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登録試験


 傭兵ギルドに登録する為に赴いた二人は、そこで課せられる試験へ挑む。

 そして無事に合格したアリアに見送られるエリクは、試験官である男と共に試験会場へ向かった。


 扉を潜りエリクが歩きながら感じたのは、僅かに傾斜を下げ続けている廊下。

 自分が地下へ降りていくのを察していた中で、数十メートルほど進んだ先に在る大きな扉に辿り着くと、試験官の男はそれを開いた。


 その先には薄暗くも明かりが灯されており、エリクはそれを見ながら小さく呟く。


「――……ここは……?」


「審査会場だ。ここで、お前の強さを見させてもらう」


 試験官の男はそう述べ、その先へ歩み進む。

 するとエリクもその背中を追うように歩き、周囲を見回しながら会場内に入った。


 そこは石畳で造られた円形状の舞台(ステージ)であり、周囲には高い壁の先に観客席と呼ぶべき場所が備え付けられている。

 それを見たエリクは樹海で戦った闘技場を思い出していると、試験官の男が立ち止まったのに気付いて自らも足を止めた。


 すると次の瞬間、エリクは試験官の男が立つ先に在る壁の影に違和感を抱く。

 そしてその気付きに反応するかのように、壁の影から突如として外套(ローブ)を羽織った一人の中年男性が現れた。


「!」


 試験官の男以外に人の気配を感じなかったエリクは、突如として気配と姿を現した男に驚愕する。

 そして警戒しながら身構えようとするエリクに対して、影から出て来た男はニヤけながら声を掛けた。


「――……お前さんが、次の受験者でいいか?」


「……お前は?」


「俺はドルフ、ここの傭兵ギルドで支配人(ギルドマスター)をやってる」


「ギルドマスター……?」


傭兵(ここの)ギルドで一番偉いってことだよ」


 支配人(ギルドマスター)を名乗り現れたドルフは、ニヤけた表情のまま自身の名と立場を教える。

 それを聞いたエリクは言葉を理解しながら、自身が抱いた奇妙さを問い掛けた。


「……さっきまで、そこの男しか気配は無かった。隠れていたのか?」


「まぁ、そんなモンだ。……その風貌、お前さんもしかして……さっき来た嬢ちゃんの言ってた相棒か?」


「!」


「あの嬢ちゃん、頼もしい相棒と組んでるって言っていたぞ。お手並み拝見ってとこだな」


 そう言いながらニヤけた笑みを強めたドルフは、ここまで連れて来た試験官の男を視線で下がらせる。

 すると壁から差し込む影に立ったまま、エリクに対して試験内容を説明した。


「それじゃ、試験内容を簡単に説明するぞ。――……今からお前には、俺が作り出す魔物と戦ってもらう。審査の評価は、俺自身(ギルドマスター)がしてやる」


「……魔物を作り出す?」


「ま、見てれば分かる。――……『陰影なる闇の怪物(シャドウ)』」


「……!」


 ドルフはそう言いながら大きな右腕の袖口から一本の杖を引き抜いて掴むと、様々な色合いの魔石を取り付けた杖を取り出す。

 そして左手の袖口から黒く小さな魔石も取り出し、それを影が覆う床に置く。

 更に自身の真下に在る影に杖の先端を突くように叩くと、音と共に杖に取り付けられた様々な魔石を光らせ始めた。


 すると次の瞬間、ドルフが投げた魔石を中心に影が蠢きながら黒い物体を浮かび上がらせる。

 それがエリクも見覚えがある四足獣の雑種狼(ワイルドウルフ)を模ると、それを見せたドルフが説明を始めた。


「俺の闇魔法は、影を魔力で操ってこういう物体(モン)を作り出して操れる」


「……本当に、魔物を作り出せるんだな」


「凄いだろ? 俺の独自魔法(オリジナル)だ。まぁ、俺が戦って倒したことのある魔物や魔獣しか作れないけどな。しかも触媒として魔石を使うせいで、金が掛かる魔法なんだがよ」


「……そ、そうか」


「念の為に言っておくが、この試験で怪我をしようが傭兵ギルドでは一切の責任は負わない。自分で治療して自力で怪我を治せ。そこらへんは、加入用紙に書いてあっただろ? それでも、影の魔物(コレ)と戦うか?」


