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【完結】虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました  作者: オオノギ
螺旋編 五章:螺旋の戦争

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経験の差


 浮遊都市に起きる巨大な振動と、その直後に垣間見える赤く光る中央の黒い塔と空。

 その光景が都市に現れる少し前、黒い塔の頂上内部で『神』と対峙していたエリクは激しい戦いを続けていた。


 箱庭の自然の中を駆け巡り、二人は互いに杖と武器を振るいながら戦う。

 しかし予想外にも、『到達者(エンドレス)』となり『神兵』ランヴァルディアと同等以上の身体能力を駆使する『神』に、あのエリクが善戦している形だった。


「ちょこまかと……ッ!!」


「遅いッ」


 『神』は周囲に展開した数多の魔力球を絶え間なく放ち、同時に自然物を利用した土杭や葉や枝、そして大木すら斬り裂きエリクに投げ放つ。

 しかしエリクはそれを目にも止まらぬ速さで動きながら植物の蔦を一瞥すらせず回避し、同時に攻撃の隙間を縫うように『神』に接戦を持ち込もうとしていた。


 その動きは『青』の情報を得て『神』が把握していたエリクの身体能力を超えており、本来であれば既に殺せてもいい時間が経っている。

 しかし三十年前と違い、(なか)で鬼神フォウルと夥しい戦闘経験を積んだエリクは間違いなく『聖人』としての身体能力と生命力(オーラ)の技術を遺憾なく発揮していた事が、『神』の計算を超えていた。


 そんなエリクの(なか)で、制約(コピー)のアリアは今の『(アリア)』をこう語る。


『――……やっぱりアイツ、戦闘に対する経験値が圧倒的にエリクより劣ってる。馬鹿みたいに威力重視の強力な魔法ばっかり使って、到達者(エンドレス)としての潜在能力(ポテンシャル)を引き出せてないのね』


「……」


『アレだけ鬼神(フォウル)に嫌味を言われながら戦った貴方なら、余裕でいけるわ!』


「ああ」


 (なか)でそう告げる制約(コピー)のアリアに対して、エリクは『神』に向かい素早く駆け跳ぶ。


 再び近付いて来るエリクに『神』は苛立ちの表情を色濃くし、片手を向けてエリクに対して特大の『聖なる光(ホーリーレイ)』を放ち穿った。

 しかしエリクはそれすら横に大きく跳び避け、同時に身を翻しながら地面に生える大木に両足を着けて着地しながら停止し、その大木をバネ代わりにして更に『神』に近付く。


 夥しい数の魔法で迎撃しているにも関わらず、僅か十秒にも満たない時間で一気に距離を詰められた『神』は、焦りではなく苛立ちによって更なる魔法を行使する。

 自身の両手に発生させた雷を纏い杖に集めて膨大な放電現象を生み出し、それをエリクに向けて躊躇も無く放った。


「一片残らず、焼け死ねッ!!」


「!」


 『神』が放ったのは、先程エリクを中空に打ち上げた際に放った龍の顎を形作った(いかづち)

 しかし威力や速度は先程より遥かに上回り、エリクは避ける間も無くその電撃を浴びる。

 同時に周囲の地形や自然も焼け焦げるように消失し、『神』の前方から数百メートル以上の自然が一気に焼失した。


「フ……ッ」


 今度こそ電撃がエリクに直撃した事を確認し、『神』は口元を微笑ませる。

 しかし次の瞬間、『神』は驚愕の瞳と表情を露にして雷が放たれる前方を直視した。


「……!?」


「――……ォオオオオッ!!」


 『神』が見たのは、電撃の中を凄まじい速度で駆け抜けるエリクの姿。

 エリクは身に纏うミスリル製の黒い外套(マント)を自分の前方に盾代わりにして被り、電撃を防ぎながら接近していたのだ。


 しかしミスリルの耐久性を超えた魔力の電撃を浴び続け、瞬く間に外套(マント)が焼失していく。

 それでもエリクが接近する速度の方が遥かに早く、ついに真正面からエリクは『神』の隙を突いた。


「チッ」


「ォアアアッ!!」


 舌打ちを鳴らし電撃を解除した『神』は黒い大剣の薙ぎを避けて跳び退き、それを追うようにエリクが凄まじい速度で跳ぶ。

 そしてついにエリクが振るった黒い大剣が、それを迎撃する『神』の杖に触れるように撃ち合い、金属音と共に周囲一帯に凄まじい衝撃が生まれ、旋風が吹き荒れた。


「――……お前如きに、私が苦戦なんて……!」


「……お前は強い」


「!」


「だが、前の君(アリア)より怖くない」


 両手で掴む黒い大剣を押し込むエリクは、『神』に対してそう告げる。


 エリクは魂の世界で得た鬼神フォウルとの戦闘経験によって、七大聖人達(セブンスワン)すら圧倒する『神』に拮抗する戦士に成長していた。

 そんなエリクの戦い方と言葉を受け、『神』は更なる苛立ちと深い憎悪を見せた表情で呟く。


「……調子に乗ってんじゃないわよ。……もういいわ」


「?」


「言わなかった? 家を建て直すのが面倒だって」


「……!!」


「アンタ諸共、全て消し飛ばす」


 『神』はそう呟きながら肉体から生み出す生命力(オーラ)と同時に、赤く光る心臓(コア)から夥しい量の魔力を放ち始める。

 それに気付き悪寒を走らせたエリクは、押し込んでいた大剣をすぐに引かせて後ろへ飛び退いた。


 しかしそれにより早く、赤い魔力(マナ)と白い生命力(オーラ)が混ざり合った力が『神』を中心に広がり、以前に『神兵』ランヴァルディアが見せた行動と重なる。

 それは膨大な自身のエネルギーを自爆させるという、単純かつ豪快な荒業だった。


「死になさい」


「!」


 そう告げる『神』の呟きと同時に、二人は赤と白が混ざり合う光の中に溶け込む。

 更に『神』を中心とした大地が巨大な爆発を引き起こし、周囲一帯は衝撃と爆風で完全に吹き飛ばされた。

 それは空間内に築かれた自然物を粉々に破壊し、『神』が住んでいた建築物や周りの畑なども残さず消し飛ばす。


 そして数十秒後。

 爆発の中心地に残っていたのは、浮遊したまま服さえ傷付いていない『神』だけだった。


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