭兵ギルドの加入試験に合格したアリアとエリクは、試験後に建物内の別室に案内される。

 そこでギルド加入に際する決まり事を、他の合格者達と共に一時間程の講習で説明された。


 今回の試験参加者は三十名前後で、その内の合格者は僅か五名と低い。

 それぞれが歴戦の猛者を思わせる顔立ちと姿を雰囲気から醸し出している中で、アリアとエリクだけ浮いた様子を見せていた。


 二人はギルドマスターの権限で飛び級し、【二等級】の傭兵としての合格している。

 これは飛び級できる階級(ランク)の中では最高位であり、その内の一人が十代後半の女性というのは他の合格者達を驚かせていた。


 そうした物珍しい視線を向けられるアリア本人は、変に目立つ事になってしまい講習が始まる前に不機嫌な様子で隣に座るエリクと話す。


「――……こうなるなら、五等級で合格した方が良かったわね」


「そうなのか?」


「ギルドマスター権限で二等級になるって、特権的な印象じゃない? そういうのは偏見で見られ易いから嫌なのよ。それに、目立って私達のことを探る連中が出てきても面倒だし」


「……そうか、そうだな」


 小声で愚痴を話すアリアに対して、エリクは納得した様子を浮かべる。

 そんな二人を他所に、入室したギルド職員が合格者達に説明は始めた。


 傭兵ギルドは人間大陸の国家間で連盟される『四大国家(よんだいこっか)』に認められた多国籍機関で、主に魔物や魔獣の討伐や護衛等の仕事を請け負う為の組織らしい。

 時には人同士が争う戦争に雇われる事もあるが、そうした依頼については強制的な部分は無く、依頼が出されても受けなければ参加する必要はない。


 しかし国が抱える傭兵として雇われればそれなりの待遇と高給が約束される為、意外と国に雇われて戦争に参加する傭兵も多いらしい。

 そういう国の依頼を受ける場合は傭兵ギルドとの間で幾つかの制約を課せられ、それに国が違反した場合には莫大な違約金を要求され、逆に雇われた傭兵が違反した場合はギルド側が違約金を支払う。

 そして違反した傭兵は四大国家の法案に(もと)づき、重い罰則が課せられる。

 

 傭兵が依頼を受ける場合には報酬金額の四割程度をギルドが仲介料として受け取り、傭兵側には成功報酬として残りの報酬金額が支払われる。

 物要りの依頼では前金が支払われる場合もあり、その場合は成功報酬から四割が仲介料として取られるが、階級(ランク)を上げる毎にその割合は減少していく。


 これに関しては極めてデメリットが大きいように感じるが、傭兵ギルドが認可された国に往来する際にギルドの参加章となる認識票を提示する事で、都市や町の入場費や通行費が免除される。

 また武器や防具を始めとした道具の類をギルドに関わる商人達から比較的に安く交渉し、購入する事ができる交渉権限が与えられた。


 それを維持する為に仲介料を割高に徴収する事で、上手く調整しているらしい。

 傭兵ギルドに加入したい者達は、主にこの特権を目的として加入する場合が多いようだ。


 そしてもう一つの主な内容として、傭兵ギルドの傭兵がその国に居る人間を殺した場合について説明される。

 まず殺めた人間が野盗や盗賊だと国が判断する犯罪者の場合、傭兵ギルド加入の傭兵が殺しても罪に問われる事は無い。


 しかし罪状も無い国民を傷付け害した場合、状況次第で重い刑罰が傭兵ギルドと国から受ける事態になる。

 もしその刑罰を逃れる為に逃走などした場合は更に罪科が増し、懸賞金を賭けられ賞金首となって同じ傭兵達から追い回され、捕まって犯罪奴隷になるか最悪の場合は殺されるらしい。