「ああ」


 自身の魔法を説明しているドルフの言葉を上手く理解できないエリクだったが、それでも試験を受ける事を了承する。

 それに応じるドルフはニヤけた笑みを強め、開始の声と共に再び杖を真下の影に突いた。


「それじゃあ――……行けっ!!」


『――……ッ!!』


 ドルフの開始の合図と共に、影狼(かげ)をがエリクに迫る。

 その速度は本物の雑種狼(ワイルドウルフ)と遜色の無い動きであり、その顔を模った影が口を開きながら黒い牙をエリクに向けた。


 しかし次の瞬間、エリクは瞬く間に背負った大剣を引き抜き影狼(かげ)を真正面から両断する。

 すると真っ二つになった影狼(かげ)は空中で崩れ、その中から小さな魔石が現れ地面に落ちながら舞台に照らされた光の中で消滅した。


 その状況に驚愕するドルフは、唖然とした様子で声を呟かせる。


「な……っ」


「……これで、いいか?」


 背中に大剣を戻したエリクは、試験の合否についてそう尋ねる。

 すると呆気に取られていたドルフはニヤけた笑みを戻し、改めて感想を述べた。


「……驚いたな。この影狼を一瞬で倒したのは、今日で二人目だ」


「一人目は、アリアか」


「そう、お前の相棒だ。まったく、どっちも良い腕してやがる」


「これで、試験は終わりか?」


「……次の試験は、俺と一対一で力量を見るってことになってるんだが。……あのお嬢ちゃん同様に、試したい」


「試す?」


「俺が生み出す影の魔物の中でも、最上級の魔物を生み出す。そいつを倒してみろ」


「最上位……?」


「ああ。どうする? もしそいつも倒せれば、お前さんもあのお嬢ちゃんと同等の条件で合格させてやるぜ」


「……分かった、やろう」


 アリアと同じ試験を課そうとするドルフに対して、エリクはそれに応じる。

 それに対してドルフはニヤけた表情を見せ、左袖から赤い魔石を一つだけ取り出した。


 すると赤い魔石を影がある床に置き、再び詠唱を始める。

 そして詠唱を唱え終わると、影で作り出された大型の魔獣が現れた。


「――……『暗き重い(ツヴァイ)陰影なる闇の怪物(シャドウ)』」


「!」


「……ハァ、ハァ……」


「……これは……大蜥蜴(リザード)か?」


 巨大な(ワニ)を連想させる見た目を見たエリクは、それが自分の経験と知識で戦った事のある蜥蜴型(リザード)だと理解する。

 体長は三メートルを軽く超え非常に危険な魔獣種であり、その大顎で噛み砕かれるとその部位は容易く千切り喰われる大型魔獣だった。


 大蜥蜴(それ)を生み出す為にかなりの消耗を見せるドルフは、身を下げながらエリクに告げる。


「そう、中級魔獣に指定されてる大蜥蜴(リザード)種だ。どうする? 止めとくか?」


「……いや。大蜥蜴(それ)なら、何回か倒したことはある」


「ほぉ、余裕そうじゃないか。――……それじゃ、開始だっ!!」


 余裕を見せるエリクに対して、ドルフは僅かに汗を垂らした表情で再び杖で床を突き叩く。

 それと同時に影蜥蜴(かげ)は床を蹴るように走り出し、大きく口を開けながらエリクに迫った。


 再びエリクが背負う大剣の柄に右手を触れて迎撃しようとした瞬間、影蜥蜴の口に赤い炎が灯る。

 それに気付き目を見開いたエリクは、大きく横へ飛び退いた。


 すると次の瞬間、影蜥蜴の口から火炎が放射される。

 火炎放射(それ)はエリクが先ほどまで立っていた場所に直撃し、床を燃やして焦がした。


「これは……!」


「言ったろ、そいつはただの大蜥蜴(リザード)じゃねぇぞ。炎を吐き出す、中級魔獣の炎蜥蜴(フレイムリザード)だ!」


 ドルフはそう話し、自分が生み出した影蜥蜴が炎蜥蜴(フレイムリザード)だと改めて明かす。

 通常の大蜥蜴(リザード)と違い、火山地帯に生息し火炎を吐き出せるよう進化をした炎蜥蜴(フレイムリザード)を、ドルフは影と組み込んだ火属性(あか)の魔石を駆使して再現していた。


 そして影蜥蜴は容赦なく火炎を吐き出し、エリクに浴びせる為に首を動かしながら走り迫る。

 エリクはそれを幾度か回避していると、ドルフは声を張り上げながら伝えた。


「その火炎を防ぐ為に、さっきのお嬢ちゃんは水の魔法を使ったんだ。だがお前さんは、水魔法を使えないようだし。防ぐ手立てはないな!」


「……」


「降参してもいいぞ! あの影狼を一瞬で倒した腕前は認めて合格は出来る。どうする?」


「……いや、もういい」


「降参か!」


「もう、そいつの動きは覚えた」


「なに……。……そうか、なら痛い目に遭っておくんだなっ!!」」


 避け続けていたエリクはそう呟くと、今度は回避せずそのまま床を蹴って真正面から影蜥蜴に迫る。

 それにドルフは驚きながらも口元をニヤリと歪ませて、影蜥蜴から巨大な火炎を吐き出して周囲に散らした。


 迫る火炎によって左右に避けられないエリクは、一見すれば逃げ場を失ったように見える。

 しかし次の瞬間、エリクは迫る火炎を回避するように大きく跳躍した。


「なにっ!?」


 三メートル近い高さと五メートルの飛距離で跳躍したエリクは、そのまま影蜥蜴の頭上に来る。

 そして素早く身を捻りながら背負う大剣を引き抜き、落下速度を利用して刃を影蜥蜴の脳天に突き込んだ。


 その攻撃によって影蜥蜴を形成していた赤い魔石は真っ二つに砕かれ、影狼の時と同じように影蜥蜴は形を保てずに崩れ落ちる。

 時間にすれば二秒にも満たぬエリクの反撃に対して、ドルフや傍で見ていた試験官の男は驚愕を露にしていた。


 そんなドルフに対して、エリクは再び大剣を背に担ぎ直しながら問い掛ける。


「――……これで、審査は終わりか?」


「……」


「おい?」


 呆然とするドルフ達に対して、エリクは幾度か声を掛ける。

 そして意識を戻したドルフは、小さな溜息を漏らしながら苦笑いを浮かべて声を向けた。


「……お前、確かエリクだったか?」


「ああ」


「……そうか。お前さんが、そうか」


「?」


「……文句無しの合格だ。お前と相棒の嬢ちゃんは、今日から【二等級(にとうきゅう)】傭兵だ」


「……二等級?」


「傭兵には格付け、所謂(いわゆる)ランクが存在する。雑魚の魔物を倒せる五等級から、上級魔獣も倒せる一等級の(ランク)だ。お前とあの魔法師のお嬢ちゃんは、単独で中級魔獣級を倒せる実力があると判断した。そういう実力者には、二等級までのランクをギルドマスター権限で与える事が出来る」


「……その二等級だと、何か良い事があるのか?」


「まず依頼の報酬が増える。五等から四等級はギルド依頼で仲介して受けても四割分の金を報酬額から割かれてギルドに取られるんだが、三等級からは危険度と依頼金額が増えて、二割分しかギルドに収めなくていい。依頼人からの報酬を八割の金額で貰えるんだ」


「……そ、そうか。凄いな」


「それに、実力に見合った高位の依頼を受ける事が出来る。二等級だったら、さっきみたいな中級魔獣の討伐依頼が単独で受注可能だ。それに二等級の傭兵同士で組むなら、上級魔獣(ハイレベル)の討伐依頼も受けれるぜ」


「……そ、そうか」


「これからお前さん達は、傭兵ギルドに所属する傭兵だ。宜しく頼むぜ」


 壁の影から出て歩み寄るドルフは、ニヤけた笑みを浮かべながら合格を告げる。

 しかしエリクにとっては、傭兵の(ランク)についての説明が試験内容よりも最も難しい内容だと感じていた。


 こうしてエリクとアリアは、無事に試験を合格する。

 そして傭兵ギルドでは高等級に値する【二等級】の(ランク)を持つ傭兵となったのだった。


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