 更にギルド所属の傭兵同士は、対立する立場の依頼を受けない限りは私闘の類は禁止している。

 またそれを破った場合には、原因となった加害者側には重い罰則が課せられ、軽ければ違約金を支払うか悪ければ傭兵ギルドの登録を抹消され犯罪奴隷となる場合も少なくない。


 他にも様々な制約や保証が説明されるが、途中でエリクが頭の容量を超えてしまった為にアリアが全ての説明を覚えることになる。

 そして一時間に渡る説明を終えた傭兵ギルドの職員は、最後に合格者達に対して声を向けた。


「――……以上で、説明を終わります。何か皆様の方から、質問などはありますか?」


「……」


「質問が無ければ、以上で説明を終了致します。合格者の皆様には、傭兵ギルド加入者としての認識票が与えられます。明日の昼頃には完成いたしますので、当ギルドの受付まで御越し下さい。またいかなる理由であっても、認識票(それ)を紛失し再発行する場合は料金として金貨百枚を頂きます」


「金貨、百枚……!?」


 ギルドの職員が発した言葉に、合格者達のほとんどが驚愕した面持ちを浮かべる。

 金貨百枚分と言えば、贅沢な暮らしをしなければ帝国でも家族単位で十年以上を暮らせる金額だった。


 その話に驚く合格者達に対して、ギルド職員は改めて説明する。


「先程も御説明した通り、認識票は貴方達の身分を証明する物です。また傭兵ギルドにおいては、貴方達自身の強さに対する信頼を現しています。それを紛失し奪われるような事は、皆様の『傭兵』としての信頼と信用に関わります。それを金貨百枚で再発行できると考えて頂ければ、安いものでしょう」


 そう説明された事ながらも、数名が不服そうな顔を示す。

 しかしアリアは、それを当然だと考えながら聞いていた。


 国の国境や町へ無料で通行できる認識票は、悪人に奪われれば悪用される可能性が極めて高い。

 それは傭兵ギルドに責任の負担が大きく掛かる事を考えれば、ただの認識票(てついた)だと思えるモノの価値は金貨百枚では利かないモノとなるだろう。


 更に再発行の手間も考えれば、傭兵ギルド側はそれだけ搾取しても問題無いとアリアは考える。

 むしろ自分達の認識票を守る事こそ傭兵ギルドに加入した傭兵達の最低限の条件なのだと、後にアリアはエリクに説明した。


 そして説明を終えたギルド職員は、改めて一礼しながら述べる。


「……他に質問等々がありましたら、受付までお越し下さい。これにて、説明を終了致します」


 こうして合格者達に対する講習は終わり、それぞれが部屋から退室し始める。

 そしてエリクとアリアも退室する為に部屋の扉を出ると、そこで待ち構えていた傭兵ギルドマスターのドルフに声を掛けられた。


「――……よぉ、御苦労さん」


「あら。さっきはどうも、ギルドマスター」


「こちらこそだ。……お前さん達に、ちょいと話がある。俺の部屋まで来てくれないか?」


「話?」


「内緒話だ。お前さん達にもその方が都合がいいだろう。――……王国傭兵団の団長と、公爵家の令嬢様よ」


「!」


 軽い言い回しながらもニヤけながら小声で話すドルフに、二人は僅かな戦慄を走らせる。

 すると二人は一瞬にして身構えると、ドルフは慌てながら言葉を続けた。


「ま、待て待て。俺は別に、お前達を捕らえて帝国や王国に引き渡そうなんて考えてない」


「……じゃあ、どうする気?」


「その辺の話もしたいから、俺の部屋に来てくれ。お前さん達にとっては、良い話だろうぜ」


「……」


 そう伝えたドルフは背中を見せながら歩き始め、二人は訝しげな表情を強める。

 しかし自分達の素性を知るドルフの狙いを探る為にも、二人は敢えてその背中を追うように歩き始めた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 悪用可能な認識票を悪人かどうかの審査もなく発行するのはおかしいのではないか そもそも自己申告された情報しかないのに身元の保証をしてはいけません
[気になる点] 報酬金額の5割がギルドの取り分というのはいささか多いのではないか 半額で傭兵が雇えるのならギルドを通さずに直接雇用しようとするのではないか
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